見出し画像

MEME的アーティスト、JPEGMAFIA

たまには好きな音楽の話を書いてみる。
私は雑食でなんでも聞くんだけど、最近面白いと思うのがJPEGMAFIAというラッパーであり、トラックメイカーも兼ねるアーティスト。

撹乱

彼の音楽はADHD的で、穏やかなASMR要素と “you think you know me(あなたは私を知っているでしょ)” という言葉を刷り込むような頻繁なサンプリング、荒々しいハードコアなラップが混在している。

ボルチモア出身の30歳、元軍人、ジャーナリズムの修士持ちで、Nerd(オタク)なタトゥーをいくつか入れている。
ファッションも新アルバム"All My Heroes Are Cornballs"のジャケットからはラッパーのステレオタイプから外れたノンバイナリーな雰囲気を醸している。

自律した凶暴さ

彼のライブパフォーマンスは独特。
MacBook片手に現れ、フェスであっても、バックバンドも従えず、まるでストリートでパフォーマンスしているかのように、自分でキーボードをたたいて音源をスタートして、振り切れた鬼気迫る動きを、MacBook内に収められたトラックの時間きっかりにパフォーマンスを行う。

元軍人らしい自律と、鍛えた身体の見せ方で客席にダイブする。ラッパーなのか、パンクのライブなのか分からなくなる。


なぜMEME的なのか

ジャンルを越境した音楽性の脈略のなさと、自律性の共存はJPEGMAFIAの実存になっている。

普段、私たちのSNSに紛れ込んでくるMEMEとは。

ミーム(meme)とは、脳内に保存され、他の脳へ複製可能な情報である。例えば習慣や技能、物語といった社会的、文化的な情報である。
文化的な情報は会話、人々の振る舞い、本、儀式、教育、マスメディア等によって脳から脳へとコピーされていくが、そのプロセスを進化のアルゴリズムという観点で分析するための概念である
ミーム(Wikipedia)

彼の音楽は一貫性がない。ジャンルもアンビエントであり、Death Gripsのようであり、R&Bでもある。
インターネットのネタ(MEME)、政治批評、ヘイト批判、ブリトニースピアーズなどのポップカルチャー、時折ささやかれる“you think you know me(あなたは私を知っているでしょ)”。

スマートフォンというインターフェイスをあらゆる国の人々が手に入れて、個々の発信がタイムラインに垂れ流される中で、この一貫性のなさこそが時代の気分で、JPEGMAFIAという存在が時代のなかから生まれ、メインストリームに乗りにくい、実験的な音楽を商業として成立させている。


時代の気分

トランプ政権に真正面から抗う無気力、多様性によるヘイトスピーチとの軋轢、精神の危機を癒すASMR、SNSでの自己顕示欲と承認欲を体現している。
リラックスして癒すような曲もあれば、不穏なリフレイン、怒りをぶちまけモッシュしたくなる曲もある。極端な振れ幅の緊張と緩和。静かに内省した直後、爆発的な攻撃性をみせる。

JPEGMAFIAのバラバラなウィリアム・バロウズのカットアップのような歌詞に共通するのは、シニシズムという指摘がされている。
これは、生活や人々とのつながりに必須のインターネットを汚染しているポスト・トゥルースへあらがう生存戦略でもある。

ラッパーといえばオルター・エゴといわれる別人格を創造し、その人格に憑依するアーティストも少なくないが、JPEGMAFIAは混沌とした全ての矛盾をひとつの人格=JPEGMAFIAで体現している。

JPEGMAFIAは音楽性だけではなく在り様が、あまりにも同時代的で、まるでMEMEを人間にしたような存在だ。


サポートされたらペヤング買いだめします