無農薬ってなぁに?強いの?美味しいの?

Facebookで「そこらへんでテキトーに作られた無農薬、無添加野菜の方がスーパーで売っている野菜より余程怖い」とポストしたら、なんで?って声を多数頂いたのでここに自分の見解をまとめていきます。

Q:農薬ってなんで必要なの?

A:虫くんがつかないようにするためです。

Q:農薬まみれの野菜って虫も食わないって聞いたわよ?

A:いいえ、虫が寄ってくる野菜のほとんどは「肥料が大量に使われた野菜」です。順番が違います。虫が寄ってくるから農薬を使う、んです。

Q:なんで肥料なんか使うのよ?

A:味がよく、大きく育つからです。

Q:じゃあ肥料だけでいいじゃない?

A:農薬を使わないと歩留まりが下がる=形や色が悪くなるし、鬼の様に虫がつくけどそれでもあなたが買ってくれるなら。形が悪いのは我慢するけど虫は我慢できないわ!って人も多い。虫も自然の一部なので、それだけ排除しようとする行為自体が自然の理に反していますけどね。人間は勝手ですね。

まとめると、

1・大きくて美味げで売れそうな野菜が欲しい=肥料が要る

2・虫くんが寄ってくる

3・虫くんをやっつける為に農薬を使う

と言う循環が繰り返されることになります。

Q:じゃあ無農薬栽培ってなぁに?

A:一般的なイメージでは農薬を使わないで農作物を育てること、だと思います。が、農薬を全く使わずに普段我々がお店で目にするようなデカくて美味くて甘くて綺麗で派手目な野菜や果物を作ることは「ほぼ不可能」です。ここをまずよーく理解してください。いやスプラウトとかモヤシとかもともと農薬なんか使わないでも栽培できる作物もあるんですけどね。

言い換えるとイメージに近いのは化学肥料を使わないで「有機肥料」で栽培した作物、という感じでしょうか。自然農法って概念もあるんですけど、ややこしくなるのでそれはまた別の機会に。そして有機栽培だからって農薬を使わない、とは限りません。

と言うより、現在、日本では一般販売用の作物に「無農薬」「オーガニック」と言う表記は認められていません。禁止されました。その背景もお話しします。

Q:有機肥料ってなあに?

A:簡単に言えば家畜のウンチやシッコです。堆肥とも言います。伝統的に生に近いものほど良いと言われています。自然から生まれ、自然にかえってゆくものです。昔のお百姓さんは自然な循環を大切に自然なものを作って自然に暮らしていたのです。自然バンザイ、と一応言ってみる。

Q:まさにSDGs!現在もそうあるべきなのよ!

A:いや、単純にそんな昔では現在の様な農薬も肥料もそもそも農法も存在してないから、そうやって生産せざるを得なかっただけです。それが色々な要因で劇的に改善されてきて現在に至ります。化学万歳。

Q:でも化学肥料より有機肥料の方がいいでしょう!絶対よ!

A:有機肥料の問題点、それは特に使用方法に規制がないってことです。

有機栽培って少年ジャンプに出てくるような様々な流派があって、みんなそこの免許皆伝になれるんです。例えば自分のシッコからでる偉大なパワーを苗に照射することで通常の3倍のスピードで育つ赤い色のカブが取れる、とか何でも良いわけですよ。

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なので一時期、巷にはそれはもういろんな”自称”オーガニック、”自称”無農薬な作物が溢れて市場が混乱したんです。そこで農水省からそういった表記が禁止されました。今、日本の市販品でもっとも厳しい基準は「有機JAS認証」です。これにしても30くらいの農薬の使用は認められています。その中には酢とか石灰とかもありますけど、これらも「農薬」です。化学肥料は厳密に使用量や使用法が定められていますが、有機系は定められていません。経験とか感とか才能とか天からのギフトがものを言う世界です。そして、堆肥はアメリカからの輸入も多いです。そういえばアメリカの牛ちゃんたち、遺伝子組み換えの飼料を結構召し上がっていらっしゃいますよ。それは気にならないんですか?

それと全く農薬使わないで野菜作った場合、例えばウリ系(かぼちゃ、きゅうり、メロンとか)は相当苦くなりますよ。この子達、虫くんへのストレス体制が弱いのですぐ自分で毒を出しちゃうんです。そうそう、あと無農薬だとやたらナメクジが集ります。ナメクジには寄生虫がいて下手すると死にますが、それでも食べてくれます?

Q:でも農薬は絶対に悪いらしいわよ!

まずこの世に絶対なんて価値基準はないと思います。

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それはとっても危険な思考ですよ。ところで、日本の農薬使用の検査がどれだけ厳しいか知ってますか?例えば農薬を使った野菜は10日とか明確な時間を定めて収穫も出荷もできないんです。市販の農薬は全て厳密な安全基準が定められています。認可が降りるまで普通は3年、人間より影響のでやすいラット(ネズミちゃん)を中心に様々な検査が行われ、安全性が確かめられてからようやく認可となります。一方、無農薬や自然栽培には得体の知れない資材を使っているケースも多くあります。そのリスクは誰が評価するんでしょう?そんなもの関係ない、農薬は絶対に悪なんだ!と言うならどうぞお好きにお召し上がりください、としか言えません。

Q:この田んぼのお米は無農薬をうたっているわよ!

A:その田んぼでは使っていないのかもしれませんね。でも悲しいことに日本って狭いんですよ。

マンションとかに住んでいる人、隣のベランダからタバコの煙が入ってきて「クッセェなぁ」と思ったことはないですか?これと同じです。オイラの田んぼでは農薬を使ってない!健康だべっちゃ!と言ったところで隣がドバドバ使っていたら?雨なんか降った日には隣の農薬がこんにちはー!って元気よく流れ込んできますね。それどうやって防げますか?そしてこれにはもっと深い問題があります。自分の田んぼが無農薬で、万一失敗したら?病害虫を発生させてしまったら?そうです、それが隣の田んぼに飛び火するわけです。問題の可能性としてはそちらの方がよほど怖いわけです。

Q:国が大企業と癒着してるらしいのよ!

A:国の仕事は原則、富国強兵だと思っています。栄養の高い食事をすることで国民の健康、気力を向上させしっかり働いて収益を得て、税金をたくさん収めてもらう為じゃないですか、いわば我々は大事なお客さんです。なぜ好き好んで体に悪いものを使わせてお客さんを不健康にしないとならんのですか、自分に巡ってくるじゃないですか。大企業にしても同じことです。商売は真っ当にされるべきで、そうする方が自社の恒久的な利益に直結すると言うことはまともな企業なら骨身に染みてわかっています。それを理解していないで突き進む企業なんかもはやありません。あるとしたらそれはただのテロ組織です。

Q:でも輸入品は怖いでしょ!中国とかさ!

A:ピンキリです。ちなみに中国でも健康に良い食物のニーズは爆発的に上がっています。何せ広大な土地がありますからね、蒙古とかではかなりオーガニック製品が出て来ていますよ。有機JASもGAPもあります。

さて、よく聞く中国での食品の安全性に関わる問題のほとんどは、単純に日本が昭和の頃に経験したことをなぞって来ただけだと思っています。無知から起きた事、とも言えます。さらに言うなら日本を始めとした世界各国が中国に「もっと安く!もっと安く!」と迫ったせいはありませんか?得られる利益が一緒ならそりゃあ手も抜きますよ、バレなきゃ。しかしそれでも日本の水際対策は非常に厳しいです。先ほど日本の農薬使用の基準は厳しいと言いましたが、輸入農産物に関してはその比ではないチェック体制が取られています。中国だからって一律に心配しなくても問題ないかと。

Q:じゃあオーガニックとか無農薬って結局なんなの?

A:極論したら生産者の自己満足の結晶です。ただしぼくがお会いした農家や生産者のほとんどの方は真面目に、地道に、どうやったらより健康によくて美味しいものが作れるのか?を進めている方ばかりでした。だから皆さんに会いに現地まで行きましたし、考えに共感をした人には声をかけましたし、なんとかお力になりたいと思ったのです。そう言う人たちは植物を育てるのにはどんな元素が必要なのか?土壌に有機物を入れたら何がおこるのか?などをただの経験則だけに頼らずに多角的に研究して分析している人たち、です。

まぁ仕事なんてある意味で自己満足の延長だと思っています。その結果がより多くの人に受け入れられるなら成功するでしょうしね。

ぼくが嫌いなのは、それを食い物にするような奴らです。

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気軽に製品化を持ちかけたりするコンサルや、目利きもしないで売り場だけ提供するECサイトとかはその典型です。営業電話だけかけてきて「こだわりのお野菜を販売するお手伝いしています!うちで販売しませんか?」って誘う”だけ”の奴ら、農家の方々なら経験はおありですよね。

Q:生産者の宣伝になるならいいじゃない?

A:それで生産者の利益が向上しているなら、ね。でも例えばそういうサイトはそこそこの手数料をとります。平均したら10−20%くらいでしょうか?さらに配送料の問題もあります。それらを販売価格に足して行くと結局現実感の無い価格になって行きます。どんなに拘った作物でも、普通の消費者が、少し高くてもいいや、くらいの価格に抑えて販売せざるを得ないのが現状だし、そうするには生産者が原価を削らざるを得ない状況がほとんどだと思います。手間をかけるだけ儲からない。そんなもん余程のマニアじゃなけりゃやらないし続かないですよ。少し高く売れる、でやれることには限界があります。それじゃ一般に売っている野菜に毛が生えたくらいの差別化しかできない。そのくらいでは結局イオンとかに負けます。なぜなら消費者にそれだけの価値しか提供できないからです。アパレル業界を見てください。少し高いくらいのブランドはことごとく死に体です。一部のトップブランドかもしくはユニクロ以下のSPAしか残らなくなって来ています。農業でもこれと同じ流れは必然です。

で、現段階で多少の宣伝になってもそれって本当に良いことなの?って思うんです。ある程度売れる様になったら、でもいいですが、ぜひ「脱プラットフォーム」を目指して自分で販売してください。自分の生産物、自分自身の価値を高めてください。そうすれば口ばっかりの業者連中に中抜きされるよりも自分で直接売ったほうが早いし儲かる様になります。

というか生産者の方もその位の勉強はしてください。何度も地方に行って講演とかさせていただく機会も多かったですが、噛み付いてくる方々は皆さん感情論でした。「俺はもの作るしかできねーんだよ」って逆ギレする人は、これからどんどん仕事減りますよ。

ぼくは生産者のこだわりが10倍とかで売れる世界を作りたいんです。その為には日本人に売らなくていいじゃんとこの何年かずっと思っています。

Q:じゃあ消費者はどうしたらいいの?

A:好きなものを好きに選んで好きなだけ食ってください。ただ、少なくとも、らしい、ラシー、Rasee、をやめましょう。TVとか人の噂、ネットの情報を冷静に噛み砕き理解しましょう。なぜか無添加無農薬万能論の方々は、眉間に皺を寄せて非常に苦しい厳しい顔で無農薬の素晴らしさを語る人が多いんですよ、そして農薬や化学肥料を憎む、親の仇みたいにね。もうちょっと肩の力を抜いて食を楽しみませんか?もちろん、アレルギーや病気などでそう言う食物を必要としている人も多いことは承知しています。だけど特に影響も出ていない段階で農薬ガー!添加物ガー!と騒ぎすぎな人のなんて多いことか。プラシーボって偉大ですよ。どうか、もう少しだけ気を楽に。

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それと「安心安全で安い」はごめんなさい。ぼくの知っている限り地球上には存在しません。当たり前ですが拘ったものは高いです。適正な金額を払いましょう。それが生産者さんへの敬意になると思います。



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