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ISO9001と経営:なぜなぜ分析の功罪・再現実験の欠落(10.2 不適合及び是正処置)

ISO9001と経営:なぜなぜ分析の功罪・再現実験の欠落(10.2 不適合及び是正処置)

形式的にISOに取り組んでいても儲かることはない。

■審査における分析の扱い

ISO9001:2015での審査をしている中で、どうしても踏み込めない領域がある。
それは、その行為/活動の程度が十分とは思えなくとも指摘できないことだ。

その中で、扱いが困るものの代表として「分析」がある。
学生の頃に数理科学に接した身としては、データを集計したりグラフ化したりすることは「整理」であり、「分析」ではない。

ウィキペディアによれば
・分析は、 ある物事を分解して、それらを成立させている成分・要素・側面を明らかにすること。
・証明するべき命題から、それを成立させる条件へ次々に遡っていくやり方。
とある。

すなわち、「何かを明らかにする」ことである。

■ISO9001での分析の目的

ISO9001:2015では「分析」という言葉は2カ所で出てくる。

9.1.3 分析及び評価
組織は,監視及び測定からの適切なデータ及び情報を分析し,評価しなければならない。
                         ↑ ここ
分析の結果は,次の事項を評価するために用いなければならない。
a) 製品及びサービスの適合
b) 顧客満足度
c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性
d) 計画が効果的に実施されたかどうか。
e) リスク及び機会への取組みの有効性
f) 外部提供者のパフォーマンス
g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性
注記 データを分析する方法には,統計的手法が含まれ得る。

10.2 不適合及び是正処置
10.2.1 苦情から生じたものを含め,不適合が発生した場合,組織は,次の事項を行わなければならない。
a) その不適合に対処し,該当する場合には,必ず,次の事項を行う。

  1. その不適合を管理し,修正するための処置をとる。

  2. その不適合によって起こった結果に対処する。
    b) その不適合が再発又は他のところで発生しないようにするため,次の事項によって,その不適合の原因を除去するための処置をとる必要性を評価する。

  3. その不適合をレビューし,分析する。 ← ここ

  4. その不適合の原因を明確にする。

  5. 類似の不適合の有無,又はそれが発生する可能性を明確にする。
    c) 必要な処置を実施する。
    d) とった全ての是正処置の有効性をレビューする。
    e) 必要な場合には,計画の策定段階で決定したリスク及び機会を更新する。
    f) 必要な場合には,品質マネジメントシステムの変更を行う。
    是正処置は,検出された不適合のもつ影響に応じたものでなければならない。

こうした記載を見ると、「分析」の目的は

a) 製品及びサービスの適合
b) 顧客満足度
c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性
d) 計画が効果的に実施されたかどうか。
e) リスク及び機会への取組みの有効性
f) 外部提供者のパフォーマンス
g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性
および
「不適合の原因を除去するため」
であることが分かる。

それぞれの目的の為に分析手法が変わることは当然であるが、科学的根拠がなければならない。単に「そう思う」だけでは不十分である。

■なぜなぜ分析の功罪

経験的に、是正処置で使用される手法としては「なぜなぜ分析」がある。これ自体は、問題の深掘りをしてゆくには優れた手法であるが、正しく使われている例はあまり見かけない。

問題は
①解決できる策が念頭にあり、それにつながるようにストーリーを作成する。
 当然、できることしかしないし、それを正当化してしまう。現状の何も変わらない。
 こうしたことの延長に、「教育訓練」や「周知徹底」が出てきてしまう。

②最初に起きたことを原因とするので、最終的に原因分析にならない。例えば「寝坊」したことを「目覚まし時計に気がつかなかった」などと言うようにしてしまうと、「目覚まし時計を二つ用意する」などとなってしまう。当然、「寝坊」は「生活習慣」や「睡眠」に依存するが、無理な早朝の約束や、遅刻しても対策が立てられるような準備の不足などにも目を向けるべきである。

③分析と言っても、科学的根拠に基づかない判断であり政策的な解決策に行きやすい。なんとなくそう思うの連鎖では、最終的な原因は「なんとなく」の結果になりがちである。そうした対策では、いわゆる有効性レビューも怪しい。

■実証実験

最初の原因を特定することが最も重要である。
参考になる記事がある。

○知床観光船事故、事故2日前に「ハッチ」の蓋3センチ浮く不具合…船長も認識か
2023/06/29

運輸安全委は、事故2日前にカズワンで行われた救命訓練の参加者から、豊田徳幸船長(当時54歳、事故で死亡)が訓練当日にハッチの蓋を閉めようと、繰り返しハンドルを回したが閉まらず、「蓋が約3センチ浮いた状態だった」との証言を新たに得た。

このため、運輸安全委は、引き揚げた船体や訓練の写真、証言を基にハッチの模型を製作。訓練時の様子を再現する実験を行ったところ、四隅の留め具すべてがきちんとかからず、証言通り、蓋が約1・5~3センチ浮く状態となることが確認された。留め具を動かすハンドルの緩みなどで不具合が生じたとみられる。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20230629-OYT1T50070/

ポイントは「証言を基にハッチの模型を製作。訓練時の様子を再現する実験を行った」である。これにより、出発点を「留め具を動かすハンドルの緩み」や「蓋が約3センチ浮いた状態だった」で議論できる。これを「救命訓練」に持って行くと、結果は「救命訓練」の改善になってしまう。

ものづくりでは、不良品の発生の再現実験などを行なう術があるのだが、サービス業になればなるほど再現実験はしにくい。

例えば、ソフトウエアでのコーディングミス、テスト不足などによる顧客クレームは、様々な要因で起きる。例えば「無理な納期」「能力不足」「不注意」など上げられるが、これを再現することは「生理学」「心理学」などにおよび再現はむずかしい。

こうしたことは、何らかの数値データを採集する工夫が必要である。

実証実験に近い何かを追い求めなければ「再発防止」はできない。
安易な「なぜなぜ分析」は時間のっむだである。

形式的にISOに取り組んでいても儲かることはない。

<閑話休題>

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