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対話型模擬授業検討会を修士論文で取りあげた大学院生、内容といきさつを語る

皆さん、はじめまして!
東京学芸大学大学院修士課程をつい先日無事修了いたしました、豊岡 沙羅(とよおか さら)です。
今回、渡辺先生から「noteに記事書かない?」とお誘いを受けまして、書かせていただくことになりました。
実はこのお誘いはかなり前にしてくださったのですが、修士論文に必死ですっかり忘れておりました。(笑)
渡辺先生、ごめんなさい…!!

さてさて何故、私が記事を書くことになったかというと…
対話型模擬授業検討会を取り上げて、修士論文を執筆したからです!!
タイトルは、

教員養成課程の模擬授業で身につく即興性
〜対話型模擬授業検討会を手がかりに〜

です。

私は一体何者なのか、なんで対話型模擬授業検討会で論文を書こうと思ったのか、対話型模擬授業検討会でどういう研究したか…などなど、先日渡辺先生にインタビューしてもらったのをもとにまとめました。

いろいろ根掘り葉掘り書いていきますので、以下どうか楽しんで読んでいただけたらと思います。


――大学院ではどのような研究をされていましたか?

対話型模擬授業検討会について修士論文をまとめたので、教職大学院で学んでいたのかな?と思う方がもしかしたらいるかもしれません。
実はそうではなく、私は修士課程の方で演劇教育を学んでおりました。その中でも特にインプロ(即興演劇)について学びました。
大学院ではゼミでインプロに関する本を読んだり、インプロワークショップに参加したり…。
後は、学部生の授業に混ざってワークショップや演劇について、一緒に勉強しました。

――なぜ修士論文で模擬授業を取り上げようと思ったんですか?

そこまではとても長い道のりがあるにはあるんですけど…。
そもそも私は研究テーマを決めるのに、とても時間がかかったんです。
テーマが決まるまで、大学院で学び始めたインプロについて論文を書きたい!という気持ちが強くて迷走してました。
だから、修士論文検討会という研究計画を発表する場でも、毎回違ったテーマを出していました。

それぐらい決まらなかったのですが、なんとなく兆しが見え始めたのがM1の3月。もがいている私に大学院を修了していた先輩が声をかけて下さって、春休みに読書会を一緒にして下さったんです。

その読書会の中で自分が何気なくポロっと話したことがあって、それが学部までしていた模擬授業の話でした。私は学部までは他の大学で初等教育について学んでいました。学部でしていた模擬授業は、学習指導案に児童生徒の反応をかっこ書きでセリフみたいに書いたり、台本を書いてその通りに授業を進めたり…という感じでした。模擬授業後の検討会は、検討会というよりか批評会のような感じに近いんですけど、授業の遂行の仕方や指導技術について悪かったところとか改善すべきところを一方的に指摘される形でした。

大学院でインプロを学び始めて、「模擬授業って、あのときは特に何も思わずしてたけど、今思うと変だよな」って思いました。実際、教師になったら目の前に子どもがいて、どんな反応をするかも分からないのに、こんなに計画通りに授業を進めるだけの模擬授業だけしてていいのかな?って。

ここから、論文に模擬授業を取り上げよう!と考え方がシフトしました。

――そこから、なぜ対話型模擬授業検討会を取り上げようと思ったんですか?

もともと対話型模擬授業検討会については、私の指導教員である高尾隆先生に話を聞いていました。他にもゼミの先輩で対話型模擬授業検討会を見学した方とかもいました。高尾先生も先輩も「対話型模擬授業検討会、面白いんだよ」とおっしゃっていたので、「演劇について学んでいる人が面白いって言う模擬授業!?面白そう!」と思ってました。ずっと興味はあったんです。でも、論文に模擬授業を取り上げる!と決めて、すぐには対話型模擬授業検討会にはたどり着きませんでした。

先ほども研究テーマが迷走したと言いましたが、このテーマにたどり着く前は、「模擬授業にインプロを取り入れる→そしたら学生の即興性が高まるんじゃないか」みたいな感じでした。でも、このテーマは実際に実践している大学もないし、私が学生たちにインプロのワークショップを開いて実践するというのも経験不足とか諸々の理由で難しかったんです。
そのときにゼミの先輩から「授業って即興と計画両方大切じゃない?」ってアドバイスもらって、「じゃあ、今ある模擬授業の形態の中で即興性って見出せるのかな?」って思ったんです。今まで自分が経験してきた模擬授業の形態は、即興性は見出せないなと思っていたので、違う形の模擬授業の形態を考えていて、対話型模擬授業検討会に再び出会いました。

―対話型模擬授業検討会ではどのような研究をされたんですか?

 まずは、実際に対話型模擬授業検討会を見学しました。あとは、対話型模擬授業検討会を間に挟んで、前半と後半で4名の学生にインタビューをしました。
今回、私は「即興性」といった観点で対話型模擬授業検討会を見ていました。しかし、見学するだけでは分からない部分が多かったので、実際に授業をして検討会に参加していた学生にインタビューすることで「即興性」を明らかにしていきました。

――実際に検討会を見て、何が印象に残っていますか?

印象に残っていることは2つあります。

1つ目は、検討会の場でしゃべらない人がいないこと
見学しているなかで結構驚きました。対話型模擬授業検討会では1グループ6人~7人くらいの人数なんですが、そのなかで挙手もせずに一人一人がしゃべることができるってすごいなって思いました。ある程度の人数がいると、自分が話し始めるタイミングだったり、そのときの話題だったりによって話すのが難しいときってあるじゃないですか。
それをお互いなんとなく感じ合ってるのか、あまりしゃべっていなさそうな子がいたら話をふるとか、そういうことを自然に学生たちがしていてびっくりしました。
全員が学習者として授業に参加して、こう思ったってことを言葉にできることってできそうで難しいことだなって思います。しかし、全員ができているんですよね…!
とても印象に残っています。

2つ目は、ネガティブなことがネガティブに聞こえないこと
学習者として授業に参加しているなかで、学生たちも気になる部分やどういうこと?って思うことがたくさんあって、でもそれを言葉にするのって結構難しいなって思うんです。参加していた学生たちは、検討会の中でネガティブなことを結構言っている場面もあったなとは思うんですが、それが聞いている方には、あんまりネガティブなことに聞こえないんですよね。伝え方だったり、ニュアンスだったり、ワードチョイスだったり…。そういうのを学生たちは考えて、ふわっと伝わるように意識してるのかなって思います。お互いが気持ちよく話せるように、言うところは伝えるけど、相手がネガティブにならない言葉で伝えるみたいな感じですかね。

今回見学した対話型模擬授業検討会の中でのことで例を出すと…。
インタビューした学生の1人が中学校社会科の模擬授業をしていて、その検討会でまさに「ネガティブなことがネガティブに聞こえない」場面に出会いました。

模擬授業をした学生は、たくさんの自作イラストを使ってパワーポイントで授業を進めていました。検討会の中で、最初「絵がとても良かった! 覚えやすかった」という話から始まりました。
多くの学生がそのように言う中で、1人だけ「絵をあまり覚えていない…。頭に入ってこなかった」と言っていました。最初は「絵が頭に入ってこなかった」と言っていましたが、途中から「文字(耳からの情報)の方が頭に入ってきた」と伝え方を変えていたんです。
後者の言い方の方がなんとなく優しく聞こえませんか?
伝え方を変えたことによって、検討会もだんだんまとまっていった感じがしました。

この学生はインタビューで、「ネガティブなことがネガティブに聞こえないこと」を「批判的な論調にならずに、気持ちを伝える力」と表現していました。この力はこれからの世界で生きるうえで必要な力だとも話していました。対話型模擬授業検討会を通して、さまざまな力を見つけて、吸収しているんだなと感じました。 

――4名の学生にインタビューをしたとのことですが、話を聞いてみてどうでしたか?

 学生の方々にお話を聞いて、4名ともそれぞれ授業の捉え方や考え方が変わるタイミングが大学院に入ってからあったんだなと思いました。

学部までの模擬授業の場では学生たちは、「上手く授業をしよう、失敗しないように自信のある授業をしよう」と安心できる授業をしていたイメージでした。
しかし、今回インタビューした学生は、「対話型模擬授業検討会の場で行う授業では、挑戦してみたい授業をしている」と答えていました。

対話型模擬授業検討会では「完成度の高いもの(失敗がないもの)ではなく冒険があるもの(試行錯誤)」を授業として行うことが求められているので、学生たちが新たな授業に挑戦することは当然だと思われるかもしれません。
しかし、学生たちは学部までの模擬授業に対しては嫌だったとか怖かったとかネガティブなイメージを持っていたことが分かりました。
そこから大学院に入って、授業の捉え方や考え方が変わったからこそ、挑戦する勇気を持って新たな授業を日々行っていることにとても驚きました。

対話型模擬授業検討会に対して、実際にインタビューで出た言葉を使うと

「模擬授業をするのは変わらずそんなに楽しみとかそういうわけではないですけど、検討会は楽しみ
「(模擬授業は)楽しいというか新たな視点を得られたりする」
「(模擬授業をすることは)怖さっていうよりも、この題材を取り上げた授業について、みんなで話してみたいとか興味っていうかワクワク

といった、従来の模擬授業では考えられないようなワードがたくさん出てきていました。

そういった考え方とか価値観みたいなのが変わるのって、人として大きいものだと思うんです。考え方が変わるためにはよほど大きな衝撃だったり、なるほど!って思うような新たな考え方に出会ったりしないと難しいと思うんです。
授業の捉え方や考え方を変えてくれたのは環境だったり、仲間だったり…。

おそらく人によって違うとは思いますが、それらに共通しているのは対話型模擬授業検討会なんじゃないかと、今回インタビューをして思いました。

対話型模擬授業検討会を経験している中のどこかのタイミングで学生たちは授業の捉え方や考え方が変わる経験をしているのだと思います。
そこが今回インタビューをして、感じ取ったところでした。

――修論を書き上げて、自分で得たなって思う部分や成長した部分はありますか?

 これからの仕事につながるのかなっていうのが一番に思い浮かびました。

私は4月から人材開発や人材育成といった分野に進みます。簡単にいうと、研修会社です。教師でもなく、演劇系でもない道に進むのですが…。(笑)
でも、これからの仕事に今回の修士論文はつながると、書き終わったあとに感じたんです。

私は今回「即興性」という観点で研究していきました。
社会の中で、「〇〇性」とか「〇〇力」ってたくさん聞く言葉だなって思うんです。コミュニケーション力、傾聴力、主体性、柔軟性とかとか…。

社会の中でも、これらの能力って必要とされてますよね。だけど、こういう「〇〇性」とか「〇〇力」って、自分で身についているかどうか分からないものなんだって改めて思ったんです。

インタビューで「即興性は身につきましたか?」と聞いても、「“多分”身についたと思います」って曖昧なニュアンスで返ってくることが多くありました。きっと、自分で身についたかどうか、実感としてわからないんだと思います。

でも、他の人から「あなた、この力あるね」って言われると、自信をもって「私はこの力があります」って言えるのではないか?と思いました。実際に今回のインタビューした学生で、「実習校の先生に『生徒の言葉を拾う力があるね』って言われたので、その力があるんだと思います。」と話してくれた人がいました。

このお話を聞いて、ただ他人に「〇〇力があるね」と言ってもらうことに意味があるのではなく、同じ経験をしたことがある、というのが大切なのかなと思いました。先ほどの学生のインタビューでいうと、「実習校の先生」がキーになると思います。実際に生徒の言葉を拾うことの難しさを知っている先生が「あなた、力があるね」と言ってくれるからこそ、学生も自信をもって言えるんだろうなと思います。こうやって、曖昧だった「〇〇力」が実感として身についた!に変わるんじゃないかって考えました。

私はこれからの仕事では、そうやって研修を経験した方々が他の人に言ってもらうことで自分の力に気付けたり、さらには同じ経験ができる場所だったりを研修を通して作っていくんだと、新たに考えることができました。

「同じ経験ができる」ことは、会社だと結構難しいことなのではないかなと思うんです。
よく3年目研修とか耳にしますよね。確かに3年目という働いてきた年数は同じだけど、実際の業務内容や立場、部署によっても経験しているものが大きく違うと思います。そのなかで3年目という括りで研修を行うことは、同じ経験ができる絶好の機会なのではないかと思います。
もしくは研修の活動のなかで、自分が経験したことを話したり他の人の経験を聞いたりすることで、短い時間でも今までの経験を共有できますよね。

こういう場所を作っていくのがこれからの私の仕事なんだと、正直書き終わるまでふわふわしていた仕事のイメージが、少し明確になった気がしました。これから、この論文で学んだことを存分に発揮できるように頑張りたいと思います!


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

指導教員として最後まで優しくご指導してくださった高尾先生、そして対話型模擬授業検討会について研究することを快く受け入れてくださった渡辺先生を始め、インタビューを受けてくださった学生さん、そのほかたくさんの方のご協力があって、修士論文を書き上げることができました。

1人で論文を進めていても、きっといつまでも霧の中にいたと思います。
たくさんの方とお話をしたり、聞いたり、一緒の本を読んで意見交換したり…。
論文を書き上げるまでに、私はたくさんの方から刺激をもらい、考え方がアップデートされていきました。修士論文を通して、大きな経験ができました。

この記事を書いていて思ったんですが、私が論文を通して考え方が変わり始めたこと学生が対話型模擬授業検討会で授業の捉え方や考え方が変わったこと同じような経験をしているんだなって気付きました。

対話型模擬授業検討会の場がもっとたくさんの方に知ってもらえてより活発な場になるように、この論文がきっかけに少しでもなれば嬉しいです。

東京学芸大学大学院修士課程高尾ゼミ修了生 豊岡沙羅






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