ノーマル寒星四題の歴史を振り返る


テーマ図

テーマ図が、いわゆるノーマル寒星四題と言われる戦型である。(以下ノマ寒)今回自分で復習するにあたって、いちいち見直すのが大変だと思ったので記事を書くことにした。ソーソロフ8では恒星からも出現するが、この形が脚光を浴び始めた2012年頃では寒星からがメインであったためこう呼ばれるのだと思う。今回は、戦型の善悪はもとよりその変遷を私なりに追っていきたい。一応公式戦の棋譜を参考のもと私の記憶に基づいて書いていく。正確性をより求めるのであれば、本来なら当時トップレベルプレイヤー間の研究場として栄えていたRenjuofflineというWebサイトでの棋譜も鑑みる必要がある。そう思ってデータベースを覗いてみたが、時系列に則って遡ることが非常にしんどそうなので今回こちらの棋譜は無視する。よって、あるいはそれ以外の部分でも記述に何らかの誤りや齟齬が生まれるだろうことに留意してほしい。信じるかどうかはあなた次第。
※当初は事細かくいろいろな棋譜を載せようと思っていたが、書いてみるとあまりにも疲れるのでダイジェスト風になってしまった。
①~定型の確立(おおよそ白有望、~2012)
本題に入る。ルール上この形は2009年のときから流行する余地はあった。しかし本格的に注目され始めるのは2012年からだと思われる。その理由の一つとして、2011年以前は「ノーマル寒星五題」というものが大流行していた。(黒5でF10もしくはF8)この形は現在ではどちらに打っても白必勝という結論が出されている。特にF8については2013年頃に決定版の手順が確立され、以後徐々に消滅した。しかし、当時においては「連珠に残された唯一のフロンティア」と評した強豪がいるほどの作戦だった。2012年以降、連珠はその後3年ほど続く渓月時代に入っていく。そんな中、ノマ寒が突然姿を現した。

第1図

上図は2012年連珠チーム世界選手権の棋譜である。黒のSushkovは09年世界チャンプ、白のCaoは11年世界チャンプということで、インパクトが大きかった。現代では未知の手を目にした時、何を置いてもまずはソフトに入力し評価値を確認するという人が多いだろう。そのくらい今のソフトは圧倒的に強く、出てくる結論も精度が高い。この時代においては、対局ソフト自体は存在したが今のように信頼のおけるものではなかった。プレイヤーの読みや大局観、集合知が戦型を形作っていた。ある人は「誰かが新手を発見しても、それだけでは不十分。世界選手権のような舞台で洗練されていく」という旨を記している。このような環境下でトッププレイヤー二人によって残された棋譜の影響はあまりにも大きく、少なくとも黒7については白10までで駄目だと思われる時代がしばらく続いた。この事態が打開されるのは数年先のことだが、私の調べた限りでは白10に対する決定版の手筋が登場した公式戦は存在しなかった。このように、水面下の研究だけで局面が終わってしまい、表に出てこないまま忘れられてしまうのはこの時期からと思われる。
②黒の対策が猛威を振るう、そして暗黒時代へ(黒有利、2013~2016)


第2図

前述の事態を打開しようとまず注目されたのがこの黒7である。これより以前は白6の盤端関係について深く考えずに選ばれていたと思うが、この時期には概ねこちらに打っている。これは中村茂九段の影響が強いと思われる。この黒7を相手するにあたって、白6の盤端のほうが白からすると戦いやすいというのが元々の文脈だろう。さらに付け加えると、こちらの棋譜がその伏線になっているとみられる。第2図は黒の対策の集大成であった。以降大舞台からノマ寒四題が姿を消す暗黒時代を迎える。それだけこの形を多くの人が黒良しと思っていたということらしい。2021年になって第2図の白20でE7と反撃する手が中国の研究で発見され、現在黒7は白有望の満局模様というのが定説だ。
③白三三ミセの襲来、筋悪の妙手(形勢不明、2017~2021)

第3図

2014年からノマ寒はほとんど見かけなくなった。この年はチーム世界選手権があったが、寒星は四題なら黒、五題なら白が定説となっていた。世間的な注目という意味でも、この時期には花月で革新的な定石の進展があり、多くの人の目はそちらに行っていたように思う。寒星は忘れ去られつつあった。そうした人間の心理の隙を突くように、チーム世界戦では白4で第2図の8に打つChingin流が炸裂する。一方のノマ寒は定石を知らない人に対してのハメ手的なものだと認識されていき、大舞台で登場するのは五題が主流だった。
ニュースが入ってきたのは2017年の5月か6月頃のことだ。時はソーソロフ8の導入年で、新ルールでの作戦をどうしようかと苦慮していた。中国でノマ寒が復活したらしい。その事実自体にも驚いたが、手順にはもっと驚いた。「白10!??黒11!??白12!??….こんなので白勝っちゃうの?」というのが当時の率直な感想だった。黒11という絶好の好点をみすみす与え、白12とかいういかにも細そうな手で勝っている。新しいハメ手か?しかしCaoが採用している以上無視はできない…完全に困っていた。後に世界選手権で中村九段や神谷君ともこのことを相談したが、似たり寄ったりの感想だったと記憶している。当時でもまだデータベースに対応したYixinすら公開されていなかったので、詳細な検証は困難を極めた。第3図は、検証しきれないまま相手に勝ち方を披露された形だ。今から振り返ると、この三三ミセはそんなに不自然には見えない。というよりかなり現代連珠的な発想の手に見える。当時では空間重視の考え方が主流で、手番を相手に渡しても可動域を狭めることの価値が高いと考えられていた。現代では、好点一つの引き換えにしばらくの間邪魔されることなく攻めの権利を獲得できるというふうに見る方が自然だろう。そういったときの攻め方や、詰みの距離感はソフトによって非常に高いレベルで精査されてきている。
第3図以後、黒9では改良が進んでいきこちらの棋譜のような進行が主流になった。これはこれで難解で研究しがいがあるのだが、2021年の新手によりこの白8自体を打つ必要がなくなり、また黒も7でその進行を避けるため下火になっている。
④現代のノマ寒(~現在、黒主導の満局模様)
さて、ここまで歴史をなるべく時系列でみてきたが、いま寒星で主流になっているのは上記いずれでもない。ここからが現代寒星なのだが、いかんせん複雑になりすぎているので、一旦記事を分けたいと思う。


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