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晴耕雨読:「学習する組織」(結び:第18章 分かたれることのない全体)

■結びとしてのメッセージ

宇宙飛行士の話を軸に、哲学的に言えば「全は一、一は全」を訴える。

「(私たちを含めた)自然は、全体の中にある部分でできあがっているわけではない。全体の中の全体でできあがっているのだ。すべての境界線は、国境も含めて、基本的に恣意的なものである。私たちがそれを創り出し、そして皮肉なことに、自分たちがそれに囚われて身動きができなくなっているのだ。」

システムを局所的なものではなく全体として捉えることの重要性を指摘している。

■本書に対する誤解

邦題「学習する組織」は、やはり誤解を招く。
この本は「学習する組織」の作り方が記載されているわけではない。システム思考を実践すれば「学習する組織」になるわけではない。この本の中では、言い方は違うが「学習すする組織は、学習する組織である。」と言っており、「学習する組織」を創るための7つ道具も三つのステップもないと言っている。

では本書には何が記載されているのだろう。

■本書の構成

企業活動の中で我々が対象とするものは「生きたシステム」であり、それは「地球規模を単位とした全体システムである」という前提に立ち、

(1)システムの認知を放置しておく(学習障害の)組織の行く末の懸念があること
(2)世界を理解するためには構造に着目すること
(3)構造を理解するためにはシステムを表現する言語が必要であること
(4)それだけでは不十分であり、自己マスタリーからチーム学習に取り組む必要があること
(5)それを実践すると言うことはどんなことを意味するのかを理解すること

が本書の主な内容であろう。
特に(5)については、第Ⅳ部として全体の三分の二程度を割いている。ただし、ここではトピック的にいろいろなテーマを散文的にあちこちにちりばめており体系的でない。前半の(1)~(4)にしても、順番に読んだからと言って「学習する組織」を理解できるわけではない。

この「晴耕雨読」では、まず(4)に該当する章を確認してから(1)~(3)を読み解いた。これから、この書に向かう方は、上記を前提にして、最初から読むのも良いし、第Ⅳ部から読んでも良い。ただし、概念的に理解しなければならない言葉が出てくるので、できれば(1)から読むことを勧める。

■「学習する組織」の作り方

(1)こっそり始める
 突然、「学習する組織」を作るといっても皆驚くだけであろうし、また経営者が突然言い出しても皆はついて行けない。まずは、身の回りの課題解決などをテーマにシステム思考を実践することである。

(2)志を決める
 「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこに行くのか」は単に哲学的な抽象的な問いではない。「このままで我々は生き残れるのか」に対する切実な問いでもある。
 自分自身は何者で何をなすべきかの志がなければ、システム思考は単なる技法で終わってしまう。
 また解決すべき課題を明確にすること。ただし、独りよがりになるリスクも想定すること。

(3)コミュニティを構築する
 多様な人材が参加できるコミュニティを構築する。それは、自分の批判的な人も含めること。同じ考え方しか持たない集団は振り返りなどもできるはずはない。最初から大きな集団である必要はない。「面白そうだな」「参加しやすそうだな」と感じられるように「こっそり」発信すること。

(4)試行錯誤を繰り返す
 最初から旨く行くわけでもありません。本書で付録に示されいるパターンを使いながら、その妥当性を確認して徐々に大きな問題を把握できるようにしてください。最初から「全部をカバー」して「きれい」で「正しい」システムなど作れません。

(5)経営の興味を引く
 システム思考は学習することが目的ではない。自分たちの行動は「構造」に縛られており、それを脱却するためには「構造」を変えることである。そして「構造」を変えて「行動」が変わるのであれば、それを経営者が興味を引く、例えば財務上の効果を示すことである。そうすれば経営者は「ゴーサイン」を出すだろう。全社展開の道筋になる。

■技法に振り回されない

私もこの書籍については誤解していた。システム・ダイナミクスの啓蒙本かと思ったのだが、実際は、技法としての「システム・ダイナミクス」はほとんど取り上げていない。そのさわりだけである。なお、「システム・ダイナミクス」についておすすめは「システム思考/ジョン・D・スターマン」であるが、残念ながら現在は古本でしか手に入らない。

こうした理論的な枠組みを理解しないまま技法としての「システム・ダイナミクス」に近づくのは危険である。インターネット上ではITツールが紹介されているが、まずは前項の取り組みを進める中で「何が必要」なのかを自分なりに消化してから技法に進むことを勧める。

■おわりに

かつて、経営に関しての研修している講師が「学習する組織ぐらいは読んでいるだろうね」と我々の無知を笑うシーンがあった。当然読んでいないので反論できなかったが、今では「あなたこそ読んでいるんですか」といえる。なぜなら、この本は「学習する組織」になるための必要十分条件などは書いていない。書いてあるのは、経営は単純なものではなく様々な要素が絡み合う、「巨大で複雑な生きたシステムの一部」であることを認識しなければならないという教訓である。技法ではない。

というのが私の感想である。
これは正しいかもしれないし間違っているかもしれない。
確認したければ、この本を読みこなして欲しい。1度読んだからと言って理解できるとも限らない。

<いったん 終了>

202/6/16
中野康範 連絡先:ysnakano@gmail.com

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