見出し画像

晴耕雨読:「学習する組織」(構造を理解するための共通言語:第5章 意識の変容)

前回の第4章に続いて第5章です。

■はじめに

 ピーター・センゲの「学習する組織」(邦題)は原書名を表していないし、誤解を招きかねない訳である。この本は、私の見る限り、企業がその競争力を維持するためのヒントを示した本である。ノウハウ本でもなければ技術本でもない。
 散文的に話題がちりばめられた本書は難解であり、その取り扱いには悩むだろう。

 前回までのおさらいをしておこう。
 第1章で5つのディシプリンがキーであることが示された。
 そのため、第8章から、下記のディシプリンについて読み解いた。
(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン
(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習
 ここで明らかになったことは、経営とは命令通りに人を動かすことではなく、個々人の尊厳の上に成り立つ組織で共有される理想像が必要であり、それを元に組織でのイノベーションを生み出す為には前提に囚われないダイアログによる発見が必要であると言うことである。

 では、ひるがえってこうしたことに反する「学習しない組織」とはどんな組織であろうか?この答えが第2章と第3章に記載されていることを確認し、その中核となる考え方に「構造の理解」があることが明示されている。

 この「構造の理解」こそが「システム思考」の要諦になる。
 それについて「第Ⅱ部 システム思考-「学習する組織」の要になる、
 では、第4章から以降、何が書かれているのだろう。

簡単に言えば
第4章・・・社会システムの「構造」は、複雑であり、間違った理解は問題解決につながらないことを示す。
第5章・・・正しく理解するためには「共通言語」が必要であり、それはどのようなものであるかを示す。
第6章・・・そして、共通言語である「ループとフィードバック」が実際の社会システムでどのように表現されるのかのテンプレートを示し、理解を促す。
第7章・・・こうしたテンプレートの実際の活用事例を示すことにより、システム思考の重要性、学習すると言うことの本質を示す試みをしている。

こうしたことを受けて、第Ⅲ部の最初のディシプリンにつながる。

■第5章 意識の変容
「第4章 システム思考の法則」では、その最後に「レバレッジは相互作用の中に見つかるのであり、自分の手の内にある断片だけ見てもその相互作用は見えない」として、「システム思考は切り離された「他者」などいない」ことに注意を向けさせた。
 ・線形の因果関係の連なりよりも、相互関係に目を向ける
 ・スナップショットよりも、変化のプロセスに目を向ける
ことが、システム思考の品質であると説く。

 そのシステムは複雑でありダイナミックに相互作用が起きている。こうしたシステムを表現するためには、通常の我々の言語では表現できない。一般的には我々が使用する言語は一次元でしかもものを表現できない。たとえば料理の手順は時間軸上に並べられた所作でしか表現できない。

長い間、システム開発も一次元で処理を行なう概念しかなかった。今でもプロジェクトマネジメントの表現方法は一次元である。ここに、オブジェクト指向という概念が入り込み、これを表現するための言語(UMLなど)が開発された。しかしいまだに不完全である。

第5章では、最初に「世界を新たな視点から見る」として、相互に影響し合う様をループズで表現している。システムの複雑性やダイナミクスの説明である。

「大半の経営の状況における真のレバレッジは、種類による複雑性ではなく、ダイナミックな複雑性を理解することにある」として、そのための(文字ではない図である)共通言語を提示している。

(1)フィードバック
 「因果関係」に注目することは重要であるが、それは一方向ではなく環(ループ)を描く。例として、「コップに水を入れる」が上げられている。
 ・蛇口をひねるとコップに水がたまる
 ・コップに水がたまると(あなたに)蛇口を閉めろと知らせる
 ・(あなたは)蛇口を閉じる
 すなわち、「あなたもシステムの一部である」ことを理解することを求める。

「システム思考では、「フィードバック」とはもっと広い概念である。相互に与え合う影響の流れを意味する」

(2)自己強化型フィードバック
 良い取り組みが良い結果を生み出し続ける、逆に、悪い取り組みが悪い結果を生み続けるという循環型サイクルになる。必ずしも良いと言うわけではなく「一つの小さな変化が、それ自身をもとに増強してくる」様を示す。
 (良い循環)
 ・製品の良さが口コミで広がる
 ・売上が上がる
 ・製品サービスに投資する
 ・顧客満足につながる
 最初に戻る
 (悪い循環)
 ・製品の不満が広がる
 ・売上が下がる
 ・販促費を上げるが製品開発は大幅に停滞する
 ・ますます顧客の不満が高くなる
 最初に戻る
 おそらく「悪魔のサイクル」と呼ばれるものが近いだろう。
 こうした自己強化型ループはそのループ図の中心に「R」と書くことが多い。

(3)バランス型フィードバック
 安定を求めるシステムの機構である。温度調整をするサーモスタットを想像すると近いだろう。P143に体温調整と預金の話が出てくる。直感的に理解しやすいので参考にして欲しい。
 バランス型ループは難しくはない。しかし注意点がある。
 一つ目は「バランス型のシステムには、何らかの目標または目的を維持しようとする自己補正能力」があると言うことだ。これは、「適性で明確な目標」を無視した活動は失敗することを暗示する。ループ図には目標(制約条件)も含めれる。
 二つ目は、「一般に、バランス型ループは、何もおこっていないように見える場合が多いため、自己強化型フィードバックよりも気がつきにくい点である。しかし、社会システムは、自己強化型ループとバランス型ループの組合わせで表現しなければレバレッジは見つけられない。
 こうしたバランス型ループは自己強化型ループt区別するためにそのループ図の中心に「B」と書くことが多い。

(4)遅れ
 上記の(主にバランス型)ループ図をたどるとき、「やがて」という言葉が挿入できるところには、そしてそれが、次の意思決定を行なう上で時間差がある場合には「遅れ」と記入することを求めている。
 「行動と結果の間の遅れは、人間のシステムの至る所にある。・・・利益を生むのは数年後と知りながら・・・資源を投じる。だが遅れは正しく評価されず、不安定につながることが多い。例えば、ビール・ゲームの意思決定者は入荷されるはずなのに入荷されない原因となっていた「遅れ」の判断を常に誤っていた。」
 「すべてのフィードバック・プロセスに何らかの形で遅れがあると言っても良い。だが、その遅れが認識されないか、良く理解されないことが多いのである。これが結果的に「行き過ぎ」を招き、望ましい結果を得るのに必要なレベル以上に進んでしまうのである、」
 したがって、「システムの能力を高めるための最大のレバレッジ・ポイントの一つは、システムの中の遅れを最小にすることだ」という指摘ももっともなことである。

 「システム的な見方は通常、長期的な視点を志向する。だからこそ遅れやフィードバックループが非常に重要なのである」
 そしてあなたもシステムの一部であることも忘れてはならない。
「システム思考では、人間の動作主はフィードバックプロセスの一部であり、そのプロセスから独立した存在というわけではない」
あなたが理解する構造の中に「あなた」がいないのであれば、それはフィードバックパーススになっていない。形だけループズにすれば良いわけではない。

■次回について
 続いて、第6章につなげてゆく。
 第6章は、こうしたループ図を現実的な問題とどう対応づけてゆくのかの指針を示す。

<閑話休題>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?