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発声器官の多くが不随意筋であるということ

声楽を始められたばかりの生徒ですが、大変熱心な方がいます。オンラインレッスンで先日こんな質問をされました。

「首に力を入れずに高音域を出すということがよく分かりません。声帯を細く伸ばしていくには輪状甲状筋を収縮させ、甲状軟骨を傾斜させる必要があると書いてありました。首に力を入れずにどうやってこの筋肉を収縮させるのでしょう?何かしらの刺激なしには収縮しないと思うのですが。」

気持ちは分かります。何もしないで高音は出せません。発声の支えとして使うインナーユニットや上あごから上の筋肉は意識して使うべき随意筋なのですが、リラックスエリアにある、発声に関わる器官の多くは意識して動かせない(勝手に動いてくれる)不随意筋なので、残念ながらほとんどコントロールできません。もちろん筋肉どうしは連鎖的に繋がっているので、そういう意味では完全にコントロールできないとは言いませんが、不随意筋のための随意筋のコントロールはまずは忘れた方がよいでしょう。その前にやらなければならないことが沢山ありますから。

私はこんな風に答えました。「では、ドレミファソラシドを歌うとき、それぞれの高さのために何かやっていますか?ドのときは声帯はこの長さにして振動させる、など考えたり力を入れたりしてやってはいませんよね?不随意筋が勝手にやってくれることを、首に力を入れることで逆に邪魔をしてしまうのですよ。」

あと数か月したら、きっと納得してくださることでしょう。本当の意味で「出来た」ときにようやく理解することが声楽では沢山あると思います。「分かった気になっていたけど、あの解釈もちょっとズレていたんだな」と出来たときに初めて気づくこともあるでしょう。

不随意筋の働きや仕組みを分かっておくことは大切だと思います。しかし、それはあくまで仕組みであるということです。上級者になってきたら的確なボディマッピングが出来てきて、その仕組みのイメージで随意筋も動かしやすくなり、不随意筋の働きを助けることができるかもしれません。まずはリラックスエリアとサポートエリアの区別をしっかり捉えて、それぞれ個々に、出来てきたら同時にトレーニングしていくことに集中しましょう。

ゴールへの道のりは単純ではありません。でもその人のベクトルが理想に向かっているか、逆を向いているかで数か月後の結果は大きく違ってきます。

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