《ぼくの名前はズッキーニ》観劇記録

今年の観劇はいい作品に当たることが多くてほくほくしております。
1月の『優秀病棟素通り科』を観劇した時に、“今年一をもう観てしまったかもしれない…”と思ったのですが、今回の舞台がそれを塗り替えました。
今のところ、今年の暫定1位舞台。
今日は、ぼくの名前はズッキーニを観劇した感想です。





あらすじを簡単に。
母親からネグレクトにあっていた、主人公のズッキーニ。ある日そんなお母さんが亡くなってしまい、一人ぼっちになってしまったズッキーニは孤児院に引き取られます。
そのズッキーニを保護した警察官と、孤児院の先生たち、そしてズッキーニと同じく様々な境遇から孤児になってしまった子供たちの日常を描いた内容です。



当日、会場に入ると舞台上には何もありませんでした。黒い壁に、黒い床。
後からセットが運び込まれてくるタイプの舞台なんだな。
そんなことを思っているうちに客電が落ちました。
ズッキーニ役の雄大くんが登場。
何も言わずにチョークで客席正面の壁に絵を描き始めます。
上に向かって銃弾を放つ拳銃。
その近くに女性らしき人。
すると今度は床にまで何かを描き始めました。
もうこの時点でプチパニックです(笑)
こういう演出は初めてでした。
この舞台、キャストさんたちが絵を描きながらストーリーが進んでいきます。
描く内容は様々。
自分の役名。
セットの代わりに窓や遊園地のシーンではジェットコースターに観覧車など。
雨が降ってくるシーンでは、「豪雨」と言葉を書いたり。すると音響も大きな雨音に変わります。
お漏らし癖のある子の役の役者さんは、床に白いチョークで水たまりを。すると先生がすぐにそれを拭いたりするのです。


何色かのチョークで、役者さんそれぞれのタッチで描かれる個性豊かな絵。
その絵がどんどん舞台上を埋めていきます。
これがとても面白かった。
あるシーンで、夜中に悪さをしようとしていたことを先生に見つかってしまいます。
だけど先生は怒らず、ズッキーニたちにココアを出してくれました。
先生役の役者さんが描いた、湯気が出ているマグカップの絵を見ながら、フーフーとココアを冷ますお芝居を見ているとそのココアの温かさがより伝わってくるような気がしました。
とても素敵な演出でした。こういう舞台、是非また観たいです。



内容もいろんなことを考えさせられる作品でした。
孤児院にいる子たちのほとんどが、親に愛されていないのに親を憎んでいませんでした。
むしろパパとママが大好き。
愛って、なんだろう?
愛される経験を通じて、誰かを愛せるのだと思っていました。
でも、愛されている(いた)と、自分自身が思えることが大切なのかもしれません。
周りから見れば愛されている人も、その人自身が愛されていることに気づけなければきっとずっと愛なんて分からない。
それを考えた時に、唯一自分に愛を与え続けてくれる人がいるなと思いました。それは、自分自身。
観劇後、もっと自分を愛してあげようと、そんなことを思いました。
それから、先生が「いい大人になれない!」と叫びながら子供たちと一緒に声を上げて泣いてしまうシーンが印象的で。
大人だって、時には声を上げて泣きじゃくってもいいんじゃないかな。
でもその後にはしっかり自分を抱きしめてあげたい。そうやってなんとかやっていけるのかもしれない。なんて、そんなことを考えたりしました。


雄大くんの個人舞台を観るのは初めてでしたが、6歳のズッキーニをとても上手く演じていました。ズッキーニの愛らしさに何度も心臓を掴まれました(笑)
お芝居に対する想いがずっしりと伝わり、セリフの一つ一つに目頭が熱くなりました。
雄大くんの演技大好きだなぁ、もっと観たいなと思わされました。
そして、共演者に平田満さんがいらっしゃいまして。
密かにファンなので、生の平田さんの演技を観ることができたのも嬉しくてたまらなかったです。



観劇して10日以上経っていますが、心の中にじんわりとした温かさが残っています。
こういう舞台は何度でも観たいですね。
またこういう素敵な作品に出会うことができますように。