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だがメタモルフォーゼの情熱はある…

2022年6月公開『メタモルフォーゼの縁側』
2023年4月放送開始『だが、情熱はある』

公開日も放送開始日も異なるこの2作品。
共通する点は一見してないように思える。
しかしながら切っても切り離せない関係性がある。
『メタモルフォーゼの縁側』
⇒音楽:T字路s / P:河野英裕
『だが、情熱はある』 
⇒音楽:T字路s / P:河野英裕

メタモルフォーゼの縁側

まずは『メタモルフォーゼの縁側』から。
きっかけは何気ないことから。もともと『最後から二番目の恋』が大好きで、『姉ちゃんの恋人』も好きで、岡田脚本だし、芦田愛菜ちゃんだし観に行きたいなと思っていた。
あらかじめ劇中BLドラマ『君のことだけ見ていたい』も見て、満を持して視聴。

開始5分で心を奪われた。なぜか分からないけど溢れてくる涙。
自分の好きなものを知ってもらえる喜び。認めてもらえる歓び。共感してもらえる悦び。
きっと人生で一度でも『推し』に出会えた人にならば誰にでも分かってもらえる感情だと思う。
"好き"の強さと脆さ。
知ってもらいたいけど、知られたくないもどかしさ。
"共感"を得られる喜びと妬み。
誰しもが抱え得る感情を見事に丁寧に描いた作品だった。

また、ストーリーの秀逸さと同時に映画における音楽の意義を知った瞬間。
ストーリー展開と同時にポップな音楽。だるい音楽。視聴者の心を巧みに操る音楽たちに一瞬にして気づかないうちに心を奪われた。

だが、情熱はある

そんなメタモルの感動を懐かしく思う頃に現れた『だが、情熱はある』
ストーリーはいたってシンプル。
今を時めく朝の帯番組も担うお笑い芸人・山里亮太
出演番組は数知れず、トップオブ ザ 漫才コンビオードリーの若林正恭
ふたりの生涯を描いた日テレ系連続ドラマ。

ジャニーズ事務所所属タレント出演ドラマ、通称”ジャニドラ”愛好家の私にとってKing & Prince の髙橋海人くんとSixTONES の森本慎太郎くんのW主演とあって、情報解禁時から期待値は高かった。
一方で、ANNリスナーとしては大好きなオードリーさんの半生をどう描いて
くるか、ちゃんと描いてくれるのか、不安もしばしば。

音楽の効果

『だが、情熱はある』初回
開始数分、考える暇も与えられず、全身が震えた。
脚本はさることながら、音楽。
映像作品における音楽の重要性を改めて感じた瞬間。心を奪われた。
『メタモルフォーゼの縁側』を観た人ならば誰しも同じ感情に襲われたことだろう。
確かに今までもドラマや映画を見ていて「素敵な音楽だな」とか「これ○○の劇伴!」と思ったことはあっても、それで身震いすることはなかった。
それを超越する強さがT字路sの音楽にはあった。
音階がT字路s。転調がT字路s。テンポがT字路S。
唯一無二の音楽がそこに。
過大評価だと鼻で笑った人は、ぜひ両作品を観て欲しい…

ストーリー

前述の通り、ストーリーはいたってシンプル。
2021年「たりないふたり」最後の漫才後倒れる若林さん。
それを「伝説になっちゃう」と恐れる山里さん。
そんなふたりのこれまでを交わることのないふたりの学生生活から描く。

対比

演出効果から書き始めるのは何とも邪道だけれど、このドラマにおける一番特徴的な”対比”の演出。

まずは1話。
自宅と教室。それぞれの場所で窮地に立たされる山里と若林。
「俺は」「俺は」
「面白いと思っている」
「面白くないから」
なんてワクワクする演出なのだと心奪われた。

2話ラスト10分、山里と若林それぞれの独壇場シーン。
ただふたりがエピソードトークを話すだけの時間なのに、圧倒的迫力。
切り替わる画面と徐々に高まるふたりの熱量、一言も聞き漏らしたくなくて、ひと時たりとも目が離せなかった。
「わかんないですけど」「今一番熱を込められるのは」
「「これかなって」」
このふたり、なんなんだ。足りないどころか、魅力が多すぎる。

4話の二組が別々に暴れ始めるシーン。
自転車を投げられる山里、客席に飛び込んで体を張る若林。
この時の音楽がまたいい。
このシーンでこのスローテンポの音楽を選べるセンス。たまらない。

6話の谷 勝太さんと南海キャンディーズのネタシーン。
病を抱えながらステージに立ちまぶしい笑顔を見せるタニショーさんと
やっと見えた一筋の光を必死で掴もうともがく南キャン
命をかけて、人生をかけてお笑いに生きる二組のシーンは涙なしには見られない。
髙橋海人さんの目から流れる涙もとても印象的な一場面だった。
そんな時でもマイペースな春日さんも秀逸。

これからもどんな”対比”が出てくるのか、今からわくわくしている。

ものまねじゃない演じるということ

そして言及せずにはいられないのが、やはりキャスト陣の熱演。
視聴者の誰もが”ご本人”を知っている役を演じるのは研究しやすい反面、プレッシャーも相当だったであろう。
ましてや”ジャニーズ”という輝かしい看板は逆風となることも多い。
現に放送前から賛否両論の否の方が記事やSNSで取り上げられることが多かった。

しかし、1話放送後向かい風が止んだのは言うまでもない。
ご本人たちのファンや、「ジャニーズだから」と言っていた人たちまでもが目を疑うふたりの演技。
『泳げ!ニシキゴイ』でお笑いコンビ・錦鯉の長谷川さんを演じた経験があるSixTONESの森本慎太郎くん。
前作の時も高評価だったが、今回もすごかった。
見た目を完全に寄せているだけでなく、仕草、口元の動き、くすぶっていた頃のひねくれた性格が表情に現れてしまうところまでまさに完コピ。

一方のKing&Prince髙橋海人くん。かくいう私も森本くんのビジュアルには感動していたが、放送までに解禁された写真だけでは「やっぱり海人くん」と思ってしまっていた。
ごめん。海人くん。
若林さんの独特のしゃべり方。口を縦にあまり開けず横に広げて、少し舌足らずに話す彼はもう、若林さんそのもの。
まばたきを少し強めにするところも、かたい身体の動きも、ちょっと顔を斜めにして喋る姿も。
一朝一夕に”ものまね”したわけじゃないと素人でも分かる研究っぷり。違和感も嫌味もなく、好感を持って見られる演技。すごい。ただただ感動した。完敗だった。

ふたりだけじゃない。
春日さんを演じた戸塚純貴さん、しずちゃんこと山崎静代さんを演じた
富田望生さん、谷 勝太さん(恐らく前田健さんがモデル)を演じた藤井 隆さん。さらにCreepy Nutsをモデルとした(であろう)クリー・ピーナッツを演じるかが屋のおふたり。
役者陣のご本人へのリスペクト溢れる熱演が本当に素晴らしかった。

私はとりわけ「たりないふたり」を詳しく知るわけでも、オードリーや南海キャンディーズの大ファンというわけでもない。
知らないエピソードも、知らない小ネタも、実はあの時…も分からなくても楽しんで見られる。
そしてたまに知ってる話が出てくるとちょっと嬉しい。
なんて良くできた伝記なのだろうか。

サクセスストーリーでもない

第1話放送時に話題になった水卜アナのナレーションにもある通り「サクセスストーリーでもない」かもしれないけれど、このドラマから得られるエネルギーはすごい。
熱量の源が、妬みでも、反骨心でもなんでもいい。
ただ一つの道を究めた男ふたりの生き様は見る人に確かな勇気を与えてくれると私は思っている。
「モテたい」「笑ってほしい」「幸せになりたい」
原動力なんてカッコ悪くても、なにかたりなくても続けること、もがくこと、信念を貫くことってこんなにまぶしいんだと思わせてくれた。
頂点までの道のりがたとえ泥臭くても無様でも、ご本人たちは振り返りたくない過去かもしれないけど、夢中になれるものがあるっていいな。
山里さんは放送中のTwitterなどでも演じる森本くんに謝罪するなど、過去の言動はなかなかに厳しい面もあるが、相方への嫌な態度もほぼストーカーと思しき行動も、お笑いへの執着心と将来の栄光を考えるととても素敵に感じる。そんな(ご本人も認める)負の部分もさらけ出した脚本はこのドラマの核となっている。
だから「サクセスストーリーでもない」のかもしれない。
だけど好きって強い。情熱って強いんだ。

脚本

脚本でいうと、題材となる人物がいるというのはやっぱり終着点が決まっていて、展開もある程度視聴者が分かっているので、ストーリーの組み立て方が難しいと個人的には思う。
それを超えてくる巧みな展開。
学生時代はもちろん知られていない部分が多いけど、初めに組むコンビがいずれ解散するであろうことも、苦さを味わったのちに賞レースを勝ち取ることも分かっていても胸に来るものがある。
ふたりそれぞれの物語が進む中でいい頃合いで入ってくる対比の演出、タイミングを熟知して流れる音楽、メリハリのあるナレーションがポップさとテンポ感を後押しする。

現在6話まで放送中。たぶんもう折り返し。
これから多くの人が”知っている”ふたりをどう描いていくか。
ますます目が離せない。

なべ


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