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『空港ピアノ』と人生と

特に予定の無い休日。
午前中にちょっと息子の自主練に付き合い、午後は家でゆっくり過ごす。
つい何か月か前まで、予定の無い休日がほぼ無かったのが嘘のようだ。

『空港ピアノ』という番組を知ったのはいつだったろう?
もともとテレビ番組を撮って観る習慣も無く「観る番組は一期一会」と思っているかなりいい加減な視聴者だ。『駅ピアノ』も含め、これまで数えるほどしか観ていなかった。

この日たまたま時間が空き、そしてたまたまテレビをつけたら流れてきたのがピアノの音。『空港ピアノ』のオーストラリア・ブリスベン編だった。

空港のロビーにポツンと置かれたグランドピアノ。
誰でもどうぞご自由に弾いてくださいというコンセプトで、固定されたカメラで演奏している姿を撮り、その後演奏者の短いコメントが続く。

通りかかった人がそのピアノに近づき、ポロポロとメロディーを奏でる。
空港を行き交う人々というのはほとんどが飛行機を利用する訳で、どんな用であるにせよまあ大半は「旅人」である。海外遠征に行く女子サッカー選手、病気療養中のジャズピアニスト、実家へ年老いた母に会いに行く女性などなど・・・
たまたまそこに居合わせた年齢も背景も異なる旅人たちが、ある人はプレイヤーとなりある人はリスナーとなってひととき時空を共にする。
空港で働く人の演奏もあった。移民の国オーストラリアだけあってアフリカ系や東洋系の彼らもまた、かつては「旅人」だったのだ。

ナレーションも無く、ただただ淡々と続く演奏とコメント。
『空港ピアノ』という名前の通り「ピアノ」がメインだけれど、私は演奏者が話す部分がひょっとしてこの番組の肝なんじゃないかと思った。演奏中に入るテロップとほんの短い彼らのコメントに、ひとりひとりの人生や背景が見え隠れする。音が伝える情報は膨大だ。聴こえない音の領域も含め。
選んだ曲、ピアノの音色、声や話し方や佇まいがひとつになって、彼らの人となりや普段の生活まで垣間見えるような気がしたのだった。

実際には一生会うことのない人々。
彼らの生活や暮らし、そして人生。
尊い尊いその人生。。。
遠くの国で今同じ時を生きているその人生に、束の間想いを馳せる。

どこからか来て、向かう先は皆それぞれ。行き交って束の間時空を共有し、
微笑みあって別れる。私たちの人生もきっとそういうものだ。

そうありたいと思う。



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