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戦略人事:曖昧になる境界線(賃金戦略は誰が決定するのか)

戦略人事:曖昧になる境界線(賃金戦略は誰が決定するのか)

■それは私の仕事ではありません

人事部門が戦略的な位置づけで活動していないという経営者の悩みを指摘したのは伊藤レポートであり、それを受けて人的資本開示の義務化が進んでいる。もっとも、多くの中小企業の経営者にとっては、そんなことは関係が無く一部の大企業だけの話である。

○人的資本経営、中小企業の取組状況は? 7割の経営者が「知らない」
2024年06月19日

 人的資本経営について「知っており、他の人に説明できる」とした人はわずか3.8%にとどまった。「知らない」 「聞いたことはあるが、よく知らない」とした人は合わせて72.9%に上り、7割以上の人が人的資本経営について説明できないことが明らかになった。

 人的資本経営に「取り組みたい」とした人は36.1%。最も多い回答は「どちらともいえない」で47.4%となり、取り組みたいと考えている中小企業の経営者は少数派だった。

 人材育成に関する費用については「設定していない」とした人が最も多く79.1%に上った。人材育成に向けた予算が、そもそも十分に確保されていない現状がうかがえる。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2406/19/news102.html

人的資本開示に必要なデータは人事部門でも把握可能であろうが、その戦略的方向性は経営者しか決定できない。

そもそもどのような人材を質・量とも確保してゆくかと云うことを考えると、方向性を考えるのは経営者だとしても、実眼可能性や戦術展開の可否などは人事部門がすべきことであろう。そのための権限を与えていなければ、降られた人事部は「それは私の仕事ではありません」と云わないと責任だけ取らされかねない。

■働き方の多様性

人事部門の思惑とは関係なく、働く人々の多様性が進んでいることも悩みの種になるだろう。直接的には賃金体系の再編をそうするかであろう。
すでに、専門性の高い人材の外部調達を進めるためのジョブ型雇用を標榜した企業は従来の賃金体系ではグローバル市場では戦えないために報酬体系の最適化に四苦八苦しているだろう。

国内の人材にしても、出戻り中途採用だけでなく働き方改革の多様性をうかがわせる記事もある。

○週2日でもOK!「短時間正社員」関心高まる 中小企業も注目
2024年7月17日

フルタイムの勤務ではなく、「月60時間」や「週2日」など短い労働時間でも正社員として働くことができる「短時間正社員」という働き方が人材確保が課題となる中小企業などから関心を集めています

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240717/k10014513301000.html

この記事の中で、半分は正社員、半分はフリーランスという働き方も紹介されている。時間外(残業時間)は外部委託という偽装請負的な事例も紹介されている。

○脱法行為?賃上げアイデア「残業時間は個人事業主に」 内閣府が表彰
2024年7月11日

36件の応募があり、2件が優勝アイデアに選ばれた。

 その一つが「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする」。ホームページに掲載された資料によると、まず定時以降の残業を禁止。以前は残業でこなしていた業務を委託契約に切り替え、社員は残業していた時間は個人事業主として働くという。

https://www.asahi.com/articles/ASS7C1SXFS7CULFA00LM.html

こうしたことが法律上許されるかどうかは別としても、従来のように年齢が上がれば、金属が長ければ組織の必要とする能力を持たされるので給与を上げるという発想は維持できなくなる。

さらに、社会保険や税務などの法的な対応も必要となる。画一的な対応ができない以上、新たな賃金制度の設計が必要になる。

■単一組織で対応できない

現在、私はISO9001:2015という規格の示すマネジメントシステムに関わっている。ここでいうマネジメントシステムというのは「組織と機能と標準」を指す。組織論で云えば、組織とは同じ目的を持った人々が集い活動することであり、そこには責任と権限、指示命令系統が明確に決まっている。また、機能とはバリューチェーンで云うところの機能分化を指し、お互いの領分が重なることはない。

こうした仕組みは効率的ではあるが柔軟性に欠ける。

人が集うと云うことは精神論以上に複雑に多くの要素がからむ。特に働き方の多様化は、法律上の制限(ハラスメント対応)、税金や保険の対応、報酬制度の伏線化、労働争議への対応、など様々である。

こうした中で、「我々は人事部だけの仕事をする」という姿勢を貫いている限り「戦略人事」を標榜することはできないだろう。組織横断的なプロジェクト機能を実現しなければならない。

ここにメスを入れられるのは経営者だけである。「人事部門に戦略的活動」を期待するのであれば、まずはそうした組織構造をつくらなけばならない。

2024/07/20

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