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電子書籍の哀しみ。

‪ハヤカワの春のKindleセールで伊藤計劃の雑文集を幾つか買って、ついでに紙の本は持ってるけど電子書籍も買って貢ぐか、と思って「虐殺器官」をポチろうとしたら、もう7年前ぐらいに買ってて、買えなかった。

紙の本なら忘れて買えば、2冊、3冊と同じ本が買えちゃうのにな。

何冊も同じもの買ってしまうのが防げれば便利じゃん!という開発者の声が聞こえてきそうだけど、ECのプラットフォームは、亡くなってしまって新作の出ない作家に無駄に貢がせてはくれないのだ。

電子書籍の欠点として、人に貸せない、譲れない、ということがしばしば挙げられるけど、「同じプラットフォームでは同じ本を繰り返し何冊も買えない」という欠点(?)もあるのだなと思った。

伊藤計劃は早世のSF作家で、2007年デビュー、2009年に病没した。享年34歳。

生きている間に出た長編は、実質「虐殺器官」と「ハーモニー」の二作だけだ。絶筆を円城塔が引き継いだ「屍者の帝国」は、私の中では伊藤計劃作品には入らないのでこの二作品、特に好きな一作目の「虐殺器官」を反芻し続けるしかない。

東日本大震災も、コロナウイルス騒動も、VRやウエアラブル端末が、一般ユーザー向けに製品化される世界も見ることなく逝った。けれど優れた社会観察力と想像力で、10年経っても色褪せない、リアルなディストピアSFを書いた。

日本でのKindle発売開始は2012年。そうか、伊藤計劃はこのデバイスも使うことなく逝ったのか。

クラウド化され同じ電子書籍の購入を妨げる私の購買履歴は、私が死んだあとも残り続けるんだろうか。永久不滅の外部記憶。それって人類やAIの進化に何か役立つことあるのかな、とか、そんなことを考えた。

#伊藤計劃 #SF

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