見出し画像

晴耕雨読:「学習する組織」(システムはいつだって理解不可能:第4章 システム思考の法則)

第4章から第7章まで続けて投稿する予定です。

■はじめに

 ピーター・センゲの「学習する組織」(邦題)は原書名を表していないし、誤解を招きかねない訳である。この本は、私の見る限り、企業がその競争力を維持するためのヒントを示した本である。ノウハウ本でもなければ技術本でもない。
 散文的に話題がちりばめられた本書は難解であり、その取り扱いには悩むだろう。

 前回までのおさらいをしておこう。
 第1章で5つのディシプリンがキーであることが示された。
 そのため、第8章から、下記のディシプリンについて読み解いた。
(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン
(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習
 ここで明らかになったことは、経営とは命令通りに人を動かすことではなく、個々人の尊厳の上に成り立つ組織で共有される理想像が必要であり、それを元に組織でのイノベーションを生み出す為には前提に囚われないダイアログによる発見が必要であると言うことである。

 では、ひるがえってこうしたことに反する「学習しない組織」とはどんな組織であろうか?この答えが第2章と第3章に記載されていることを確認し、その中核となる考え方に「構造の理解」があることが明示されている。

 この「構造の理解」こそが「システム思考」の要諦になる。
 それについて「第Ⅱ部 システム思考-「学習する組織」の要になる、
 では、第4章から以降、何が書かれているのだろう。

簡単に言えば
第4章・・・社会システムの「構造」は、複雑であり、間違った理解は問題解決につながらないことを示す。
第5章・・・正しく理解するためには「共通言語」が必要であり、それはどのようなものであるかを示す。
第6章・・・そして、共通言語である「ループとフィードバック」が実際の社会システムでどのように表現されるのかのテンプレートを示し、理解を促す。
第7章・・・こうしたテンプレートの実際の活用事例を示すことにより、システム思考の重要性、学習すると言うことの本質を示す試みをしている。

こうしたことを受けて、第Ⅲ部の最初のディシプリンにつながる。

■第4章 システム思考の法則

個人的な感想は上記の通り”社会システムの「構造」は、複雑であり、間違った理解は問題解決につながらないことを示す。”であるが、そのための章の組み立ては、いろいろな「寓話」が並び立てられる構成になっており、何を言いたいのかを理解するには苦労する。

章のタイトルの「システム思考の法則」は、誤解を生じるだろう。とはいえ、純粋に書いてあることから重要であると思うところを引用しよう。なお、「タイトル」は中身を表していないので注意。

①今日の問題は昨日の「解決策」から生まれる。
 まぁ、モグラたたきのことかな?
 ISO9001:2015においても、何かの解決策を施しても、それが原因で別の問題が発生することをに注意を払うことを示唆している。

「問題を、単にシステムのある部分から別の部分へと移動させただけの解決策は、大抵気づかれずに継続される。なぜなら、「最初の問題を解決した人」と、「新たな問題を引き継いだ人」が異なるからだ。」

 これはシステムを局所的に捉え、安易な問題解決をしても本質的な問題解決につながらない恐れがあることを示唆している。これはいつでもおこることだ。

②強く押せば押すほど、システムが強く押し返してくる。
 これも、①の派生の話であろう。
 ここで取り上げるのは「相殺フィードバック」である。「よかれと思って行なった介入が、その介入の利点を相殺するような反応をシステムから引き出す現象である」として、下記の例を提示している。

「自社製品が突然に市場での魅力を失い始めると、・・・企業はより積極的な売り込みを推し進める。それが今までいつもうまくいっていたやり方だ。宣伝費を増やし、価格を下げるのである。こういった方法法によって、一時的には顧客が戻ってくるかもしれないが、同時にお金が会社から出て行くので、会社はそれを補うために経費を切り詰め、サービスの質が低下し始める。長期的には、会社が熱心に売り込めば売り込むほど、より多くの顧客を失うことになるのだ。」

こうした事例として、第7章でワンダーテック社の事例が出てくる。

注意点として、この項では以下のように諭す。

「私たちの当初の努力が長く改善を生み出すことができなかったとき、私たちは・・・一生懸命に努力すればあらゆる障害は乗り越えられると言う信条に忠実、より強く押し続け、その間ずっと、いかに自分自身がその障害の原因になっているかに気づかずにいる。」

③挙動は、悪くなる前に良くなる
 なぜだろう。一つ目の理由は時間的なずれである。
 「相殺フィードバックには通常、「遅れ」が伴う。短期的な利益と長期的な不利益との間のずれだ。」
 これは、以下のような挙動を生む。
 「この「悪くなる前に良くなる」反応こそが、政治的意思決定をきわめて非生産的なものにする。「政治的意思決定」とは、行動の代替案が持つ本質的価値以外の要素-自分自身の権力基盤を構築することや、「格好良く見えること」、「上司を喜ばせること」など-が重要ないし決定を指す。

④安易な出口は大抵元の場所への入り口に通ずる
 二つ目の理由は、上記が理由安易な解決策に目が向くことである。
 「私たちは皆、気がつくと、問題に対して見慣れた解決策を当てはまることに安らぎを覚え、自分が最もよく知っていることに固執している」と警告する。

⑤治療が病気よりも手に負えないこともある。
 安易な解決策は「非システム的な解決策」になる恐れがある、それは「長期的には、全く気がつかないうちに、いっそう多くの解決策を打つ必要が高まる。・・・構想に難のある政府介入は効果が内だkでなく、地方の人々の依存心を増大させ、自分たちの問題を解決する能力を助長させると言う意味で”中毒性がある”」
そして、安易な出口探しは「問題のすり替わり」を引き起こしやすい。

 ※「問題のすり替わり」については、第6章でテンプレートの一つとして紹介されるのでそちらを参照して欲しい。

 「問題のすり替わり」は「システムそれ自身の問題を引き受ける能力」を阻害するという意味でも望ましくない。
 こうした特性にも配慮しておく必要がある。

⑥急がば回れ
 直感に任せた解決策が望ましくない理由はいくつもある。そのうちの一つは「最も早く効果の出る策」が「最も最適な策」とは限らないと言うことだろう。
「ほぼすべての自然システムには、本質的に最適な成長率と言うものがある。最適な成長率は、可能な限り最速の成長率よりはるかに小さい」

したがって、最適を求めた施策の効果が出てくるのは予期したより遅いかもしれない。

⑦原因と結果は、時間的にも空間的にも近くにあるわけではない
 「原因と結果は、時間的にも空間的にも近くにあるわけではない」という特質が「急がば回れ」を阻害する。
 受注量の減少や利益の低下の原因がすぐそばにないのに、すぐそばにあると思い込む。
 「原因」とは「その症状の発生に最も大きな責任がある、根底にあるシステムの相互作用」のことであるにもかかわらず認識が難しい。
「生産ラインに問題があると、生産ラインの中で問題を探す。営業スタッフが目標を達成できない場合、新たな販売奨励策か販促キャンペーンが必要だと考える。住宅供給が不十分だと、さらに住宅を建設する。食糧が不足している場合、その解決策は食糧増産に決まっている。」
 これらは、原因ではなく事象に焦点を当てているに過ぎない。これが何が問題なのかは前項までを見れば明らかであろう。システムは複雑であり、波及は時間差があるのだ。

⑧小さな変化が大きな結果を生み出す可能性がある-が、最もレバレッジの高いところは往々にして最もわかりにくい
 したがって、システムの構造を理解するとともに、何が最も有効な施策かを見つけなければならない。この時に重要な概念が「レバレッジ」である。普通は「てこ」と訳すが、この書では「システム思考は、小さな的を絞った行動を正しい場面で行なえば、持続的でおおおきな改善を生み出す」原理を「レバレッジ」と呼んでいる。
 ところが、こうしたレバレッジを見つけ出すのは容易ではない。
 「レバレッジの高い変化は通常、システム内にいる大部分の参加者にとっては非常に見えなくい」からである。
 上記にあるように、「原因と結果は、時間的にも空間的にも近くにあるわけではない」に加え、我々もシステムの一部であることを認識できないからだ、
 ではどうするのか。
 「出来事ではなく、根底にある構造を見ることを学ぶ」
 「スナップショットで考えるのではなく、変化のプロセスの点から考える」
 ことを提示している。

⑨ケーキを持っていることもできるし、食べることもできる、が、今すぐではない
 このタイトルは意味不明である。ここで述べているのは、レバレッジは二者択一(例えば品質とコスト)ではなく、「長期間にわたっていかに両方を改善できるかを見る」ことを求めている。
 二者択一の解決策は「スナップショットで考えるのではなく、変化のプロセスの点から考える」を怠ることへの警鐘である。

⑩一頭の象を半分に分けても、2頭の小さな象にはならない
 これは逆である。「2頭の小さな象を並べても大きな象にはならない」が正解である。
「多くの会社の製造部門、販売部門、研究部門の責任者」が自分の知ることを寄せ集めても集合体の会社のことは言い表せていなことへの比喩である。
 「偏狭な組織の境界に制約されることなく、眼下の問題にとって最も重要な相互作用を観察しなければならない」としている。
 これは「人々が重要な相互作用を見ることを妨げるように設計された組織のあり方」として非難している。
「スナップショットで考えるのではなく、変化のプロセスの点から考える」こと自体が「学習する組織」の特質であり、これは既存の組織構造に手を着けることを求めている。
 「チーム学習」のできる組織でなければ「学習する組織」にはなり得ない。

「レバレッジは相互作用の中に見つかるのであり、自分の手の内にある断片だけ見てもその相互作用は見えない」

⑪誰も悪くない
 そして、第3章の最後の文脈と同じ言葉が続く。
 「システム思考は切り離された「他者」などいない」
 「あなたも、他の誰かも、一つのシステムの一部なのである。」
 ビールゲームを思い出すこと。

■次回について
 続いて、第5章につなげてゆく。
 第5章は、構造を理解するための基礎知識と言ったところだろうか。

<閑話休題>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?