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予測不可能を楽しむ [Footwork & Network vol.24]

3月21日、レアルマドリード・ファンデーション・フットボールスクール東京晴海校にて、JWFA主催のウォーキングサッカーのイベントが開催された。今回のイベントは、普段のウォーキングサッカーのイベントとは一味違う。3月21日は「世界ダウン症の日」ということで、「ダウン症のことを知ろう」というイベントだったのである。そこで、今回のF&Nでは、このイベントで出会ったワハハ本舗の俳優・佐藤正宏さんを紹介しようと思う。佐藤さんは、俳優として活動しつつ、様々な場所で紙芝居を披露している方である。

「ウォーキングサッカーって何?」という方は、前回のF&NでウォーキングサッカーのことやJWFAの方のことを書いたので、ぜひこちらを読んで頂きたい。

不思議な空間

私が今まで参加してきたウォーキングサッカーのイベントは、ウォーキングサッカーを楽しむことがメインであった。しかし、今回のイベントでは、ウォーキングサッカーは企画のひとつに過ぎず、ストレッチヨガ、長野県中川村からの産直品 のマルシェ、紙芝居、紙切り芸、とひとつの空間で行われているとは思えない企画のラインナップであった。参加者も、小さな子どもからシニアまで、さらにはダウン症の方たちも一緒になって楽しい時間を過ごした。この不思議な空間が、たくさんの"予測不可能"な出来事を生み出したように思われる。

ウォーキングサッカーを始める前にみんなでストレッチヨガ

佐藤さんのトレードマーク

紙芝居を見るなんていつぶりだろうか…?もしかすると小学生以来だったかもしれない。今回のイベントの目玉企画、ワハハ本舗の佐藤正宏さんの紙芝居の時間になったとき、まずは佐藤さんが着ているカラフルなシャツに視線が集まった。紙芝居が始まる前に、佐藤さんからシャツについての説明があった。それは、自閉症重度知的障がいのある青年がペインティングしたものであるらしい。何の絵かはわからない。佐藤さんがその青年に「何を描いたの?」と聞いても「わからない」と答えたらしい。自分の描いたものを「わからない」といえるのは、「褒めてもらう」と思ってないからだろうと佐藤さんは話した。そんな物語をもった佐藤さんが紙芝居をする際のトレードマークであるシャツは、見る人を明るい気分にしてくれる。

大人も子どもも笑顔になる紙芝居

そして始まった紙芝居。最初の演目は『花咲かじい』。「花咲かじいさん」のストーリーはほとんどの人が知っている。しかし、佐藤さんがこの日に披露した『花咲かじい』は、もう二度と見れないかもしれない。なぜなら、紙芝居の最中にあった観客との掛け合いがとても印象的であったからだ。

観客席の最前列で座っていたダウン症の少年の素直な反応が周りの人々を温かい気持ちにしてくれた。そしてまた、佐藤さんもダウン症の少年と楽しそうに会話をしながら紙芝居を進めていくのであった。特に印象的だったのは、鬼の形相をした意地悪な隣の家の爺さんの絵が出て、ダウン症の少年が怖がって顔を背けた際に、佐藤さんが「(セリフ)…怖い?!これダメ??じゃあ、いなくなった言うね!(セリフ)…もういないよ!!」といったように、セリフの合間に観客との会話を交えていたことであった。少年も、怖がった後はニコニコしながら聞いていた。他の観客も思わず声が出てしまうほど笑っていた。

紙芝居中の佐藤正宏さんと少し怖がっている少年

予測不可能な出来事が思い出となる

紙芝居というのは、事前に準備されたセリフがある。観客の掛け合いを大切にしていたとしても、思いがけないような反応が返ってきたときは戸惑ってしまうかもしれない。今回のダウン症の少年の反応も、佐藤さんが今まで経験したことのなかった反応であったみたいだ。それでも、イベント後の懇親会で佐藤さんとお話しした際、何度も「今日はダウンちゃんたちのおかげで凄く楽しかったな〜!」と仰っていた。それを聞いて、予測不可能な出来事が起こったときの方が思い出となるんだなと感じた。

私は、何か行動しようとする際に、予想通りの結果にならなかったらどうしようと不安になってしまうことがある。しかし、佐藤さんのように予測不可能なことに対しても楽しむことを大切にしたいと思った。成功体験を繰り返すことも大切だが、"一度きり"の経験を増やしていきたいと思う。

最後に

"予測不可能な出来事"というと、佐藤さんの紙芝居もウォーキングサッカーも通じるものがあるなと感じた。何回もウォーキングサッカーをやってきたが、毎回予測不可能な出来事が起こる気がする。ウォーキングサッカーを始めたことで、それまでの自分なら出会うはずのなかった方たちと出会えた。これからも、色んな人と出会い、"一度きり"の経験を楽しんでいきたい。

ここで、佐藤さんから教えて頂いた、中島岳志著『思いがけず利他』に書かれている哲学者・九鬼周造氏の言葉を紹介したい。

不可能に近い極微の可能性が偶然において現実となり、偶然として堅く掴まれることによって新しい可能性を生み、さらに可能性が必然性へ発展するところに運命としての本願もあれば人間の救いもある。

九鬼 2012:282

「偶然の中にこそ可能性が潜んでいる」と、佐藤さんは仰った。

#melc2022   #FandN


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