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膝蓋大腿関節痛を考える。

膝蓋大腿関節痛

 このような診断をされたことがある、もしくは聞いたことがありますか?
膝蓋骨と大腿骨で構成される関節が膝蓋大腿関節です。

 膝関節は上の図のように

・大腿骨
・膝蓋骨
・脛骨

の3つの骨によって関節が構成されています。(腓骨も存在しますが、脛骨との関節を構成するため省きます。)
 主に膝の屈伸運動で痛みを感じることが多いですが、端坐位での屈伸運動もしくはスクワット動作で痛みを感じたり、普段の運動時に痛みを感じたり、階段昇降で痛みを感じたりと、人によって痛みが出るパターンは違います。
 そもそも膝に痛みを感じる疾患は数多く存在します。

・変形性膝関節症
・前十字靭帯損傷
・膝外側もしくは膝内側側副靱帯損傷
・内外半月板損傷
・膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
・オスグッド・シュラッター病
・膝蓋下脂肪体炎
・腸脛靭帯炎
・鵞足炎
などなど・・・

 なぜこの中で膝蓋大腿関節痛を選んだかというと、運動初心者やスポーツ愛好家の方々に容易に起こりやすいからです。もちろん普段からトレーニングや練習を重ねているアスリートにも起こり得ますが、アスリートは激しい動きの中で瞬時の判断で様々な動きを必要とすることが多く、膝蓋大腿関節痛以外の半月板損傷や前十字靭帯損傷を起こすことも多いためです。
 この膝蓋大腿関節痛は日常的に走りこんでいるランナーなどに多く、オーバーユース(使いすぎ)によるものと考えられることもあります。

 しかし、本当に使いすぎによるものでしょうか?もちろん使いすぎによって痛みが出ている場合も往々にしてあるでしょう。ですが、使いすぎとはどこからが使いすぎ?何をもって使いすぎ?となると思います。今回はこの膝蓋大腿関節障害について考察していきたいと思います。

 患者さんによっては膝の中が痛い、前が痛いなどの訴えがあります。また、普通の曲げ伸ばしは大丈夫であるが、スクワット(SQ)動作では痛いなどの症状の訴えもあります。

 まず、膝の屈曲伸展運動時には膝蓋骨の運動も伴いますが、この膝関節の運動時における膝蓋骨の動きは矢状面上の動きだけでなく水平面・前額面上の動きもわずかに伴います。「最初の屈曲30度まででは内側に、その後の90度までは外側に偏移する」ことがわかっています。
 このように、膝蓋骨は負荷のかかりにくい適切な軌道をとるためにこの微妙な左右の動きを伴いながら動きます。しかし、膝に痛みを有する人においては外側への偏移が痛みのない人に比べて多い傾向があるとのことです。外側への偏移量が大きくなってしまう理由に関しては後程述べます。

 また、膝蓋骨は膝関節において滑車の役割を果たし、膝関節の屈曲伸展動作を容易にする役割があります。この膝蓋骨の存在が膝の運動を円滑にしているわけですが、膝蓋骨そのものににかかる負荷は大きく、膝蓋骨と大腿骨との接触面積(膝蓋大腿関節)が最大であったとしても膝蓋骨の後面1/3に過ぎません。つまり、最大であったとしても接触面積が狭いために安定性には欠けてしまっているわけです。そのため、接触面にかかる圧縮力も大きいです。
 膝蓋大腿関節への圧縮力は平地歩行で体重の1.3倍、SLRで2.6倍、階段の登りで3.3倍、SQで最大7.8倍ともいわれていることからも、膝蓋大腿関節痛を訴える患者さんへの運動療法においては、この圧縮力をどれだけ分散させることができる身体にもっていけるかが重要なカギとなるわけです。

 膝蓋大腿関節の痛みは上記の膝蓋骨の動きの異常や圧縮力が繰り返しかかることによって関節軟骨への負荷が強くなり痛みを発症します。

 では、「膝蓋骨の外側偏移量が増大するのはどうしてか?」です。理由は様々です。

・骨性のアライメント不良によってQアングル増大
・股関節外転筋群の弱化による股関節内旋誘導
・距骨化関節の回内による上行性のアライメント不良による膝関節外反
・内転筋の緊張による大腿骨内転位への誘導
・腸脛靭帯や大腿四頭筋の過緊張などによる膝蓋骨にかかる外側牽引力の増大

 上記の理由によって膝伸展屈曲運動における膝蓋骨の動きの不良によって疼痛が誘発されます。大腿四頭筋の過緊張に関しては、四頭筋全てが膝蓋骨の外側牽引力に関わるわけではなく、主に外側広筋の作用方向が外側寄りであるためです。内側広筋は膝蓋骨を内側に牽引する作用を持ちます。
 圧縮力に関してはスクワット動作においてしゃがむ動作が深くなればなるほど膝蓋大腿関節への圧縮力は増大します。大腿四頭筋の過緊張によっても圧縮力は増大します。

 上記の内転筋緊張や腸脛靭帯の緊張、大腿四頭筋の緊張はなぜ起こるのかですが、臀部の弱化が影響している可能性が大いにあります。
 まず、臀部の筋力発揮がスポーツ動作に与える影響は非常に大きく、臀部の弱化が膝前十字靭帯断裂の代表的な原因の一つともいわれているほどです。前十字靭帯再建術後のスポーツ復帰は半年〜1年程度と言われています。復帰までのリハビリ期間でジャンプ動作やダッシュなどの動作も行っていきますが、このような動作における臀部の貢献度はかなり大きいため、臀部の筋肉はそれだけ、強化する意義の大きい筋と言えます。
 それだけでなく、臀部が他の筋群とも協調的に働くことによって各関節にかかる負荷が分散され、外傷や障害の予防につながります。
 つまり、臀部の弱化によってその他の股関節周囲の筋肉が臀部の弱さを肩代わりすることになるため、特定の筋肉に過剰に負荷がかかり続けることで過度な緊張を起こしてしまいます。これがいわゆる「つかいすぎ」というものだと私は認識しています。

 では、なぜ運動している人は運動習慣があるのにも関わらず臀部の弱化がおこるのでしょうか?

 これは股関節の使い方が不適切な場合が多いことが挙げられます。スクワット(SQ)動作をすることによってその評価はある程度可能ですが、踵が浮いてしまったり、そこまでならなくとも体幹が前傾せず膝が過度に前方に出てしまう、膝が内側に入ってしまうようなSQは基本的に臀部の筋を適切に使えていないことが多いです。(余談ですがSQは膝がつま先より前に出てはいけないというわけではないです。目的によって変わります。)

 そのため、膝蓋大腿関節障害を有する患者さんにはSQ動作の修正と習得をしてもらうことがポイントになります。
股関節の使い方を習得することでスポーツ動作時の衝撃吸収能力を向上させることが可能となるのと同時に、臀部の筋が活動しやすくなります。
臀部が使えるようになると

腸脛靭帯や大腿四頭筋への過度な負担が減る
  ↓
筋緊張の低下
  ↓
膝関節への圧縮力が軽減

につながります。
 もちろんSQだけでは足りません。脚を前後に開いたスプリット姿勢や片脚によって負荷を漸増していき、最終的には両脚または片脚でのジャンプ動作などの動きも取り入れていくことが大切です。ジャンプ時の衝撃緩衝能力を身につけなければ実際の競技での負荷を分散させることはできません。

 上記の動きを段階的、そして繰り返し行い身体にインプットし、様々な動作での股関節の使用感を覚えていくことが膝蓋大腿関節障害の有効的なリハビリです。また、クローズドキネティックチェーン(CKC)のトレーニングばかりでなく、オープンキネティックチェーン(OKC)でも刺激を入れていくのは大切です。

 例えば仰臥位で膝を屈曲位にした状態で臀部を持ち上げるヒップリフトですが、膝の屈曲角度を浅くすればハムストリングスの活動が増加します。片脚ヒップリフトにするとより負荷が増大します。レッグカールによる短縮性収縮と伸張性収縮を意識することも必要です。トレーニング強度を漸増していくためにはOKC→CKCトレーニングの順番で実施することが大切ですが、必須というワケではありません。
 しかし、膝蓋大腿関節痛の患者さんに突然CKCトレーニングをさせるよりもまずはOKCで臀部やハムストリングスに刺激を入れてからCKCトレーニングに移行すると股関節周囲筋群の発火パターンが変化することによって協調運動につながる可能性があるのでOKCトレーニングを取り入れることもおススメです。

 ただ、運動指導するにあたっては膝関節の腫脹の有無も毎回リハビリの最初に行う必要があります。膝関節の腫脹は関節内圧を増大させ、反射的に神経活動を抑制させるため、腫脹の有無はその日のリハビリをどこまで行うか考察する指標にもなります。
 リハビリをしていて「今日は痛みが強い」「うまく力が入らない」などの訴えがある場合は、もしかすると関節内圧の増大による神経活動の抑制が起こっているかもしれません。

 以上、膝蓋大腿関節痛への運動指導における考え方について述べましたが、臀部やハムストリングスの筋活動に関しては膝蓋大腿関節痛に限らず、その他の膝の痛みに関しても有効的であることが多いと私は考えますので、運動指導を行う際のヒントにしてもらえればと思います。

最後まで読んでくださりありがとうございました。


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