我が家のセキュリティー
休日は祖母の家で本を読んで過ごしている。
週末だというのに、この村はとにかく
静かで聞こえてくる音は、自然の音や歩行者信号機の音だけ。
祖母の家は大通りに面しているのだが、市街地へ向かうような大きい道路ではない為、週末の昼間でも車通りはまばらである。
縁側に近い和室の1人がけソファーに
腰掛け、ぼっーと本を読んでいる時間は、
まさに至福のひとときである。
本を読んでいる時間は驚くほどあっという間に過ぎ、気がつくと2時間30分が経過していた。
和室にある大きな古時計の針は
16時13分を指していた。
その日は夜から予定があった為、
一旦家に帰ろうと思い、リビングで寝ている祖母に声をかけようとしたが、祖母は昼寝の最中だった。
気持ちよく寝ているので起こすのも、
申し訳ないと思い、小声で帰るね〜
と声をかけて、カバンを持って帰ろうとした。
その時だ!
窓辺にある腰の高さほどの本棚の上にカバンを置いていたのだが、カバンが見当たらない。
あれ?、、、
思い当たる場所隈なく探したが、どこにも見当たらない。
そこに母がやって来て、さらに、叔母達がやって来て、全員で家の中を隈なく探したがやっぱり見つからない。
焦りが不安へと変わり、
深刻な顔をして、その場で呆然と立ち尽くし、私は深く、深くため息をついた。
まさか、、空き巣?、、
叔母がポロッと口にしたその言葉が
まっすぐ、わたしの不安心をグリグリと
強くえぐるように突き刺した。
祖母の家は大通りに面しているのだが、
裏路地は人気が少なく、屋敷裏の扉は
10年前までは村の人が勝手に出入り出来るようになっていたのだが、わたしが高校生の頃からは、近所や隣町で物騒な事件が増えて来た為に、叔母達が防犯のため内鍵をかけ、外から簡単に出入りできないよう対策を立てていた。
祖母の家は空き巣被害に遭ったことがなかったのだが、空き巣被害とはいつ何時起こるか分からない。
この村は週末でも人気や車通りが少ないため、人の目を盗むことなど容易に出来る。
わたしは空き巣の線を信じたくなかったのだが、叔母達がにわかにその線を疑い始め、
屋敷の外に出て、空き巣の行動パターンを検証し始めた。
わたしは、その様子を呆然と見ながら、
落ち着かない心を鎮めるために
大丈夫大丈夫大丈夫、、と呟いて居たが、
だんだんつぶやく声が震え、
大量の冷や汗をかいていた。
どうしよう。どうしよう。、、
呑気に本なんて読んでる場合じゃなかった。
何で、なんでこんな事に。。、、
悔いても変わらない目の前で起こっている現実を受け止めるのには、時間が必要だった。
その様子を見るに見かねた叔母が
わたしの心を落ち着かせようと、
冷蔵庫にアイス買ってあるから、いったんそれ食べてその後、もう一回みんなで探そ?
と私の気を宥めてくれた。
わたしは、混乱した心を落ち着かせるために、
家の中に入り、キッチンへと向かった。
その時だった。
先ほどまで昼寝をしていた祖母が、
ベッドから起き出して、車椅子に乗り換えて
冷蔵庫からアイスを取り出し始めた。
-わたし-
おばあちゃん。おはよ。
ぐっすり眠れた?
おばあちゃん。。。
それよりさ、
わたしのカバンがね、
無くなったの。。。
どうやら
空き巣に入られたみたい。
窓辺の本棚の上に物を置くのは良くないね。
私としたことが、、、。
これから警察に電話しようと思う。。
だからね、
おばあちゃんも十分に気をつけるんだよ!
空き巣っt、、、
すると、祖母が静かに車椅子を動かし始めた。
まだ話の途中だというのに、、、
とうとう呆れられたのか。。。泣
祖母は黙ったまま車椅子を動かし、
わたしは祖母の後ろをついて歩いて行った。
しらばらくして、祖母が車椅子のタイヤを止めた。
キュッ。と優しく車椅子のタイヤが
止まった音がした。
俯いていた顔を上げると、
祖母が一言。
あんな窓辺の物が取りやすい位置に
大事な物を置いたら、ダメでしょ!!!
ほら。
おばあちゃんが取られないように、
取っておいたよ。
もうあんなところにカバンは置かないでね!
なんと、
わたしのカバンを祖母が預かってくれていたのだ。
それも、祖母のATMとも言える隠し場所(秘密)に。。。
わたしは、祖母が防犯の為、カバンを保管していた事にも驚いたのだが、
それ以上に隠し場所に驚いた。。
こ、、
こんなところに?!!、?!
空いた口が塞がらないとはこういう事か。。
隠し場所は言えないが、
まず普通の人には想像がつかないような場所に隠されていた。
隠し場所を教えたいが、これは祖母と私だけの秘密であり、しかも、どうやら祖母は隠し場所を定期的に変えているらしい。
なので、私に隠し場所がバレた時点でおそらく、今はまた別の場所に隠し場所を移動しているかと思われる。
話が脱線してしまったが、
話を元に戻そう。
私はよく祖母の介護の手伝いをするのだが、
祖母は車椅子になった今でも、
自分にできることは何でも自分でやっている。
車椅子だからと言って、自分の管理を娘達(叔母達)に委ねることなく、自分のことは自分でやるのだ。
だから、毎朝7時に母が祖母の様子を見に行っても、室内の空気を入れ替えるために
広い屋敷の端から端まで巡回し窓を開け閉めする。
夜の警備には特に注意を注いでおり、
窓の鍵を閉めた後、二重ロックで鍵についてあるネジを限界まで締め、更に防犯ロックまでかける3重のセキュリティーを広い屋敷にある全ての窓にかけるのだ。
泥棒さんへ
車椅子の高齢者を侮ってはいけませんよ。
この広い屋敷で空き巣被害が起こらない、
いや、
この家に泥棒が入れない理由がよく分かった。
そして、おばあちゃん。
わたしのカバンを守ってくれてありがとう!!
わたしの祖母はセコムより強固な防犯システムである。
自慢のおばあちゃんだ👵🏻💪✨
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