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「実行」の哲学、柳井正を中心に

かつて、柳井正は典型的な無気力学生だった。大学時代、特に夢を持っておらず、授業もろくに出席せず、麻雀やパチンコに明け暮れていた。就職活動もせずに大学4年生になり、親の勧めでジャスコに入社したが、わずか半年で辞めてしまう。仕事に対する意欲が持てず、働くことが嫌でしょうがなかったのだ。

「頭の良いと言われる人間に限って、計画や勉強ばかり熱心で、結局何も実行しない」

後年、柳井はこう語っている。まるで若い頃の自分自身を戒めるかのように。

ジャスコを辞めた後、柳井は東京でブラブラと過ごしていた。就職した友人の家に転がり込み、毎日何もせずに過ごす日々。そんな生活に嫌気がさし、実家のある山口県宇部市に戻ることにした。

「いまできるとか、できないということではなく、『自分としてこうありたい』、『これがしたい』ということを思い描かなければいけない」

これも、若い頃の自分への戒めの言葉だ。

実家に戻った柳井は、父が経営する紳士服専門店を手伝うことになる。しかし、そこで柳井は愕然とする。ジャスコで働いていた時とは全く違う状況だった。仕事の効率も悪く、従業員も真面目に働いていない。柳井は、店員に自分の考えを言いまくったが、結果的に7人いた店員のうち6人が辞めてしまった。

店員がいなくなり、柳井は仕入れ、販売、経理、人事など全てを自分でやらざるを得なくなった。父からは会社の実印を渡され、「好きにやれ」と言われた。20代の若造だった柳井は、一気に責任を負うことになったのだ。

「最初からできる人は少数派で、『できる』と言われる人の多くは、できる人に自らを変えていったんだと思います。ただし、その必然性は人それぞれ違うので自分で発見するしかない」

無気力だった学生時代とは打って変わって、柳井は必死に働いた。全てを自分でやらなければならないことで、商売人としての勉強になったのだ。そして、商売の面白さにも気づいた。毎日、成績表をもらっているようなものだと感じたのだ。自分がやったことが全て自分に返ってくる。そこで初めて、柳井は自分で商売をやっていこうと決心した。

「人は、失敗を繰り返さないと成長しません。失敗するからこそ、考えることを学ぶのです。だから何度でも失敗してほしい。その経験を通じて学び、成長してほしい」

「失敗を恐れてはいけない。失敗にこそ成功の芽は潜んでいる」

実際に商売を始めた柳井は、何度も失敗を繰り返した。仕入れを間違えたり、在庫を抱えすぎたり、広告宣伝が上手くいかなかったりと、様々な失敗を経験した。しかし、その度に柳井は失敗の原因が自分の中にあるのではないかと自問自答した。自分の知識不足、経験不足、考え方の甘さなどを反省し、少しずつ成長していったのだ。

これらの名言は、まさに若い頃の自分自身への戒めであり、同時に失敗を恐れず実行することの大切さを説いている。

無気力な学生から、失敗を恐れず実行し続ける経営者へ。柳井正の劇的な変化は、「実行」の力を物語っている。机上の空論ではなく、実際に行動することの大切さ。失敗を恐れずに挑戦し、失敗から学ぶ姿勢の重要性。

この「実行」の哲学は、ビジネスシーンだけでなく、人生においても大切な教訓となるだろう。行動せずに考えるだけでは、何も生み出すことはできない。失敗を恐れず、まず一歩を踏み出すこと。そして、失敗から学び、自分を成長させていくこと。それこそが、柳井正が自らの経験を通して説く「実行」の真髄なのだ。


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