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月曜日、皮膚科に行った。抜糸も終わり、今はテープを貼って傷の回復を待っている。その日は摘出した腫瘍の検査結果を聞きに行ったのである。仕事帰りなので業務終了後の17時45分に予約を入れていた。
ちょっと早めに仕事を終えたため、病院についた時間は予約時間よりも少し早かった。診察券と保険証を受付に出す。
こんにちは。ちょっと早いですが。
私は、そんな言葉で言い訳しながら入って行った。この時間で、患者の数がかなりの数、いる。病院には不適切な表現かも知れないが、ひょっとしたらここは繁盛しているのではないだろうか。私が通い出した頃から比べれば。
そういえば、受付の女性も、ひとり増えて2人になった。2人ともまずまず忙しなく働いている。以前にも書いたが、口コミの評価が5点満点で1.1の病院である。あの口コミは、ひょっとしたら当たっていないのかも知れない。などと考えているあいだに、名前を呼ばれた。
診察室、イチに、入ってください。
なに?なんだか聞き慣れない言葉がついたぞ。今日は。
そそくさと扉を開けて入り込むと、看護師さんが手招きをして、いつもの診察室の奥の方へと誘った。
そこは、いつも先生が隠れている柱の向こう側だった。
診療机の前の見慣れない椅子に座る。看護師さんがテープを外し、消毒を受けてから先生の方を振り返ると、検査結果の紙を指し示しながら私の傷を先生が見る。
検査結果は、良性です。傷も、綺麗ですね。極めて順調です。
看護師さんがそのあと、新たにテープを貼り直してくれた。今までは横に小さく4枚だったが、今度は傷に対して1枚、縦に貼る。1ヶ月後にテープを剥がす。これが、今後の私の予定である。
では、お大事に。
いつもの瞬間診療が終わった。その短い時間で、私はいくつか確認をした。診療室は、実は、3つあるようだ。部屋というよりも、軽くカーテンで区切られているだけだが。それぞれ、①、②、③と番号をふってある。今までは、全く気付かなかった。
私が今まで診察を受けているところが②。手術を受けたところが③。そして今日の、先生が座っている、柱の後ろが①と、なっている。
先生が柱の陰に隠れていると思っていたが、ここの病院は、ちゃんと診察室を使い分けていたようだ。だが狭い空間なので、患者には、そうとは気づかない。私のように、治療、手術、検査結果と経験した者にしか、恐らく分からない仕組みだろう。
なんだ。今日は先生に、なぜ柱の陰に隠れているのかと、冗談で聞いてみようかと思っていたのに。
そう思いつつ、受付で会計を済ませ、次回の予約を入れて病院を後にした。
ビルを出て、少し記憶を整理してみた。瞬間診療ではあったが、ようやく先生の顔をまじまじと見ることができた。で、思った。やっぱり、のび太のおかあさんに似ていた。
帰宅すると、家内がキッチンで晩ご飯を準備してくれていた。
玉子、元気にしてた?
玉子とは、のび太のお母さんの名前である。先生は、我が家ではそう呼ばれている。ちゃんとした名前を知っているのに、あだ名で呼ぶなんてちょっと失礼だよな、と、反省気味に心の中で呟いた。
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