スタートアップの特許の考え方

研究開発や技術を強みとするスタートアップは特に特許戦略の組み立てが非常に重要になります。
私が会社で特許戦略や実務をやっていく上で学んだことをシェアします。
なお、以下の内容は、ヒトモノカネが非常に限られているという前提で、効果的に自社の競争力を高めるという視点で、私が考えるところをまとめています。

なぜ特許を取るのか?

(回答)
競争力の源泉である自社技術を権利にし、他社にパクられないため


研究開発や技術を中心においているスタートアップは、成功するしないが競争力の源である技術にかかっています。
その技術を自社の権利として国内外に主張できるために必要なのが特許化です。

特許は権利です。なので、その権利がないと「他の会社に権利を取られたらどうするの?」「簡単に真似されてしまうのでは?」という会社の根幹を揺るがすリスクを抱えたまま会社を運営することになります。

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真似されるだけでなく、もし他社に権利を取られたら自社技術でビジネスができなくなるかもしれないリスクもあります、怖いですね。

特許とは何ぞや、新規性や進歩性の要件って何?、手続きはどうするの、といった内容は以下の特許庁が作った情報にまとまっていますので、そちらをご参照いただくのが一番だと思います。

なので、今回はスタートアップが特許を取る際の考え方をまとめます。
いわゆる特許戦略みたいなものです。

なお、この特許戦略について考える際には、会社全体の事業戦略の方針が固まっていることが前提です。
会社の事業ロードマップに沿って検討をしていくことが大事です。

1. 特許による権利化の考え方アプローチ

特許の権利化については、以下の4つの視点で考えます。

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切り口は、会社が持つ技術の「コア・周辺技術」か、その技術が「技術競争力を高めるか・事業構築に役立てるか」をもとに考えています。

①コア技術x技術競争力:どれだけ広い範囲の特許にできるか

②周辺技術x技術競争力:技術領域のパイをどれだけ守れるか

③周辺技術x事業構築 :事業の参入障壁をどれだけ築けるか

④コア技術x事業構築 :どの国で事業を行うか

1-1. どれだけ広い範囲の特許にできるか

コア技術に対して特許の権利を取る際に、権利を広くとることが非常に重要になります。この広くとるとは何かを考えたいと思います。

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有名な鉛筆特許を上の図に当てはめるとこのようになります。

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六角形の鉛筆で特許を取った場合には、三角形や八角形の鉛筆は自社の権利を侵害していないとみなされます。そこで、多角形の鉛筆とすると三角形や八角形の鉛筆は自社の特許の範囲内です。
一方で、まだ星形や針みたいなもので支える鉛筆は権利を取れていません。この事例に対応するために、「転がらないための接地部を持つ」と面に限定されない広い範囲で権利取得を行います。

(留意点)広くとりすぎると権利として認められない可能性も高まる
あまりに広く特許権利を主張すると、特許庁からNGが出ます。そうすると特許が取れなくなってしまいます。
その対応策としてに請求項という特許の書き方が存在します。
あまり詳しく書きませんが、特許の請求項に

1項に「転がらないための接地部を持つ」鉛筆
2項に「多角形」の鉛筆
3項に「六角形」の鉛筆

と書くことで、1項の権利範囲が認められなかったら2項の範囲、2項もダメなら3項の範囲と特許の中で保険を掛けることができます。

1-2. 技術領域+事業プロセスの両面から競争力を維持

②自社の技術領域のパイを取られないためのコア技術に紐づく周辺特許

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特許の取得は必要な領域のパイを自社でどの程度取ることができるかで、コア技術の競争力が決まっていきます。コアの技術を補完する製造方法や要素技術やアプリケーションなどの領域で特許をどのように取得していくかをしっかりと検討していく必要があります。

特許権利は20年で消える:そのための対応

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どれだけ優れたコア技術の特許権利を取っても、その権利は20年で消滅してしまいます。(ジェネリック薬品が出てくるのも、この特許が切れたタイミング)仮にコア技術の特許が消滅したとした際に自社の競争力を失わないためにコア技術を補強する特許を取っていく必要があります。
それは、上述したような周辺特許でもありますし、コア技術をアップデートしていく特許の場合もあります。

③各事業プロセスで他社の参入を難しくするための特許

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技術の視点から特許を取っていく必要もありますが、同時に事業サイクルに沿って特許を取得する視点も重要になります。

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例えば、各業界で必要な要件が異なる場合に迅速に共同開発により各業界のアプリケーション特許を取ってしまうべき。とか、コピー機のように消耗品の販売で稼ぐ場合に、消耗品をパクられないための特許をどうやってとるかを考えるといった視点です。

1-3. どの国に出すか(コストと事業の展望)

(前提)特許の権利は国ごとに獲得していく必要がある。→属地主義

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日本で発明した特許を日本で権利化した場合、その権利は日本でしか使うことはできません。
そのため権利を行使するために他の国でも特許権利を獲得しなければいけません。特許は日本で出すと1回に30~50万円程度かかります。それを各国に翻訳して出すため、1つの特許で数百万円かかることもざらです。

そのため、どの特許をどの国に出すかは慎重に選ぶ必要があります。
正解はありませんが、私が考える上での思考プロセスをまとめています。

優先度を決める際の分類:国の位置づけx競合や他社所在地

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A 大きな消費マーケット:事業の収益獲得力を維持するために必要
B 本社ラボ      :競合企業の牽制や他社と共同開発する上で必要
C 高付加価値製品の生産:技術の模倣を防止するために必要
D 汎用製品の生産   :技術の模倣を防止するために必要

縦軸:国の位置づけ   (消費国と製造国の視点)
例えば、ライセンスビジネスを製造国に向けてやる場合は、めぼしい業界の製造拠点において特許の取得を考えるべきだし。作った後に売るマーケットで自社の優位性を担保するためには消費国での取得は必要。

横軸:競合や他社所在地(本社と製造拠点/OEMの視点)
さらに、特許をもとに共同開発や共同事業を他国の企業と行うのならば、その企業のヘッドクオーターがある国で特許を取っていることは重要ですし、製造拠点も押さえることで共同開発後の事業発展を見込むことができる。

おおよそ方針をまとめると以下のようになるのかなと考えています。

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2. 特許化するかノウハウとして隠すかの検討

特許化のメリットは、権利にできる。
ただし、特許の内容は公開されてしまいます。

公開されることで以下のデメリットが生じます。
- 権利化された技術の内容がみんなに見られる
- 権利化されなかった技術の内容も特許出願した場合は、みんなに見られてしまう(*)

(*公開される前に特許できるかの審査をしてもらう制度もあります。)

つまり、自社の競争力の源泉が公知になり、それを見てパクられる可能性が高まるということです。

公開されたものを見て、違うアプローチでも真似できたり、容易に再現できる可能性がある場合は、特許として権利化するのではなく、ノウハウとして社内で秘匿情報にするという決定もするべきです。

ちなみに、製造方法など会社の内部で行われるものは、特許を侵害しているのかを立証するのは結構大変なのが通説です。社内情報だから教えることはできないと言われると、ある程度の確証をもっていかないといけなく、スタートアップにその調査をするのはリソースの制約からかなり無理があります。

なお、治療薬とかだと、若干組成が違うけど似たような作用機序をもたらす組み合わせで特許を何十個も出したりするみたいです。そうしないと、似たような効果をもたらす若干組成を変えた物質A´で他社が特許を取れる、または、特許侵害ではない状態になり、パクられたも同然になってしまう可能性があるためです。
めっちゃ大変ですね。

さいごに

私の考え方のアプローチを記載しましたが、重要なのは素晴らしい弁護士・弁理士にサポートして頂くことです。

広い特許を取るためのアイディア、特許戦略のテクニカルなアドバイス、特許とノウハウの線引き、ライセンス契約など、多岐にわたるサポートをしてくださいます。

本当にいるといないとでは大違いです!

経産省や特許庁のスタートアップ支援を手伝っている弁護士・弁理士事務所や特許戦略の本を出されている弁護士・弁理士事務所はスタートアップに親身になってくれると思います。

なお特許戦略を考える上で、以下の本はとても参考になります。特許をスタートアップ成功の重要な要素に据えている会社に是非読んで頂きたいです。



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