ノーマル寒星の歴史を振り返る②

この記事では、主にソフト時代黎明期からのノマ寒を追っていく。記事を読む際の注意事項等は①に記したので、未読の方は先に参照してほしい。

①現代ノマ寒の基本図

基本図

白12までが基本図。ここに到るまでにも検討の余地のある変化は非常に多い(白6で変化、白10で変化など)が、黒が最善の応対をした場合成立しないことがわかっている。一つ一つ取り上げていくとキリがないのでここでは言及しないが、大雑把な結論でいいのであればKatagoを使えばあまり時間を要さず辿り着けると思うので、興味があればご自身で検討してほしい。
さて、白12は剣先の止められているところにあえて打つという、従来の人間の感覚で言えば打ちにくい手と思う。はじめに私なりのこの戦型、というより現代連珠での大まかな判断基準を書いておく。
※前提としてある程度の正しい応対をできることがあり、特に初心者の方には全く参考にならない。連剣先の数を重視し、空間をとってください。相手が間違える、あるいは自分が間違えるという前提に立ったとき、下記は真逆に作用しやすい。

  1. 連剣先の数は安心感を生むが、大事なのは手番を持っているかどうか

  2. (正しい応対をされると)空間を失うことより手番を失う損失が大きい

  3. 自分の攻めを直接受けてくれるのであれば少なくとも損ではない

  4. 受け一方になったら作戦負け、盤上以外の優位を持っておく必要がある

4について補足する。ここにおける作戦負けとは、自分がどんなに良い手を打とうとも相手が間違えない限り局面は好転せず、決して主導権を得られない状況のことで、連珠でよくいわれる序盤で瞬殺とはだいぶ違う。また、本当に極稀に受け潰しにいくのが最善ということがある。直近では先の名人戦第2局がそれであり、「この連珠は受け潰しにいけば白優勢ですけれど、恐らくこの形に詳しくないあなたは最善を知りませんよね?知らないのであれば最善手は怖すぎて選択できませんよね?」という意味合いだ。これが盤上以外の優位であり、この場合は「相手より局面に精通している」ということだ。余談だが、最近の実戦はソフト最善次善進行あたりは事前研究で相当突き詰められていて、あえて作戦負けに飛び込み盤外での優位を活かす傾向がトップクラスのプレイヤーでは多いと思う。
さて、上記の指標で基本図を見たとき、白12を評価するにあたって連の数がどうのはあまり関係ない。相手の詰みを受けていて、かつ自分の攻めを保持していることが重要な役割である。黒13では次に打たれることが怖いという意味合いでAに目が行く人が多いのではなかろうか。これは受け一方の手なので作戦負けになりやすく、この場合はそのなかでも即負けである。基本線は黒Fのように基本に忠実に手番の維持を試みるか、黒B白C黒Dまで決めてから何かをすることになる。
基本図から黒F(白主導の満局模様)

第1図

第1図において白14で19に打つ手は自然に見える。これは前述項目3に該当するので少なくとも黒にとって損ではない。この場合、受け一方にされた上で空間もとられてしまうので白の明確な作戦負けになる。(あくまで作戦負けなだけで、実際にここから黒が勝つまでは長い道のりになる)白14~18によって黒19を強制するついでに白22の要所を占めるのが好手順。「ついでに要所に打つ」というのが現代では非常に重要な感覚だと思う。空間を取るのに一手使うのは今の連珠では悠長で、感覚的には0.5手で先着するイメージだ。もちろん、確実に手番をコントロールできているなら一手使うのがいい手になることが多い。白26は現在の研究では緩手と見られており、33の場所に先着してから一方的に攻め続け満局までもっていく手順が確立されている。しかし、相手もその手順を把握していた場合は満局にしかならないので、変化手順として本譜も有力と思う。白20保留もあり、白からは選択肢が多いが黒は白次第なため、黒側の作戦としては実戦的に損か。
②基本図から黒B白C黒Dまで決めて釘折れ(黒主導の満局模様)


第2図

第2図は急戦型主体のノマ寒では珍しい持久戦だ。白18までが一つの形で、黒19以下についてはこれが一例というだけでかなり手広い。実戦例も色々あるので是非確認することをオススメしたい。黒主導で局面を進めることができるものの、黒白双方に変化の余地が多く一本道の変化を確立しづらい。現在の評価としては黒主導で進めることができるものの、勝ちには至らないことが多く急戦型特有の短期決戦勝ちというメリットを得にくいため下火になっているかもしれない。局面としては有力と思う。

③基本図から黒B白C後黒E(黒主導の満局定石)


第3図

Katago時代に入ってから発見された手順のようだ。公式戦の前例は記事執筆時点でこの局しかなかったが、私はこの局の3ヶ月から半年ほど前に五林大会という中国のアプリで打っていたところ、この手順を出されて完敗した。周囲の反応を見るに中国の選手間では知っていて当然の手順のようだった。黒39までが恐らく絶対の進行、黒41までがバランスを保てるほぼ唯一の進行だろうということで、前半41手が固定されほとんど必然的に満局に誘導される。この定石の存在ゆえ、特に選択肢の多いソーソロフ8ではノマ寒は敬遠されやすいと考えている。必死に頑張って勉強してもこの定石一つでドロー、白で間違えれば負けてしまうからだ。故に、ノマ寒に挑む場合はこの定石に誘導することが損な状況であることが前提になるだろう。
④基本図から黒B白C後黒F(黒主導だが難解)


第4図

記事執筆時点で私の知る限り最新のノマ寒だ。第59期名人戦第四局で私は恒星を提示したが、それは神谷名人視点で私からノマ寒の可能性はほぼ皆無だろうと考えてこの形に研究を全振りしてきている。案の定白4で回避されたが、白4を不本意な形にできた上、色まで選べたので結果的にこちらもあまり知らない変化になったものの作戦としては唯一の成功局だった。今の連珠はこういう細かいところで作戦的に得をするのが本当に大事で、局面で勝つチャンスがあったのが挑戦手合ではこの局だけだったのがそれを物語っている。話は逸れたが、第4図はここまで記事を読んだ方なら察しがつくかもしれない。白18が疑問手で、以降黒有利になっている。それでもこの局を載せたのは、前例がこれしかなかったためだ。私もだいぶ研究したが、対局終了と同時に全部忘却してしまったため後は各自検討してほしい。
まとめ

  • 黒を持つなら基本図以下はもとより白からの変化手順に準備すべし

  • 白を持つなら満局定石を選ばれるリスクを甘受する必要がある

  • 基本は手番を持つ進行を優先すべし

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