電話の声は元気だけど
昨晩、長らくあってない男友達から、久しぶりに電話が来た。彼は俳優を目指していて、現在は事務所に所属していると聞いていた。お芝居にかける情熱や知識の量が凄くて、舞台で演じている姿はいつも楽しそうだった。最後に会った時は1年前くらいだろうか。これから俳優として食べていく、とまっすぐとした眼差しで語っていた。
「俺、就職するわ」
聞こえてきた言葉に耳を疑って思わず聞き返してしまった。当時の彼からは想像もつかない言葉だった。演劇はすっぱりやめるらしい。
でも、心の中ではやっぱりか、と思っていた。
私の周りにいる演劇人たちは最優先が舞台の稽古、その予定に合わせてバイトの予定を入れる。舞台の出演が決まれば稽古は毎日あるため、シフトに入れなかったり、バイトを辞めざるを得ない。収入はかなり不安定だ、それなのに舞台出演の収入は少なく、節約生活を送っている人がおおい。
俳優を志していた友人たちは20代半ばになると、ほとんどが演劇から離れていった。
あまりにも生活がしんどいからだ。一人暮らしで稽古もバイトもになると、睡眠を削ってまで働かないと生きていけない。不規則な生活が続く。その代償として、一番大事にしたい稽古にも支障が出てくるだろう。好きでやってるから良いだろうという声が聞こえそうだけど、ただ好きな事をしたいだけなのに、代償が多すぎやしないかとも思う。演劇の事だけ考えて生活出来ればいいのに、そうはいかない。夢のまた夢。
彼は安定した生活をしたいらしい。ちょうど地元の同級生は就職する時期で、それなのに彼は親のすねをかじり収入も不安定な生活をしていて、すごくしんどくなったそうだ。
1人の表現者が去っていく。また彼のお芝居が観たかった。
今バイト生活をしていますが稼ぎが少ないため、ご支援いただけるとありがたいです。