なっちゃんのサルビア
ぶどうみたいな房の形に咲く赤い花、サルビア。
私の通っていた小学校では、高学年の夏休み前に1人1鉢サルビアを植えるという行事がある。
その鉢を大きなビニール袋に入れて持ち帰り、各家庭でお世話する。
小学校4年生の夏、私は初めてサルビアの鉢を家に持ち帰ることになった。
先生の指示に従い、土とまだ葉っぱしかないサルビアの苗を鉢におさめ、白くて大粒な肥料を並べていく。
「毎日たっぷりお水をあげてくださいね。
肥料はあげすぎると虫が付くので、お家ではあげなくて大丈夫です。」
課外授業でテンションが高い生徒たちに向かって先生が説明する。
「赤くてきれいなお花が咲くので、楽しみにしていてくださいね。
みんなが育てたサルビアは、新学期に学校に持ってきてください。
運動会の日に校庭に飾るから、大切にお世話しましょう。」
私たちは「はーい」と手に持ったスコップを振り上げて応じた。
サルビアは道端や公園の花壇に植えられるくらい、強くて育てやすい植物だ。
小学生でも毎日お水をあげていれば十分育てられるだろうと、夏休みの宿題のひとつに選ばれたのだろう。
拳くらいのサイズの苗も、約2ヶ月後には赤く燃えるような花が咲く。
その日を楽しみに、大切に育てようと思った。
水をたっぷりあげたあと、自分の名前を書いたネームプレート土に挿した。
私はサルビアの鉢を抱えて家に帰ると、日当たりが良い玄関の前に置いた。
毎朝ラジオ体操が終わるとサルビアに水やりをし、雑草が生えていたら抜いてあげる。
が・・・。
当たり前だが、そんなにすぐ「赤くてきれいなお花」は咲かず、ただ葉っぱが生い茂っていくだけ。
三日坊主よりは粘ったものの、水やりが2日に1回、3日に1回・・・と、徐々に関心が薄れていった。
新学期になり、サルビアの鉢を学校に持っていく日がやってきた。
前日の夜、枯れ果てたサルビアをとりあえずビニール袋に入れた。
1学期の終わりに持って帰ってきたときと比べるとものすごく軽かった。
最後の悪あがきに一応水をやってみたが、カリカリになった苗が再び元気になるはずもなく、じわじわと土が水を吸う音が虚しかった。
枯らしてしまったのはもう取り返せないから、諦めて先生に謝ろう。
そう腹を括って布団に入ったが、今さらながらサルビアのことが気になって、なかなか眠れなかった。
翌朝、一緒に登校している友達がいつもどおり私の家に迎えにきてくれた。
袋からもうすぐ咲きそうなサルビアが顔を覗かせている。
それを見ると、枯れたサルビアを持っていく恥ずかしさが改めて込み上げてきた。
今日、みんな自分が育てたサルビアの鉢を持って集まる。
そんな中ひとり枯れた鉢を抱えて立っている自分を想像すると、学校に行きたくなくなった。
今日は持ってくるのを忘れたことにしようかな・・・
先延ばしにする意味がないのは分かっていたけど、私は玄関脇に置いたビニール袋をスルーして友達のところへ行こうとした。
しかし、私のずるい心を知ってか知らずか、「なっちゃん、サルビア忘れてるよ!」と友達が玄関の方を指差した。
「あ。うん・・・本当だね。」
私は渋々玄関に戻り、足元のサルビアに視線を落とした。
あれ・・・?
私は目を疑った。
昨晩確認したときは確かに枯れていたサルビアが、ふっくらとした蕾をつけている。
よく見ると、中にメモが入っていた。
「なっちゃんへ
なっちゃんのサルビアはおばあちゃんが育てたものと取りかえっこしたよ。
来年は一緒にお世話しようね。
おばあちゃんより」
私が顔を上げると、いつものように庭で土いじりをしている祖母と目が合った。
抜かれた雑草の山の中に枯れたサルビアも転がっていた。
祖母はにっこり笑うと、早く行きなさいというように手を2回、外向きに振った。
「ありがとう、いってきます。」
私は祖母に大きく手を振り返し、サルビアの入った鉢を持ち上げた。
昨日とは違い、ずっしりした重みがある。
落とさないようにしっかりと抱え、友達の方へ駆け出した。
学校に着くとそのまま校庭の指定された場所にサルビアを持っていった。
私は堂々と袋からサルビアを取り出し、みんなの鉢と同じ場所に並べた。
「あれ…?」
さっきまでは気がつかなかったけれど、なでしこ、と自分の名前を書いたはずのネームプレートが、祖母の字で「サルビア」に直されている。
お…おばぁちゃん…。
それは花の名前じゃなくて自分の名前を書いたんだよ…。
私はこっそりプレートを抜き、ポケットにしまった。
この記事は「お花とエッセイ」コンテストに参加しています🌼
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締切は10月15日(金)までです😊
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