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RICO-君と生きた青春 22 これからも

 その後の僕は毎日の仕事をそつなくこなし、プライベートは執筆活動に集中した。寝る間も惜しんで努力した。パワー全開の君と暮らしていた日々に比べれば、辛いと思える時間も充足感が満たしてくれた。
 華奈子とは梨子の月命日の墓参りや、法事の時に、会うようになった。それがいつの間にか、梨子を口実にすることなく、不定期ではあるが年に数度顔を合せる仲へと発展した。けれど、二人の間には何もない。長い間離れ離れでいた親友同士が空白の時間を埋めるように、親交を深めていった。それでも僕が抱く華奈子への恋心は永遠に消えない。
 いつしか華奈子にも新しいパートナーができた。相手は介護福祉士で、動けなくなった梨子の面倒もよくみてくれていたという。男の人を受け付けなかった梨子が唯一懐いてくれたのよと、華奈子は嬉しそうに話した。彼にも年頃の娘がいて、とてもいい子だから仲良くやっていけそうなのと続ける彼女には笑顔が絶えなかった。

 そして僕は夢を実現した。信頼できるパートナーも見つけ、結婚もした。
 結婚式には華奈子も呼んだ。彼女との経緯を知っている中学校時代からの男友達の驚きようは、些か緊張気味の僕の心を和ませてくれ、楽しい一日になった。
 ささやかに営まれた結婚式の記念写真の隣りに、この世に一枚だけ存在する、話しても誰も信用してくれない梨子との奇跡のツーショットも飾った。
 間もなく妻は懐妊し、女児を設ける。

 更に思いがけない発見に、僕は歓喜の声を上げた。

 梨子の尻の上方には、自分では確認できない、まるでバニーガールの尻尾のようなハート形の小さなあざがあった。その事実を本人には告げず、僕だけが知り得る梨子の秘密にした。
 そのあざを娘の尻に見つけたのだ。
 迷わず娘に梨子と名付けた。これは僕の生き方を大きく変え、今の自分にしてくれた、人生の師である恩人の名だからと妻に打ち明けると、すぐに納得して笑顔で了承してくれた。

 僕は梨子の墓前に今ある自分を報告する。

『実クン休んじゃダメ、人生はこれからだよ』

 笑いながらそう言って叱咤激励している君が目に浮かんだ。

 ある週末の午後。
 仕事に一区切りをつけた僕は、リビングにある長手のソファに身体を沈めデーゲームの巨陣戦テレビ中継を観ていた。するとキッチンにいた妻が足早に近付き、黙って隣りに浅く腰掛けた。困った表情で僕を見つめる妻に迷わずどうしたのと手を差し伸べた。
 二歳を迎えた我が家の梨子は、元気に育ち妻の手を大いに焼かせている。そんな娘を見る度に君を思い出し、懐かしさが込み上げ笑みを浮かべた。ハイテンションの君を知っているから僕は何時でもすぐに妻をフォローする。
 梨子が、私やあなたに向かって変な口癖を言ってるからやめるように言って下さいと隣りの妻が嘆いた。

「ぼくが、きみにふくじゅうしているあかしだよ」

 その言葉に僕は驚かない。話せるようになった頃の子どもは、突然前世の記憶を話し始めるが、それは大人になるにつれ薄れていくと聞いたことがある。そばにいたいと願った君の魂は間違いなくここにある。日々成長する娘は君の想いを知らない。だから君がそう生きたかったように、僕は娘を自由に育てたい。もちろん放任主義ではない。親の責任を命懸けで果たすべく、娘のためにこれからの人生を邁進したい。

(服従しているのは僕の方さ。)

 娘の頭を撫で、僕は心の中で呟いた。

                               了

#創作大賞2022

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