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バリー・ハリスのジャズ・ワークショップについて・・・ 霧生宣子(2001, 10/15)

尚美学園大学がBarry Harrisを招聘していた時のワークショップのプログラムが見つかって、そこに私が書いていた記事がありました。

バリー ・ハリスのジャズ ・ワークショップについて
・・・

霧生宣子

私が初めてバリー・ハリスのジャズ・ワークショップを受けたのは9 5年の 9月頃だった。当時、マンハッタンのタイムズ・スクエアに位置する4 8 丁目 の楽器屋街の中にある中古管楽器店の4階を使って、毎週月曜日と火曜日の2日間、 5 : 3 0 P m か ら 1 1 : 0 0 p m ま で ピ ア ノ ク ラ ス 、 ヴ ォー カ ル ク ラ ス 、 全ての楽器の為のインプロビゼイシ ョンクラスという順番で行われていた。
私は毎週欠かさ ず2 日間とも通っていた。入り口の前で、今は亡きいつも野球 帽をかぶったリッチーさんが「ヘイベイビー !元気かい ?」と言いながら、 ク ラス代の7 ドルを集めていた。
現在はマンハッタン6 5 丁目、リンカーンセンターの西側でウエストエン ド・アベニューから近い 「リンカーン・スクエアー ・コミュニテ ィセンター」 内の大きな集会用のホールを使って6 :3 0 p mから1 2 :0 0 am までピアノ・ヴォーカル ・インプロと同じ順番で毎週火曜日に行われている。 ピアノのクラスはたいてい2 0 ~3 0 人くらいの生徒がピアノを囲むように集ま って行われる。楽譜やテキストはなく、黒板なども使わないため沢山の生徒が五線紙に書き込んだり、テープレコーダーやMD ディスクのレコーダーを 持参し各自で録音している。バリー ・ハリス自らピアノを弾き、スケールやコ ー ドの 応 用 の 仕 方 、 指 使 い の テ ク ニ ッ ク や 曲 そ の も の ま で お 手本として生 徒 に 見せる。 その後出来る生徒が代わる代わるピアノに座りお手本のように弾いて いく。生徒が間違えたり良く理解していない場合、バリーがもう一度弾い て見 せたり説明 したりする。ピアノクラスの後 半ではいつも、その日のヴォーカル クラスで歌われる曲を題材にして行われる。ピアノの生徒達はヴォーカルクラ スの時歌の伴奏をしなければならないからだ。いろんな声域の生徒達の為にいろいろなキ ーで弾けなければならない。大抵の場合、楽譜もないので個人的に その 場 で 書 く か 書 か ず に お ぼ え て 弾 く 。 ピ ア ノ の ク ラ ス が 終 わ る と ほ と ん ど の 生徒は残ってヴォーカルクラスの歌の伴奏をしたり他の生徒が弾 く伴奏を見学をしたり、中にはヴォーカルの生徒に混ざって歌うピア ノの生徒もいる。 ヴォ ーカルのクラスが終わると、全ての楽器の為のインプロビゼーシ ョンのクラス に な る が 、2 台し か な い ピ ア ノ に 1 台 に 付 き 3 ~ 4 人 座 り 交 代 で弾 い て い く 。 中には電池式の小さなキーボードやピアニカを持参で来る生徒もいる。沢山の ビアノの生徒が最初から最後まで休憩なしの約 6 時間のク ラスを受け ている。 ヴォ ーカルのクラスは 「ブンチャ・ブンチャ」というピアノの伴奏で発声練習もかねて「ド・ミ・ソ・ド・ソ・ミ・ド」とメイジャー ・アルペジオを歌う事から始まる。コール&リスポンスという「呼びかけ&答え」形式でバリー・ ハリスの先導で歌 っていく。それが終わると、「本日の1曲」をバリーが歌詞 を読み上げ、みんなそれを書き取り、メロディーを付けて歌う。いろいろなキ ー (調 ) で 何 度 も 歌 う 間 に 自 分 が 一 番 心 地 よ く 歌 え る キ ー が ど れ か 確 か め る 。 バリーの合図によって歌いたい生徒が列を作り、ピアノ、ベース、 ドラムスの リズムセクションの伴奏に合わせて1 コーラスづつ順番に歌っていく。
4 0 人近くの生徒が並ぶ為 「時間切れ」にて歌えない 生徒が出 る 時もある。 メ ロ デ ィ を 間 違 っ て 覚 え て い た り 、 テ ン ポ に 付 い て い け ず 遅 れ て し ま う 生徒 が い た場合、バリーが一緒に歌って正しく教えていく。バリーがヴォーカルの クラ スでよく声を大にして言っていることの中に 「君達は歌手である前にドラマー だ!」という言葉があるが、 「メロディーは正しく歌い、リスムは自由にフェ イクしても良い」という意味合いが込められている。しかし自由にリズムを変 えて歌 う為には自分がダウン・ビー ト(おもて)のリズムで歌っているのか ア ップ・ビート(うら)で歌っているのか違いが分からなくてならない。 例え ば 実際に歌い出しの部分で1拍目の表、 1拍目の裏、2 拍目の表、2 拍目の裏な ど か ら歌 う と ど の 様 に 違 う の か 、 又 4 拍 子 を 感 じ な が ら 3 拍 子 を 同 時 に 刻 む な どいろいろな練習方法を教えてくれる。曲はほとんどスタンダードの中から選 ばれているが、人々に良く知られている曲から古くてあまり聴かれなくなった 曲まで、まちまちである。例えば「You Must Believe in Spring 」「Never Let Me Go」「 Let's falling Love」「 | Waited For You」「What is There to Say」「G o n e Again」「 My Ideal 」「Alone Together」「Please Be Kind」「All or Nothing at All 」「I Thought About You」「We Could Make Such Beautiful Music」「 Street of Dreams」「 Easy Living 」「It Could Happen ot You」「It’s You or No One」「I Wish I Knew」「 Folks Who Live on The Hill」「The End of A Love Affaire」等がヴ ォー カル ク ラス で 歌 わ れ た 曲 で あ る 。
イ ン プ ロ ビ ゼ イ シ ョン の ク ラス は ジ ャ ズ の 中 で も ビ ー ・ バ ッ プ の ス タ イ ル で使われるフレーズや音階などをバリー・ハリスが口伝えで歌い、それを他の 楽 器の生徒達がコピーしバリーの後に続いて演奏する事を繰り返して行われる。 ビー ・バップのリズムとアクセント、音階、 フレーズは独特 で、黒人文化の中 から生まれた言葉のリズムや言い回しと深い つながりが有 り、それ が伝統とな って受け継がれている為即興でありながら数々の決まりがあるし、 「ツーと言 えばカ ー」的な 「暗黙の了解」を学ばなければならない。バリーがちょっとづ つ歌 う節を憶えて、つなげて行くとそのフレーズが実は 「コンファメーショ ン」の曲のコードチェンジで使えるものだ ったりする。すると今度は それと同 じコー ドチェンジを使 ってフレーズを微妙に 変える事で何通りもの違 うフレーズ を 作 って み せ る。 そ の 次 に 作 っ た フレ ーズの 中 か ら た った 3 小 節 ~ 4 小節 分 のフレーズを取り出しそのコ ードチェンジと同じコー ドチェンジを使 っている 全く別の曲のある部分、例えば「インディアナ」「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」 「アウト・オブ・ノーウェアー」などのコードと照らし合わせ、作った フレー ズを応用する。理論的な事だけではなく「グルーヴする事とは・・・」など、 ビー ・バ ップの哲 学 的 な事に つ い ても語 る。
この内容は私がクラスで体験 したほんの 一部の例に過ぎない。 バリーのクラ スはいつもその日に一体何をやるのか全く未定でその時その瞬間に流れている 時間の中で作られていく。まったくのインプロビゼイション(即興)なのであ る。でも長年通っているとその中に一貫したものがあり「真理はひとつ」というような 深い何かが あるのである。



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