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湯灌師・納棺師とはいうけれど

 近しい人が亡くなった時、日本国内在住で所謂「葬儀」をする金銭的余裕のある人は大半が最寄りの葬儀社に手配をしてもらうのではないかなと思います。(なかには全部オレがやる的なたくましい人もいるだろうけど、できなくはないし)
  葬儀社は依頼を受けると、ご遺体の搬送から始まって通夜、葬儀、出棺まで一括で請け負ってくれるのですが、そのプラン作成の際にはじめて「湯灌」「身支度納棺」「メイク納棺」「別注納棺」などの言葉が出てきます。
病院や施設から故人様がさがってくる際、多くの方は新調した浴衣や使用していたパジャマ姿です。また警察案件の場合なら大半が裸でグレーシートに入っているし、口や目が大きく開いていたり、出血や嘔吐物や腐敗ガスによる膨張などで死後変化の著しい方もいます。
  実は葬儀社は納棺をしないわけではなく、通常、自社て用意した棺に故人様を納めるという行為は行っています。ただし上記のような場合でも基本的にはなにもせず ”そのまま" 入れる場合がほとんどです。着せ替えやお顔の処置などを葬儀担当が担うことはごく一般的な葬儀社にはありません。(納棺に特化した葬儀社などの場合は別)
だからたまに着せ替えや死後処置が適切にできる葬祭ディレクターさんに会うとこの人仕事できるんだな…って思うのよね…(冗談抜きで遺体に触れない担当もいるので)
  なので、白装束やお気に入りの服を着せてあげたい、口が開いていて苦しそう、出血が止まらない、汚れてしまってるから綺麗にしてあげたい、お風呂にずっと入れなかったから最後に、理由は様々ですが、現在の葬儀環境において行われる「湯灌や納棺師による納棺」とは基本的には故人が棺に入る前、なにかしら手を加える必要が生じた場合に葬儀社から提案されるオプションサービスの場合がほとんどです。
 通常の葬儀プランにもともと組み込まれていることは今まではあまりなく(最近は家族葬プランで件数当たりの単価が下がっている事もありセットに組み込んでる葬儀社も増えていますが)、上記のような希望がある場合に施主さんに意向でプランに組み込まれて、指定された時間に私たちが伺い実施する形になります。
 金額は着せる着物のランクとかで前後するけど平均で10万円前後。まあまお高いオプションですよね。初めて聞いた湯灌てものを何するんだかよくわからないけど葬儀には必要だからと提案されてなんとなくオプションで付けたら、お通夜前に私たちが「おつかれさまです」と突然現れるんです。文字にすると私が施主の立場だったらなんというか…すごい微妙。
 なので正直、葬儀を受注するプランナーには説明責任があるし、その金額を出す価値をきちんと説明しておいてほしいし、請け負う湯灌・納棺師もその金額に見合ったサービスを提供する義務があると思っているのですが。
 「故人様を送る前にきれいにして差し上げましょう、儀式という形で厳かにすすめていくのがよいでしょう」と遺族感情のデリケートな部分に直接訴えかけられたら、ああ、そうね、となるのは間違いないので、最近は湯灌・納棺ありきですすめられてる葬儀が増えてるのを体感で感じたりもしています。遺族の立ち会わない現場も増えたなぁ……

 現場でよく聞かれるのですが、実は私たち湯灌師・納棺師という職種に国家資格はおろか民間の認定資格などはありません(エンバーマーには一応ありますが一応…)。フューネラル系の専門学校などに学科はあったりしますが、ある日突然「私!納棺師になりたいんです!なります!」と専門会社の門を叩いたらなれるし、なんならそのまま納棺師を名乗ったら仕事が始めてしまえる職種です。
 互助会系や大手の葬儀社さんは湯灌の専門部署があるところも多いし、私のような専門業者所属のもいるし、フリー(野良もいる)や自営で行っている方もいます。サービスの内容も基本の部分は似通っていますが(大手業者を見本にしてるとこが多いので)葬送は地域差がかなりあるので細かな部分は会社ごとに見事にバラバラ、批准とするべき認定資格が存在しないので個人の技術スキルの差もすごく激しかったりします。正直、各々の経験値と能力値に委ねられている部分がとても大きいです。
 社会的認知度がそこそこ上がり、葬儀社の思惑もあったり死者数の増加で分母が増えるのと比例してニーズがこの数年格段に上がっているのを感じているので、そろそろ本気でどっかが腰上げるべきなんじゃないかとは思うのですけどね…高額サービスを提供するのならある程度の基準は定めておくべきだと考えるのは、私が全くの別業種からの転職組だからなのかもしれませんが。
 
 少し脱線しましたが、湯灌師・納棺師と言葉だけみるとなんだか仰韶しい若干スピリチュアルな匂いも漂いそうな職業になんとなく見えますが、蓋を開けたら何のことはない葬祭業界の端っこにいるサービス業従事者なんですよ。そこのところをきちんと弁えているかは個人差があると思いますが、その部分をはき違えたら、この業種に従事する意味と根幹を見誤る可能性があるので、常に忘れないように日々従事しています。
ただし、ただのサービス業ではありますが、ほんの少しだけ魔法がつかえるサービス業ですけどね。その魔法がつかえるかどうかはその納棺師によるけどね。
 
 

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