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今日のジャズ: 7月6日、1961年@ニューヨーク

July 6, 1961 “Take the “A” Train”
by Duke Ellington and Count Basie with their combined Orchestras at  30th Street Studio, New York for Columbia (First Time! The Count Meets The Duke)

デュークエリントンとカウントベイシーというジャズオーケストラの二巨頭が、一同に会した豪華で意欲的な作品。「公爵」の”Duke”と「伯爵」の”Count”が出会うという企画。爵位で言うと公爵の方が上位で伯爵を任命する権限を持つのだそう。それもあってか、「伯爵が公爵に初対面!」というアルバム名になっている。そして本アルバムは最初にして最後の貴重な共演作品でもある。

そのお互いの肩書のニックネームを二人は意識していたのだろうか。演奏は、右側がデューク楽団、左側がベイシー楽団とステレオ録音を通して対等に聴き分けられる設定。

楽曲はエリントンの右腕・書生と評されるビリーストレイホーンが1939年に作曲したジャズ界きっての大スタンダード、「A列車で行こう」。この音楽の高揚感は、子供の頃に心待ちにした列車に乗る気持ちを表しているようだ。

1932年に始まったA列車は、1936年に当初の路線が延長された事でブルックリンからマンハッタン中心地やハーレムに直通となり、共にアフリカ系アメリカ人コミュニティのあるマンハッタンのハーレムと近隣のブルックリンを繋ぐことで重要な役割を担ったそう。ハーレムにはブラックミュージックの聖地とも言えるアポロシアターがある。もう一方のニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ大居住区ブルックリンは、ニューヨーク開拓初期のオランダ人移住者が母国の地名、「ブルーケレン」由来の地名とのこと。

“A” Trainの当時の写真

二つのバンド全員で30人という大所帯だけに編曲に配慮しつつ、バンドの統率とバランスに重きを置いた結果、それぞれの特徴を活かした演奏が記録されている。オーケストラによるテーマ曲や楽器を入れ替えながら両者の名プレイヤーが、交互にソロを演奏して、オーケストラのアンサンブルで終わりを迎える。

本演奏は、ベースはベイシー楽団のエディージョーンズで所属バンドと同じ左寄り、ドラムはエリントン楽団のソニーペインで反対の若干右寄りに配置された、これまた他では聴けない組み合わせ。

冒頭のメロディーはエリントン、その後のピアノソロは、アルバム名に沿って、15歳年上のデュークが譲ったのかベイシーが主導。デュークはシンプルな掛け合いのみに留まり、横綱的に受けて立つ姿勢が一貫している事が分かる。この二人の演奏を比較すると、デュークの太い音色のジャズの原型ラグタイム的なリズムを外すシンプルな演奏と、ベイシーの軽やかで洗練されたラグタイム発展系の煌びやかなストライド的なスタイルが浮き彫りになる。

ソロは両バンドのトランペットやクラリネットの堂に入った奏者達の名人芸的な掛け合いによるもので、競争ではなくて共奏しているところが耳心地良く聴こえてくる。そのやりとりは、笑点の大喜利のような安定感のある、それでいて飽きさせない、思わず手を叩きたくなる芸達者な面白みがある。

ビッグバンドならではの壮大なアンサンブルが聴きどころで、3:23からのドラムとバンドとの掛け合いの個所において、如何にドラムがビッグバンドのスイングを主導しているかが分かる。残念なのが、唯一のギター、名手フレディグリーンの刻むリズムがかき消されているのか聴き取れないこと。

ジャズミュージシャンには、この「公爵」と「伯爵」以外にも、肩書き的なニックネームがあって、「王様」はボーカルの巨匠、Nat “King” Cole、「大統領」はジャズテナーサックスの開祖の一人、”Pres” Lester Youngと頭抜けた演奏者が揃っている。

もう一つ、変わった類として「フィラデルフィアの」という名ドラマー”Philly”ジョージョーンズに付けられたニックネームもある。これは、モダンジャズドラムの先達であるジョージョーンズと名前が被ったために、敬意を表する意味もあってフィラデルフィア出身の、という意味の”Philly”を使ったものだそう。その後のフィリーの活躍もあって、オリジナルのジョージョーンズにも”Papa”というニックネームが付けられた。

初期のカウントベイシー楽団には、これら三人が同時期に所属していたので、「大統領」がテナーを吹き、「親父」がドラムを叩き、「伯爵」が仕切るという、その演奏者達の名前だけでエンターテイメントを感じさせてくれる。伯爵と大統領の掛け合いなんて、面白いに決まってる。

「伯爵」CBと「親父」JJのツーショット
いよっ「大統領」
私はフィラデルフィアの方です。お間違え無く

さて、この両ビッグバンドの豪華な組み合わせは、敏腕プロデューサーのジョージアバキアンとテオマセロの双頭コンビでないと実現しなかった企画だろう。因みにこの頃、あの”Take Five”が発売から二年の時を経てマセロの手によりシングルカットされ、ヒットチャートを賑わせ始めた頃。本作も”Take Five”同様にマセロとニューヨークの30th Streetスタジオの組み合わせ。

“The Church”と呼ばれた30th Streetスタジオとフィリージョージョーンズについて興味を持たれた方は、こちらの「皇帝」マイルスデイビスの演奏をご堪能ください。この名演は、本紹介曲のもう一人のプロデューサー、アバキアンのプロデュースによるもの。

最後に、エリントン作曲スタンダードの名演はこちらからどうぞ。名手三人によるエリントン愛に溢れる演奏です。

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