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「獣道一直線!」@PARCO劇場 観てきた。

オンラインの劇場中継などは見てきたけど、劇場でお芝居観るのは本当に久しぶり。新しくなったPARCO劇場も、どんな感じかな、と楽しみに出かけてきました。

入口で検温、手指の消毒、消毒マットの上を通って入場、チケットは自分でちぎって半券を箱の中に入れ、観劇名簿へのオンライン登録推奨、パンフ以外のグッズは通販、ドリンクカウンターにはソーシャルディスタンス用のマグネットが設置されてるというものものしさでしたが、ここまでやっても埋まらないのが今の劇場なんだなというのを実感。そもそも、大人気のねずみの三銃士の公演で、全席発売が遅れたといっても、まだチケットがとれるということそのものが異常事態で、あらためて身の引き締まる思い。

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でも、幕が上がってしまえば、今のこの時代も全力で笑い飛ばしながら駆け抜けるおじさんたちの舞台を2時間半ガッツリ楽しめました。

モチーフになっているのは、木嶋佳苗死刑囚が起こしたとされる連続保険金殺人事件。あの事件じたい、なんとも言えないぞわっと感がある事件だったと思うけれど、舞台もナンセンス劇と見せかけた不意打ちの殺人みたいな、ぞわっと感のある舞台で、久しぶりの観劇として超満足感の高いものでした。生で見る生瀬さんが年齢のせいかだいぶ斉木しげる化していて(<ほめてる)面白かったです。なるしーは良くも悪くも相変わらずで、古田新太の女装がなぜちょっとかわいいのか知りたい。

帰り道で思いだしていたのは、何年か前にとある勉強会で知り合った女性のことです。木嶋被告の写真をテレビや雑誌で見た人はみんな「なんでこんな地味なブスに次々男がひっかかるんだ…」って思ったと思うんですよ。でも私はその女性のことを知ってたので「ああ、結婚詐欺を成立させるのは美男美女じゃなくて、こういう自信に満ちた不美人なんだ」ということに深く納得していました。

その女性は、(本人の説明を信じれば)十分に収入の高い夫と子供のいる専業主婦で、夫のほかに三人のセックスフレンドがいるとのことでした。いわく、年上で金持ちで長年付き合っているパトロン的な男性と、年下青年(彼女がおごってあげる関係)、年齢が近く「体の相性がいい」ダブル不倫の相手。なんでそんな話を知ってるかというと、初対面から彼女が猛烈にあけすけにそういう話を(聞いてもいないのに)ぐいぐいしてきたからで、その男たちとの関係を書き綴るブログのURLを送りつけられ、「私は何を見せられているんだろう…」的な気分になったのを覚えています。どこまでがリアルでどこまでが彼女の創作かわからない。読みながら、夫と子供がいるとかいうのも嘘じゃないのかな…などと思ったりもしました。

この女性は、美人か不美人かでいうと10人中8人までは不美人に分類するだろうな、という微妙なルックスでした。スタイルがいいというわけでもない。ただ、体形を気にせずボディラインがはっきり見えて、胸元が大きくあいた服を着てたのを覚えています。おなかは出てるんだけど体のラインを一切隠さない、タイトでミニ丈のワンピース。そして昔のトレンディドラマの浅野温子とかみたいな感じで頻繁に髪をかきあげる。やけにバタ臭いしぐさはバブル期の「イイ女」のそれです。

彼女は勉強会のあとの打ち上げ的な飲み会でも、あけすけにセックスと不倫の話をし、初対面の男性に対して年上年下関係なく個人的(かつしばしば性的)な質問をあっけらかんと投げ続け、あらゆる話題にぱっと食いつき、気づけば座の中心になっていました。

それはものすごく不思議な光景でした。その飲み会には彼女より明らかに美人でスタイルもよく、品の良い独身女性も複数名いたのです。ですが、男たちの関心は圧倒的に彼女に向いており、何人かは彼女とその場でメールアドレスを交換し、求められるまま名刺を渡していました。私は「美女ではなく、自分をコンテンツ化し売り込める不美人が場を制して男を総取りする」というシーンを目の当たりにしたわけです。

彼女はいわゆる「意識高い系」的な振る舞いをしていましたが、正直、高いインテリジェンスはあまり感じられなかった。でも、その勉強会は意識高い系の集まりでしたから、そういう中で浮きすぎない程度の通り一遍の知識はあって、それをチラ見せしつつ、彼女より知的レベルの高い男たちに「彼女に何かを教えてやる立場」を自然にとらせ、気持ちよく話をさせる方法を知っていました。高学歴女子がしばしば男性と対等の立場をとって議論をしてしまい、疎まれて失敗するパターンの逆です。

あと、酒も入った男たちのチョロさもなかなか衝撃的でした。「ヤれそう」という要素がいかに男のガードを緩めるか、というのを実地で見た感じでした。すごいのが、コロっと行くのが中年男性だけじゃないとこなんですよ。20代の若い男子も、倍近い年齢の彼女に視線を奪われていた。年齢より若く見えるとかですらないのに。

2時間程度の飲み会の間、私はとにかく彼女のホステスとしての才能の高さにひたすら感心していました。ああいうのは天性だと思います。狙ってやれることじゃない。私自身は猥談が好きじゃないので、彼女にあれこれとプライベートな質問をされることに閉口しましたが、それでも「美貌やインテリジェンスといった、よく言われるアドバンテージに恵まれない女性が、言葉と自信に満ちたしぐさだけで男性を魅了する様子」を観察するのはえぐ面白かった。「えぐ面白い」というのは今思いついた言葉ですが、正直ぞわぞわするし、快不快でいえば不快なんだけど、でも面白くて目が離せない感じというか。

自分の性遍歴を語りまくるメッセを頻繁に送りつけられるのが個人的には無理で、ほどなく没交渉になりましたが、とにかくこういう女性を知っていたので、事件が明るみになったときにも真っ先に彼女を思い出したし、今回の舞台でもやっぱり彼女を思い出しました。グロテスクで「えぐ面白い」。クドカンの脚本って基本的には暗いと思ってるんですが、それがベテランの小劇場俳優たちに消化されると、こういう感じになるんだな、っていう。色々なところを刺激されました。満足。

劇場の灯を消さないように、役者さんも劇場スタッフも必死なんだなっていうのも感じました。コロナ禍の前のように気軽にあちこち行ける状態ではなくなってしまったけど、やっぱり私は舞台もライブも好きだし、劇場で見たい映画は劇場で見たいし、この厳しい時期を生き延びられるように、好きなものにはお金を落とさなきゃいけない。露骨だけど結局そういうことで、推しをもって生きる意味ってそこだよなって思います。

PARCO劇場では11月1日まで、年末にかけて地方公演もありますので、お近くの方はぜひ!


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