どうすれば他者と恋愛関係になれるのかが分からない
<恋窓-koimado-へのご相談>
はじめまして。Aと申します。
現在、恋愛に関して2つの問題を抱えているのでご相談します。
私は、人の心情に寄り添うのが苦手で、回避傾向が非常に強く、対人障害だと自認しています。
そのため、他者と親密な関係が築けず、ましてや恋人などできた試しがありません。
そこで状況を打開するために、マッチングアプリを使い半年で20人以上の女性と会った結果、
一緒に楽しく雑談したりお酒を飲んだり街を歩いたりする程度の能力と表面的な耐性は獲得しました。
ただここで2つの課題が見つかりました。
・女性と両想いになれない。
・性的な事項に大きな抵抗が有る。
前者は、好意のミスマッチの話です。理想が高いことが問題なのは分かっているのですが、私に好意を抱いてくれる女性に対して、告白など関係を進めようというモチベーションがどうしても湧きません。どうすれば理想を低くできるのでしょうか。
後者は、性行為など性的な事項に近づけば近づくほど著しいストレスを抱くことです。一度、明らかに女性を「お持ち帰り」できる状況になったことがあったのですが、あまりにも恐怖心が強く結局そのまま何もせず帰りました。露骨な性行為だけでなく、現実世界の人間との性愛を想起するだけで、心臓がギュッと鷲掴みにされるようなストレスを覚えます(性欲はあるので性嫌悪ではありません)。
私の宿願としては、他者と両想いになり人肌に触れたいというそれだけです。
誰にも相談できないので何かアドバイスだけでも欲しい状況です。
よろしくお願いします。
(20代男性)
かなり深刻なお悩みです。直接お話しした方が良いのではないかとも思いましたが,できる範囲でご相談に対応したいと思います。
「どうすれば理想を低くできるか?」についてご紹介したあと,少しの余談を挟んで,「性的接触への抵抗感」についてご紹介したいと思います。
理想を低くする方法
具体的にどのような理想なのかによって対処方法は異なるのですが,どのような理想でもある程度は対応できそうな方法を考えてみました。
まず1つ目は,目的目標を考えることです。目的目標とは「なぜその行動を取るのかという行動の理由」です。目的目標をはっきりさせることで,そのために何をしたらよいのか(これを標的目標と言います)も明確になっていきます。
相談者さんは,理想の相手と付き合いたいと思っていた(でも,うまくいかなかったから理想を低くしたいと考えた)かと思うのですが,「なぜ今の理想が自分にとっての理想なのか」ということを考えてみてください(少し難しいかもしれませんが...)。その答え(=理想の理由)が明確化すれば,今現在の具体的な理想以外のかたちで,自分の理想を達成できる方法(別の理想のかたち)が見えてくるのではないかと考えられます。
2つ目は,現実自己を踏まえた具体的な理想自己を設定することです。現実自己とは「今ある自分」,理想自己とは「将来そうありたいと思う自分」のことです。現実自己の変容を望む(たとえば,人見知りな自分を変えたい)よりも,理想自己への変容を望む(たとえば,社交的な自分に変えたい)方が,自分らしく生きやすくなると言われています。
相談者さんは,自分が問題点だと思う部分を自分で把握し,それの解消に向けて努力するという多くの人が真似できないことをご自身で考えて取り組まれています。つまり,現実自己を把握し,それを変容することはできています。ですので,現実自己を踏まえた上で,将来自分がどうなりたいか(=理想自己)を具体的にイメージし,それに向けて何ができるかを考えることで(理想を低くする?それとも維持する?),より自分らしく生きられるのではないかと考えられます。
理想を低くする必要はないかもしれない
以上が理想を低くするためにできる取り組み2つでしたが,しかし,私個人としては,はたして理想を低くする必要があるのかという点は少し気になっています。と言いますのも,理想の修正は歳をとるにつれて自然と起こるからです。
目標や理想を追求するか,あるいは,状況に合わせてそれらを修正するかは,一次的コントロール,二次的コントロールと呼ばれています。基本的には一次的コントロール,つまり目標や理想を追求することが目指されます。しかし,歳をとるにつれて理想を追求することの厳しさを徐々に自覚するようになると,理想を下げたり,あるいは別の領域で新しい理想を見つけたりすることが行われます。たとえば,若い頃は連日遅くまで起きて遊べたけれども,歳をとるとそれが難しくなるので,たまに夜更かししたり,あるいは,昼間にいっぱい遊ぶなどして,「連日夜遊び」という理想を下げたり,別の新しい理想に修正したりします。
成人期が進むにつれてこのような調整が自然と行われるようになるため,今の時点から二次的コントロール,つまり理想の修正を目指すのではなく,自然と理想が修正される日を待ってみても良いのかもしれません。
理想よりも関係のつくり方
さらに余談ですが,それ以上に私が気になるのは,関係のつくり方です。理想が高すぎるというよりも関係のつくり方によって「女性と両想いになれない」という悩みが生じているのではないかと感じます。
相談者さんは対人関係に苦手意識があり,それを克服するためにマッチングアプリを使ってトレーニングに励んだ結果,表面的な耐性は獲得されたと書かれています。繰り返しになりますが,それ自体は他の人に真似できない素晴らしい取り組みだと思います。ただし,マッチングアプリだけでのトレーニングによって身につけた耐性は少し偏りがあったのではないかとも考えられます。なぜなら,異性関係(対人関係)を築くときには,機能的な関わりの上で築く場合と,人格的な関わりの上で築く場合の両方があるからです。
機能的な関わりとは,生活の特定の側面や機能,あるいは特定の利害によって限定される関わりのこと,人格的な関わりとは,生活の全般まるごとと関わるようなことです。前者の代表例は会社,後者は家族関係や学校での友人関係があります。ちなみに,機能的な関わりと人格的な関わりは,互いに排他的というわけではなく,機能的な関わりから人格的な関わりになる場合もあります(その逆もありえます)。たとえば,商取引の相手として会っていた相手がいつのまにか親しい友人になるということもありえます。
図. 「社会」に関する四つの<類型>(矢守,2011を一部修正)
マッチングアプリでの出会いは,最終的には人格的な関わりを目指していると言えるかもしれませんが,その始まりにおいては機能的な関わりであると考えられます。つまり,特定の利害,関心,機能によって関わりをもちます。多くの女性と出会い,過ごしたとしても,そこで身につく耐性や関係のつくり方は機能的な関わりを前提としたものになっている可能性があるのではないかと考えられます。その結果,自分の目指したもの(人格的な関わり)と違う関係のつくり方(機能的な関わり)になってしまっているがゆえに,なかなか「両想い」な関係を作れないのではないかと思ったりもします。
ですので,両想いの相手と出会うためには,理想を下げる方向ではなく,出会いの場所を変える(たとえば,趣味の集いへ行く)方向が良いのではないかと思う部分もあります。
アセクシュアルの可能性も?
余談が長すぎました。すみません。
ご相談の本題に戻り,「性的接触への抵抗感」についてです。あまりにも嫌悪感(ストレス)が強い場合は自分1人で対処するのは難しいと思いますが,ご相談内容を拝見して私が感じたことは,アセクシュアル(無性愛)の可能性もあるのではないか,ということです。
アセクシュアルとは,広義には「他者に性的に惹かれないこと」を指しますが,「性行為や性的魅力をそれほど重要視しないこと」と定義する場合もあります。「性欲はあるけれども,性行為は嫌だ」とか,「人肌には触れたいけど,それ以上は求めない」とか,いろいろなパターンがあります。相談者さんは後者のパターンなのかもしれません。若者の間で,性行為の経験率が減っていたり,アセクシュアル的な行為が増えていたりするという研究もあるので,無性愛者が増えていると考えることもできるかと思います。
無性愛者のデート経験に関する記事や,『見えない性的指向アセクシュアルのすべて』という本もありますので,一度ご覧になっていただくと良いかなと思います。
もし,無性愛者ではないのだとしたら,それはそれで別の可能性を考えるきっかけになりますので,その際は改めてお話しましょう。
「他者と両想いになり人肌に触れたい」というあなたの切実な願いが叶うように祈っています。
参考文献
千島 雄太(2016).自己変容の想起がアイデンティティ形成に及ぼす影響 教育心理学研究,64,352-363.
デッカー,J.S. 上田 勢子(訳)(2019).見えない性的指向アセクシュアルのすべて──誰にも性的魅力を感じない私たちについて── 明石書店
Ghaznavi, C., Sakamoto, H., Yoneoka, D., Nomura, S., Sibuya, K., Ueda, P. (2019). Trends in heterosexual inexperience among young adults in Japan: Analysis of national surveys, 1987-2005. BMC Public Health, 19, 355.
Kobayashi, J. (2017). Have Japanese people become asexual?: Love in Japan. International Journal of Japanese Sociology, 26, 13-22.
中島 由佳・無藤 隆(2007).女子学生における目標達成プロセスとしての就職活動──コントロール方略を媒介としたキャリア志向と課題達成の関係── 教育心理学研究,55,403-413.
竹村 明子(2015).生涯発達と二次的コントロール 仁愛大学研究紀要人間学部篇,14,25-33.
矢守 克也(2011).地域社会と防災 唐沢 穣・村本 由紀子(編) 社会と個人のダイナミクス(pp.187-207) 誠信書房
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