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世間に転がる意味不明:誰がそれを望んだのか(民泊とウーバーとライドシェア)

■規程路線化しているライドシェア

○ライドシェア4月解禁を正式発表、地域・時間を限定…都市部でも早朝や深夜に利用可能の見込み
2023/12/21

政府は20日、首相官邸で「デジタル行財政改革会議」(議長・岸田首相)を開き、改革の中間取りまとめを報告した。一般のドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶ「ライドシェア」について、地域や時間帯を限定して来年4月に解禁すると正式に発表した。膨張する国の基金の点検や見直し方針も盛り込んだ。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231221-OYT1T50022/

ライドシェアについては多くの問題が混在している。

①過疎地、地方として交通弱者向けの交通機関の確保
 これは、路線バスのの廃止問題が関連する。
 しかし、これはかねてからの問題でもあった。

②観光地での交通手段の欠乏
 インバウンド政策は国策であり、課題は明らか何に何も手を打ってこなかったのは行政である。市場に任せるというならウーバーで良い。

③人手不足を誘発する待遇の悪さ
 人手不足とは言うが、これが高給を担保されるなら皆喜んでタクシー運転手になるだろう。長時間労働をしなければ生活できない賃金体系に手を打たなければならない。労働時間の規制では何も解決しない。

④タクシー会社の経営支援
 収入源がタクシーの乗車料金だけであれば、乗降客数が少なくなれば経営を圧迫し,乗降客が多い観光地にタクシーを多く配車して利益が出たとしても、観光地以外はビジネスが成り立たない。

さて、これは、過疎地・地方都市の問題、インバウンド政策、労働問題、企業経営の問題などが混在している。何をターゲットにするのかで施策が異なるのに対し、政策は総花的であり、業界に配慮した偏りを見せる。

これはどこかで見た話だ。

■民泊の轍

インバウンド需要が急拡大し、観光地での宿泊施設の不足の問題があり、これに対しての対策として「民泊」に着目して施策が展開された。いわゆる「民泊新法」である。

民泊については、すでにAirbnbが日本で展開しており、民泊を希望する人々も多くおり期待されたが、宿泊事業者への配慮が優先され、規制や制約の多い「民泊新法」が発行された。
(参考)
○住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/law1.html

しかし、業界に配慮することを優先したために、それまで活動してきた事業者を苦境に立たせる副作用もあった。
このあたりの実情については下記が参考になるだろう。

○夜明け前に終わった「日本の民泊産業」の末路
日本の観光業界とAirbnbという最悪コンビ
2018/07/17

「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が施行されてから約1カ月。日本でも民泊の雄になると期待されていたエアビーだが、実際は微妙だ。それどころか、新法施行2週間前、観光庁はエアビーに対し、新法に基づく届出のない部屋の予約をキャンセルするよう要請。これにより「違法民泊」がエアビーのサイトから大量削除され、多くの観光客が混乱する事態となった。報道によると、新法施行前は日本には約6万件ほどの民泊があったが、足元では新法に基づいた民泊数は3451件で、旅館業法に基づいたものは約2万2000件になっている。

https://toyokeizai.net/articles/-/228963

とはいえ、届出が増え、利用者が増えたことは事実であろう。

○民泊利用者200万人 物件少なく、浸透道半ば
2019年3月15日

民泊を本格解禁した住宅宿泊事業法(民泊新法)での営業届け出が始まって15日で1年。出足は低調だったが、受理件数は新法施行時の6.2倍の1万3千件に増加。宿泊者数も200万人を超えたもようだ。届け出をしない「ヤミ民泊」も残り、規制も根強いが、日本でもじわり浸透し始めている。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42485890U9A310C1TJ1000/

○住宅宿泊事業法の施行状況
住宅宿泊事業法の届出状況
住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況(令和5年11月15日時点)
・ 住宅宿泊事業の届出件数は36,768件、うち事業廃止件数が15,300件
  ※ 平成30年6月15日時点における住宅宿泊事業の届出件数は2,210件
・ 住宅宿泊管理業の登録件数は2,097件
・ 住宅宿泊仲介業の登録件数は73件

https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/construction_situation.html
ライドシェアについても多くの類似点がある。

①インバウンド政策と密な関係がある
②タクシー業界に配慮している
③海外事業者(たとえばウーバー)を排除したい
④新たな供給者の声を無視している

最後の④については説明が必要かもしれない。
民泊の場合には「民泊を運営したいという人の声」、今回は「ライドシェアをしたいという個人の声」である。そうした声に応えるという報道を見たことがない。

■結果の推論

結局、民泊はどのような結果をもたらしたのだろう。これについての振り返りが行なわれていないわけではないが、どうしても表層的なアンケートにとどまり、実態が分からない。

○住宅宿泊事業の実態調査 2022年3月 観光庁観光産業課 民泊業務適正化指導室
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf

こうした状況の中で、分析的な論文があり興味を引かれる。

○日本のホテル産業は本当に「民泊解禁」の影響を受けたのか 2019年
https://www.seiunkai.net/images/library/ronbun/2019/2019_2.pdf

この中で、民泊の事業者が展開されるのは都心に近い箇所であり、地方の観光地にはそれほど展開されないとしている。そのため、地方の旅館ではそれほど影響はなく、都心においても、ラグジュアリーホテル、ビジネスホテル、いわゆる簡易的なシティホテルではニーズが異なるので影響があるにしても事業が異なりとしている。

これは中々興味深い。

ライドシェアも同じ道をたどるのだろうか。

①見捨てられる過疎地
タクシー-会社がビジネスにならないと撤退している地域の状況が好転されるわけではない。自らの意思でライドシェアを管理できない法律で過疎地問題は解決されない。
②都市部で活発化するライドシェア
ビジネス環境で見れば、安定した乗降客数が見込める人口の多い地域に進出することは自明である。簡単に過当競争が起こり、タクシー運転手の賃金問題に焦点が当たることはない。

民泊では社会課題は何も解決されなかった。それはそうであろう。最初のスタートラインでは「観光地の宿泊施設不足」だけがクローズアップされていただけで、しかもそれは解決されたかどうか分からない。

規制の塊のような「ライドシェア解禁」になったとしても、地方の交通弱者対策にはならないし、タクシー業界の救いの手にもならない。タクシー運転手の賃金もライドシェアタクシー運転手に雇用機会を奪われますます低賃金化する恐れがある。

こうして、ライドシェアは民泊と同じ運命をたどる。

(2023/12/23)

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