見出し画像

生きるものへのまなざし-「鴻池朋子 ちゅうがえり」展レビュー

先日、アーティゾン美術館に行ったので、僕なりに考えたことを書いておく。

現在、同美術館では3つの企画が同時に開催されており、

・6階「鴻池朋子 ちゅうがえり」
・5階「Cosmo-Eggs 宇宙の卵」
・4階「石橋財団コレクション選」


という内容だった(上階から降っていくルート)。

今回は鴻池さんの展示について語りたいと思う。

鴻池朋子さん、恥ずかしながらお名前を存じ上げず、作品も拝見したことがなかったが、今回の展示で少しばかり理解することができたように思う。

まず、展示空間はなかなか大胆で驚いた。
中央に円形に組み合わされた巨大な襖絵。そこにはすべり台が設置されており、上から滑ってくると襖絵の真ん中にたどり着くという仕掛け。その周囲にも動線は設けられておらず、自由に見て回れる。

また、作品も様々な媒体のものがあった。
デッサンや写真なども展示される一方、いくつもの動物の毛皮が天井から吊るされ、トンビを模した巨大な作品も目を引く。

鴻池さんの作品を見ていくと、動物や自然といった、生きとし生けるものに寄り添う眼差し、歩み寄ろうとする姿勢が感じられた。

目と口をぽっかりと開き、驚いたような子供(?)の顔がいくつもの作品で登場している。その表情は「発見された」と語っているようで、あらゆる生物に宿る生命を具現化したモティーフかもしれない。

動物の毛皮は狭い通路の中に吊るされ、そこを通るとき、私たちは毛皮に触れなければならない。「触れる」ことを通じて、動物と戯れる。

そんなことを考えて、巨大な壁画《ドリームハンティンググランドカービング壁画》を見ると、不思議な感覚を抱く。

画面にはナメクジやクマ、キノコが描かれ、表面は、水彩で描かれたり、彫られたり、毛皮(?)を貼られたり。視覚だけでなく、触覚も刺激されているようで、身の毛がよだつような、そんな感覚を覚えた。

(鴻池朋子《ドリームハンティンググランドカービング壁画》2018年、364.0×910.0cm、シナベニヤ、水彩。)

長い美術史の中で自然や動物といったモティーフは数え切れないほどの絵画作品で描かれてきたが、それらは主に画家の視覚によって捉えられている。対象へのアクセスにおいて、鴻池さんは視覚のみならず、このように触覚も重視しており、興味深い。

ところで、この展示空間には鴻池さんの作品以外に、コロー、クールベ、シスレーの自然の風景を描いた作品も組み込まれていた。

クールベの作品では鹿が雪景色を駆けているが、鴻池さんのコンテクストでこの作品を見てみると、鹿は驚くほど生き生きとして見え、雪の中を疾走しているようだ。

(右、ギュスターヴ・クールベ《雪の中を駆ける鹿》1856-57年頃、93.5×148.8cm、油彩、カンヴァス、石橋財団アーティゾン美術館。)

19世紀フランスという同時代の写実主義的な作品の中で見るのとでは、作品の表情は全然違う。

現代のアーティストの作品と並置させることで、所蔵作品に新たな息吹を吹き込む。

なるほど、アーティゾン美術館のジャム・セッションという試み、とても面白いと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?