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珠王戦総括~現代連珠に挑戦する~

年末に勝負がどうとか書いていたが、結局のところ今期珠王戦は自分の連珠観を確認する戦いと認識。勝負面で注意したのは体調をなるべく整えようということで、前日入り、ブリーズライトをスタンダードからエクストラに変更、Gomocup記念でいただいたアイマスクを持ち込み睡眠の質の向上に努めた。結果的にこれが功を奏し優勝できたのは嬉しい。実際読んでいても感覚がまるで違っていて、体感では手の見え方が普段の三倍速ほどだった。しかしこれほどやっても大事な勝負の場で8時間睡眠をとることはできず、6時間睡眠に終わった。名人戦リーグが疲労と緊張から三日間4時間半睡眠だったことを踏まえると大きな成長で、次こそしっかり8時間寝られるようにしたい。

棋譜についてここではさらっと振り返る程度で、細かい部分は動画で補足したい。

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全6局中、本当の意味で何も分からなかった対局。実際優勢を意識した局面でその瞬間に頓死があった。雲月は私の中であまりやりたくない位置の一つ。白14でひよったのが間違いの始まり(疑問手という感覚は打つ前からあった)な気がするが、これはこれで一局になるはずだという強い意志を持って打った。その後は難解な局面が続きながらも、白24、26、30と急所への打ち込みが全て通ったので優勢を意識した。しかしこれで油断してしまい黒31が詰みを残す手であることに全く気付かなく、危うく頓死するところだった。難しい詰みではあるものの、こういうのをしっかり察知できないと強い人には勝てないんだよなぁ。このあたりは課題だ。白34を打つときに急に危ないことを察知した記憶があり、本譜でも受けている。最後はなんとか勝ちになってよかった。

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黒5は水月と峡月から発生する形で、打たれ始めたのはずいぶん前だが未だに結論が出ていない。白6は近年打たれるようになった。渓月からの盤端違いでこちらは結論が出ておらず、今年は流行するのではないだろうか。今期珠王戦におけるメインの準備がこの形だった・・・。しかしソフト検討をすると分かることだが、この局の私の打ち回しはかなりお粗末なものだった。普段研究範囲に入ることがあまりないため、いざ研究範囲になると舞い上がってしまうのか、どうも判断力が鈍る。いっそほぼ初見のほうが先入観なく、集中度高く打てていいかもしれない。局面としては左辺の黒暴走が問題で、白28の後に33だけを決めて37に先着していれば黒有利のようだ。本譜は最後が時間切れ決着になってしまったが、ここまでくれば少なくとも白有利だろう。

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神谷君の作戦選択の傾向は私とは対照的。私が手広い序盤を好み、攻守にはさほどこだわらず有利と思う方を選びたがるのに対して、彼は一本道の序盤で、多少局面的に悪くとも攻め側を持つことが多い。花月はかなり深いところまで想定しやすく、彼に合っているのだろう。かくいう私は花月は投了珠型の一つで、大会の勝負所で出された今回は絶望感が凄かった。この対局の先後決定は握りによるものだったが、こういうところでの握りはほぼ神谷提示になっている。彼には何かついているのか?局面は黒23まではほとんどノータイムで打たれたので、ここまでが研究範囲のようだ。結果的に黒31、白32の交換でなんとか、初期値は悪いが手広い局面になった。構図としては黒手番の攻めVS白の受け(要所に白石有り)というクラシカルな展開で、方針は分かりやすい。ほとんど時間がない戦いだったが、検討してみると想像していたよりかなり正確に打ちまわしたらしい。最後の三三禁も珍しく一瞬で捉え、この相手の対花月では初勝利となった。この勝ちは自信になった。

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岡部九段との対局は連珠よりも心理戦の色彩が強い。今回は「遊星提示を読んでいる岡部九段VS〔遊星提示を読んでいる岡部九段〕を読んでいる私」という勝負になった。色々な白4に備えて行ったもののこの4は想定していなかったため、まずは一本とられた。この形については白10が、Crazyzeroのオープニングブック最善手だという記憶だけがあり、常々やってみたいとは思っていた。ただ三連勝同士の勝負所で実戦投入することになるとはゆめゆめ考えていなかった。この選択が相手の虚を突いたようだった。もともと連珠は「黒の攻めVS白の受け」という構図が多く、私はこれをクラシカル進行と呼んでいる。現代連珠においては黒が攻めて白も攻めるという混沌とした何かになりやすい。今回は白の牽制が刺さっただけではあるので少し違うかもしれないが、こうした展開には少しずつ慣れていく必要がある。局面としては白12でほぼ決着しているようだ。この手には30分長考して踏み込むかどうか自信がなかったが、結果的に踏み込んでよかった。攻めが落ち着いた直後の詰みを一瞬で捉えた。今回は詰みが見えているようだ。これが睡眠の効果か?

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中村名人とはどうやら去年の珠王戦ぶりらしい。そのときは圧倒的な負けだった。残月を提示したのは、もともとやりたい形があったのが一つ。もう一つ、直前の中村河野戦で名人が白4をここに打っており、それなら黒を持ってやってみたいなと思った。ただ白8であっという間に思惑を外されてしまう。このあたりの勝負勘というか嗅覚はさすがだ。黒9を打つのは恐らく8年ぶりだが久しぶりにやってみることにした。白18までで局面がひと段落し、黒の攻めVS白の受けという構図がはっきりした。これはクラシカル進行だ。私の印象では名人はクラシカル進行をかなり得意としている。そして白番では強い攻め合いはあまりせず、じっくり受け潰しを狙うのが棋風に見える。黒19では正直困っており、以前TVで放送され解説された「中村スタイル」がここで出ていた。相手は自信を持っているようだ。私は自信がなかった笑。持ち時間50分の連珠としてはかなり長い30分をここに投じた。本譜19は20という好位置に打たれるため一見すると悪く見える。しかしここをサクリファイスしてでも黒21~23の継続が局面の均衡を保つ唯一の手段と見た。こういった、好点をサクリファイスして攻めに弾みをつけるのはソフトがよく好む手法で、現代連珠では頻出する。そういう認識はあっても自分ではあまりやったことがなく自信は持てなかった。帰宅後検討してみると、ソフトは29を先に効かしていたがYixin、Embryo両方ともがこの進行を推奨した。三者の見解が一致することは相当少ない。どうやら最善を突いたようだ。クラシカル進行でも現代的な発想が有効なことがあるらしい。その後白24、26、28はYixin推奨。黒25、27はEmbryo推奨と、ここだけを見るとソフト対決になっていた。黒31が私は絶好点と思って打ったのだが、ソフト的には疑問手だった。白34で49に受けていれば局面は互角らしい。本譜34がどうやら本局の敗着らしく、最後は黒47、49と上辺を回収できたのは気持ちよかった。

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河野君との公式戦は1勝1敗1分で五分だ。既に優勝は決まっていたがここは勝ちたい。この黒5までの形は今回試したいと思っていたもので、最後にきてようやく達成。黒7以下は手広い。本譜13までで一段落。白14以下の構想が難しい。以前の私なら、穏便に受けながら広い下辺に周ることを考えていた。しかし現代連珠はよりスピード感がある。一度手番を持ったらずっと攻め続けるのだ!私はこういうときは大体攻められる側であり、攻める側を持つのはほとんど初めてで、チャレンジだった。黒15により白16、18が入り、しばらく攻めることは確定した。こういうのも以前の私の感覚では、漠然と囲まれて嫌だなというものだった。実際には黒15~19の石は盤面にほとんど効いておらず、私のほうはラインを通して攻めの準備が整っている。もちろん破綻すれば一大事だが、局面としては白良しと見るべきという大局観が最近になって身についた。白20~24はソフト推奨手ではなかったが、これでも白良しのようだ。黒25白26の交換で模様を消しにいく順が消滅し安堵。最後は最短の勝ちではなく安定的な局面有利をとりにいった。難しい連珠を勝つことができてうれしい。

珠王を獲ったのは初めてで、直後はだいぶ浮かれてしまった。いまとなってはそれよりも、私個人としては大会全体を通して内容がよかったこと、数多の強豪相手に勝ち上がれた喜びが大きい。来年の世界選手権に向けてはまずは良い発進ができたと思う。

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