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たったひとつのウェディングソング


それは今から6年前のこと。
私たちはこの世にたったひとつのウェディングソングをあるカップルに贈った。

うちのバンドのリーダーの知り合いだった彼とその奥さんは、学生時代からお付き合いをしていて、いよいよ結婚するということだった。私たちは普段、ウェディングの現場でライブをすることが多かったが、今回のような依頼は初めてだった。

彼が書いた奥さんへの手紙を歌詞にして、オリジナルソングをプレゼントしたい。

そんな願いを受けて、私たちは創作活動に挑んだ。

彼が書いていた手紙から伝わってくる温かみと愛情に、自然とメロディが浮かぶ。英語の歌詞を少しばかり足して、メロディは比較的すんなり完成。トラックを創り、楽器を入れて、それぞれの歌声を重ねて。レコーディングし、ミックスされて出来上がった一曲のデモテープ。

年始に実家から新幹線で東京に戻る新幹線の中でそれを聴いた。
自分の声が自分じゃないみたいだ。みんなの声が愛おしい。思わずにやけてしまうほどだったから、これはきっと、彼らにも喜んでいただけると確信した。

それから年明け早々に、彼にまず曲を聴かせた。自分たちの作品を、大衆ではなく二人だけに届けるのは初めてだったから、そのリアクションを生で見ること自体が貴重で、さらに奮い立たされた。

ああ、もっと作品を届けたい。

***

彼らは知る人ぞ知る海辺のヴィラみたいな場所でウェディングを挙げた。
私たちはその本番が来るまでは、外のお庭で自由に歌いバックグラウンドミュージックを奏でていた。
人は自然の近くだと勝手にリズムに乗ってしまうものなんだろう、そこにいたゲストたちは皆体を揺らしていた。

日が暮れてきて、ちょっぴり肌寒くなってきた頃、サプライズが近づいてきた。私たちは大きな扉の向こう側に待機していて、緊張と楽しみな気持ちが入り混じりながら扉が開く瞬間を待っていた。

イントロが流れ、彼が手紙を読み始める。きっと向こう側で、彼女はびっくりした表情をしていただろう。読み終わる頃に扉が開いて、ゲストと彼らの前に登場した私たち。

「ダダッタダッタタン、ジャーン… そしていつの日か…」

***

歌を届けるというのは、こういうことだったんだなあと今でもしみじみ思う。

それから5, 6年経った今の私たちはというと、一人は都内でデザイナーをしていて、一人は東京に戻ってきて音楽活動を本格始動、一人は静岡で歌いながらママをやっていて、一人はアメリカで牧師になるために勉強していて、一人は都内で書きながらたまに歌っている。
歌を届けた夫婦には、いま二人の子供がいる。

この数年でそれなりに酸いも甘いも経験した私たちは、多分だけどあの曲は今だったら描けなかった。

最近ではめっきり集まることも少なくなって、最後に集合したのはメンバーの結婚式だ。歌の通り、誰かによって世界は変わるし、目の前に見える景色はどんどん変わっていく。私たちも皆変わった。

でも、その時の私たちがいたということ。
今もなおどんな形であれ創ることが好きだということ、それだけは変わらないんだろう。

次は、どんな人に何を届けられるだろうか。

”Change My World"

そしていつの日か
呼び方が変わり
僕の人生も大きく変わった

一日中ぼんやり過ごしていたのに
誰かのためにがんばろうって
そう教えてくれた

Change my world
これからどんな未来に変わるかな?
今はまだ
Don't know
We'll just have to figure out
わからないけど
きっと二人でそれをみつけるだろう

そしてたくさんの仲間に出会えて
僕らがいまここにいるんだね

これから始まる二人の第一歩を
ここにいるみんなと過ごせてよかった

Change my world
すべてのことをうけとめて
支えてくれる この先何年
Don't know
We'll just have to figure out
わからないけど
ぼくらをみてくれているだろう

だから自信をもって歩いていけばいい
二人だけの夢を胸に
なにがあっても楽しみながら
へこんだ時こそ支え合いながら

もしうまれかわったとしても
同じ道選んで、同じ時を過ごしたい
二人だけの人生胸に、
磨いていこう、そして刻んでいこう
僕らだけの世界へ

Change my world
これからどんな未来に変わるかな?
今日から二人で
ずっとwe're together all the way
Baby we're all here to celebrate
ゆっくりと共にいこう

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