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【夏休み大人の自由研究】風の道を訪ねて(1)

暑い日が続く。夏は暑いのに決まってるとはいえ暑すぎる。

最近、携帯扇風機をよく見かけますよね。手で持つタイプや首にかけるタイプまで一億総携帯扇風機時代の到来を予感させる。あれ、本当に涼しいんでしょうか? うちわや扇子ではダメなのでしょうか? そもそもこれだけ暑いと生温い空気を顔に吹きかけているだけなのではないのでしょうか? そしてどう見ても間抜けだ。携帯扇風機を顔の前に掲げて歩いている人を見ると、ロンパールームの「鏡よ鏡よ鏡さん、みんなに会わせてくださいな、そーっと会わせてくださいな」のうつみ宮土理がダブってしまう。
そして風は感じるもので持ち歩くものではないはずだ。

といっても昼間は街に風が吹いていないので暑い。

かつては街にもうすこし風が吹いていたような気がする。山からの風と海からの風があるから大阪や京都の夏より涼しいとかなんとか言ってなかったっけ?いや単に風を感じなくなっているのかもしれない

東京から神戸に移住された稀代の作詞家、松本隆先生が新聞のインタビューでこんなことを言われていた。

「僕の部屋から神戸港が見えるんです。窓を開けると海風が入ってくる。山側の窓からは六甲の風。風が通って、夏でも涼しいんだ。凪(なぎ)の時間も決まっていて、風が止まって急に暑くなる。東京にはない風、そう、風がはっきりしてるんだ。そこが気に入ってる」
朝日新聞『「人間の顔、まず影を描く」 松本隆さん、今は神戸に』

ほら、風街生まれの松本先生もこうおっしゃってるではないか!

どどーん
風の吹かない原因の一つはマンションではないだろうか。衝立のようなマンションが視界と風の通り道を塞ぐ。以前ここからは摩耶山が見えた。摩耶山が見えたということはこの道には山からの風が吹いていた。そういう風の通る道が町内に1本や2本あったはずだ。
今も風の道はあるのだろうか?ということで風を探して歩いてみることにした。携帯扇風機を捨てて街へ出よう。

風の道を探す

国土技術政策総合研究所の『ヒートアイランド対策に資する 「風の道」を活用した都市づくりガイドライン』という資料によると神戸市の六甲山系の南麓で夜間冷気流がおこり、谷沿いから低地の市街地の河川や街路に「風の道」ができるという。なんとなく街中に吹く風ではなく、松本隆先生お気に入りの神戸に吹く「はっきりとした風」だ。

国土技術政策総合研究所資料『ヒートアイランド対策に資する 「風の道」を活用した都市づくりガイドライン』

これを灘区の地図に落としてみると。

1.貧乏川系風の道 2.杣谷川系風の道 3.六甲川系風の道 4.シル谷系風の道となる(勝手に命名してます)

山からの冷気が降りて来る夜を待って、この資料に図示されている場所を訪れてみた。北西の風2m、ビールも飲んで準備万端だ。

夜な夜な住宅街をうろつくので六甲縦走キャノンボールTシャツを着る。これで怪しまれることはないだろう。

まずは灘中央筋(旧国魂線)を北上。もう風を感じる。この道は灘区で唯一山裾から海まで一直線に繋がっている道だ。つまり丸山公園下からノーブレーキで自転車で下ると灘浜にダイブできる。誰かやってみてください。

貧乏川系風の道

そして北上して第1のポイント「貧乏川系風の道」へ向かう。それにしてもしみったれた名前だ。

市バス2系統のバス道を越えると風を感じた。右手に小さな橋の上に立つとはっきりとした風が頬を撫でる。風の道だ。

真っ暗で何もわからない。写真に撮るとよけいにわからない。しまった。
さらに風をたどりながら灘百名路地の一つ、薬師通地蔵小道へと進む。「風をたどりながら」っていいな。まるで松本隆みたいだ。(先生すいません)

細い路地を川が流れるようにひんやりとした風が渡る。しかし暗い。暗すぎる。

昼はこんな感じ。左の小さな川が貧乏川。奥に見える摩耶山で冷やされた風が川に沿っておりてくる。

短い地蔵小道を抜けると貧乏川は摩耶山に向かって一直線に伸びる。この辺りまで来ると風の匂いに明らかに山のそれに変わる。早速テイスティングしてみよう。

香りは芳醇で華やか。中腹のスダジイやアカガシの香りも感じられる。腐葉土のスモーク香や発酵香、タゴガエルの香りなどが調和。アタックはまろやかで柔らか。広がりにはしっかりとしたミネラルを含む渋みを感じ、肌への刺激はなめらかで余韻が続く。(田崎伸也風に)

それはそうとさっきから犬を散歩させている住民たちが明らかに僕を避けている(怪しんでいる)のが気になる。キャノンボールTシャツの効果は全くない。いや、そんなことを気にしてては風を感じられない。通報される前に先を急ぐことにする。(つづく)


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