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『罪と悪』ひと口感想

ユナイテッド・シネマ新潟にて、公開から9日経った2月11日(日)に観てきました。

何者かに殺された14歳の少年、正樹。彼の遺体は町の中心のある橋の下で発見された。同級生の春・晃・朔は、正樹を殺した犯人と確信した男の家に押しかけ、もみあいになる。そして、男は1人の少年に殺される。彼は家に火を放ち、事件は幕を閉じたはずだったー。
時が過ぎ、刑事になった晃は父の死をきっかけに町に戻り、朔と再会する。ほどなく、ある少年の死体が橋の下で見つかる。20年前と同じようにー。晃は少年の殺害事件の捜査の中で、春と再会し、それぞれが心の奥にしまっていた過去の事件の扉が再び開き始める。

かつての事件の真相は、そして罪と向き合うということとはー。

公式サイトより


ミステリー映画であることには間違い無いんだろうけど、実は案外「謎解き」を楽しむような映画ではないです。メインはあくまでドラマであり、また役者陣の素晴らしい表現力だと思う。

殺人事件の追求がストーリーの推進力にはなっているものの、蓋を開けてみれば「実はあのときこんなことがあった」という話が後から出されたり、それ自体も想像の域を出ないものだったりという感じ。真相が解明されるまでのドキドキとカタルシスを過度に期待してかかると肩透かしを喰らう危険があるように感じました。

ただ私自身は観てるうちにこれがミステリー映画だということを忘れてしまったくらい、完全にドラマとして楽しむことができたのでよかったのですけど。

少年時代と青年時代それぞれの時間軸が描かれるのですが、特に少年パートに関しては、あえて言えば「萩尾望都のギムナジウム漫画・日本の田舎町バージョン」を楽しみにいく感じで臨むことをおすすめしたいです。

むしろ無意識のうちに最初からそういう目で観てしまっていたくらい、まず「子役たちがかわいい」というのが大きな魅力として感じられる。

主人公は春・晃・朔の3人ですが、特に朔、あなたです。あんまり年齢でどうこう言うべきではないのはわかってるけど…一番背が高くて大人っぽいように見えたのに、声は高いんかい!!…思わずグッときてしまいまして。ほんとすいません。

萩尾望都の『トーマの心臓』的な空気感を連想したくらい、こんなにも「少年たち」の美しい世界が観られる映画だったとは…ちょっと面食らいました。

真面目な話、日本の中学生が出てくるドラマとして単純に見やすいです。眩しすぎて青春コンプレックスを刺激されることもないですし、あるタイプの映画やドラマでは過剰にクローズアップされがちな「10代の少し行きすぎた暴力性」みたいなものによる不快感や後味の悪さのようなものもなかった。

「この映画の中学生、好きだ」とまっすぐ思えたのはなかなか稀有な体験だったような気がします。

もちろん本編の大筋は大人になって以後のストーリーなんですけど、序盤の少年時代パートはかくのごとく素敵なものでございました。


そして彼らが大人になってからの本編、こちらは高良健吾さん演じる春がとても素晴らしかった。

これまで邦画をほとんど観ていなかったので、以前に出演作を観たのは『シン・ゴジラ』のみ。そこで「部下」の役を演じられていたのを観ていた私は、本作での「ちょっと後ろ暗いビジネスのボス」というキャラクターが強烈な新鮮さをまとって見えました。

あの髪型、体型、ファッション。そして飄々とした、息をするように清濁を合わせ呑めるしたたかな感じ。こんなにも「かっこいい悪役」みたいなのを観たのは案外久しぶりな気がします。

地方ででっかい綺麗な家に住み、いい服を着ている。それでいて身体はすごく細くて、ずっとモデルや広告写真のような映え方をしているんですね。すみません、大人パートも眼福でした。


本作はありふれた地方の町で起こる二つの事件を描いたものです。ロケ地は福井県だそうですけども、いつ自分の見知った光景が出てきてもおかしくないと感じるくらい、日本のどこにでもある風景が続く印象が強かった。

ほとんどの日本人にとって、洋画ではこの「ありふれた風景」は発見できない。特に地方に地元がある人なら誰でもすっと入り込めると思います。

監督としてはこれが初めてという齊藤勇起さんの第一作。ちょっと観たことのない、いわゆるジャンルムービー的な定型にははまらない、オリジナリティある作品だったと思います。

次回作も観たい。それ以前にもう一回観たい!

おすすめです。

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