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【コラム】相場サイクルで「経済成長」を説明すると ~優しく噛み砕いて説明します~

経済の状況を図る物差しとして、現代では様々な指標が用いられています。例えば経済の規模を測るなら国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)、GDPの変化を捉えるなら経済成長率など…言葉と意味を知っておくと投資にも役立つ指標はたくさんあります。投資を行う上で、これから経済が成長(良化)していくのか悪化していくのか、そして成長や悪化の速度が加速していくのか減速していくのかを指標で捉えることは非常に大切です。

しかし、まずは指標用語の意味を丸暗記するのではなく「経済成長とはどんなものか」という大枠をイメージ出来るようになってほしいと思います。その方が投資において実用的な考え方が出来るようになるからです。

今回は指標のお話ではなく、経済成長の大まかなイメージを掴んでもらえるような説明をします。

A:経済成長とは、最終的に実態経済がインフレしていくこと

「経済が成長する」、これを一言で表現すると、最終的に実態経済のインフレが進んでいく状況=実態の景気が良くなっていくことです。インフレなので、物の値段も人々の収入も両方上がっていく状態です。経済は金融経済と実態経済に分かれていて、これらの間にはズレが生じていることはこちらでも説明しました。

変化が起こる順序は、いつも金融経済⇒実態経済の順です。経済成長は金融経済(株価)が動き出した時から既に始まっていますが、投資をしない人々に実感として認知されるのは実態経済に変化が及んでからです。経済成長の話は相場サイクル論の話と密接にリンクしています。相場サイクルは金融経済が先に動き出して金融相場が始まり、その後に実態経済も好景気になるから業績相場に移行します。まだ相場サイクルの基本を読んでいない人は上記のコラムをぜひご一読ください。

B:金融経済は、刺激すると動き出す

相場サイクル論でも説明していますが、金融経済(株価)は、株式市場に刺激を与えることで動き出します。例えば日銀が行う金融政策や、政府が行う財政政策がこの刺激に該当します。2012年のアベノミクスや、コロナ暴落後の莫大な金融緩和が最たる例です。金融政策という言葉が根本的によくわからない人は、こちらのコラムも参考にしてみてください。

○金融政策はマネーが流通しやすい環境を整えるもの

○財政政策はマネーの流通量を増やすもの

と覚えておくと良いでしょう。この様な景気刺激策が正常に機能すると、まずは金融経済(株価)から反応が始まります。株価は実態経済に先行するので「株価は実態経済の先行指標になっている」とも言えるでしょう。

C:刺激が経済効果として波及していく=インフレが進んでいく

景気が刺激されると「企業業績は良化するだろう」という見込みから株価は上昇します。つまり、相場サイクルの金融相場が始まります。例えば金利が下がってお金が借りやすくなれば、借り手にはたくさんのメリットが発生します。お金を借りて車や家が買いやすくなるし、建設企業の大型プロジェクトも計画され始めます。すると鉄鋼や木材の需要は回復して価格が騰がる。企業は設備投資にも積極的になります。設備を開発する企業に仕事は来るし、新商品を開発した企業の売り上げや利益も伸び、社員の給料も上がる。社員は会社を出れば消費者の一人ですから、給料が増えると購買意欲も上がる…良い景気循環が発生し、徐々に実態経済に影響を及ぼします。相場サイクルは、金融相場から業績相場に移行していくことになります。

【余談】
2020年3月のコロナ大暴落の後、大規模な金融緩和で株価はすぐにV字回復しました。しかし、世間は「株価だけが上がるのはおかしい、偽物の回復だ」という報道で溢れました。実態経済への影響は金融経済が動いた後に発生するので、当たり前なのです。

企業の利益が増えれば、更なる投資にお金を回すことが出来ます。例えば積極的なM&A(買収や合併)は、企業自らが新たな需要や変化を開拓する活動であり、好感すべきことです。タイのアユタヤ銀行を自社グループに引き入れた三菱UFJ銀行や、東京の一等地を再開発する決定をした大手不動産業者の動きなど、これらは企業の積極的な投資行為であり歓迎すべき動きだと言えます。

こうして一つの景気刺激策が企業の自発的な経済活動を促し、それが経済効果として波及する…つまりインフレが進んでいくのです。物価も上がるし給与も上がる状態ですね。

D:インフレはいつまでも続かない

さて、順調に経済発展が進んでいくと、インフレはどこまでも進むのでしょうか?残念ながら、どこかのタイミングで企業の成長は伸び悩み、株価は下降を始めます。何故なら、実態経済がしっかり回復してくると金利が上昇してくるからです。不景気の時に低金利にして景気を刺激することは有効ですが、好景気になっても低金利を続けてしまうと、人々の投資熱が過熱し過ぎてインフレに収拾がつかなくなってしまうからです。行き過ぎたインフレは内需企業にダメージを与えます。

金利を上げるとインフレはだんだんと収まってきます。同時に、企業の設備投が減ったり返済が苦しくなったりもしてきます。金利が上昇してもそれをカバーできるくらい企業業績が好調の間はよいのですが、企業業績もだんだん伸び悩んできます。いよいよカバー出来なくなってくると、企業業績が悪化してきます。その後は、やはり実態経済が時間差で後から悪くなっていく(逆業績相場)。好景気になる時とは逆の流れに変化していきます。これももちろん相場サイクル論の話ですね。

今回は「相場の循環」という視点ではなく、「企業と経済の成長性」に視点を当てて循環を説明していますが、根本の仕組みは相場サイクルと同じなのです。相場の動きと企業や経済の成長は密接にリンクしています

E:経済成長(≒企業成長)のロスについて

何故企業業績は伸び悩み、引いては経済の成長は減速してしまうのでしょうか?これは、企業の成長にはロスを伴うから、という説明がわかりやすいと思います。例えば、コスト削減意識の低下です。人間は儲っている時に気が大きくなりがちですから、売り上げや利益が伸びている時期の企業は、コスト削減意識が低くなりがちです。ムダが多くなるのです。

加えて、様々な要因で企業の利益は圧迫されていくことになります。

経済ロス

例えば、A君が生産した車を販売店B君を通し、顧客のC君に販売するとします。通常であればA君、B君はそれぞれ自分の利益を上乗せした金額でモノを売買していきますよね。ここではA君の利益は30万円、B君の利益は20万円です。みんな利益を得て経済が発展していきますが、もしB君はC君に弱みを握られていて、95万円で販売を強いられたとすると、B君は5万円の赤字になりますね。C君は安く買えたから良いかもしれませんが、本当はB君も利益を出し、C君も誰かに転売するなら更にD君に売って利益をあげ、経済的にインフレさせていく方が明るい世界です。しかし、B君の会社は決算数字が悪くなるので、株価が伸び悩むことになります。

もしくは、A君が稼いだ30万円を新たな設備投資に回さず内部留保(企業の貯金)に回した場合はどうでしょう。ある程度は財務を健全に保つために貯えておくべきですが、過剰な内部留保は新たに付加価値を生むものではありませんから、これも経済成長のロスとなります。

更に例を挙げると、これが車ではなく食品なら…?コロナウィルス騒動の様に経済活動が自粛になると、食品などは消費期限を過ぎて廃棄されますから、これも当然経済成長のロスです。コストをかけて生産したものが廃棄されるなら、当然ロス以外のなにものでもありませんよね。

こういったロスが積み重なってくると、業績の成長が鈍化してきます。それを察知した投資家は株を手放すので株価が下がります。ロスの積み重ねが続くと、いずれ業績にも数字の悪化が現れてくるので、更に株価は下がります。このような傾向の企業が増えてくると、その総計が日経平均の、引いては経済全体の成長のロスとして可視化されていくのです。

経済の成長はこの様に頭打ちしてしまいます。相場は業績相場から逆金融相場、逆業績相場へと移行するのです。やはり金融経済(株価)から変化は始まり、実態経済に波及していくわけです。

F:政府のインフレ対策

企業の成長ロスが、いずれ経済全体の成長ロスとして株価に反映されることはおわかり頂けたと思います。では、政府はどの様な動きをするのでしょうか。

政府は、インフレが加速し過ぎた場合、増税や金利を上げることでこれをコントロールしようとします。インフレの過熱感を取り除きたいが、景気は冷え過ぎないようにしたい…しかしその匙加減は難しいのでしょう。増税や金利上昇により景気は下降してきますが、この下降は短期間に抑え、かつ加熱感を素早く取り除くことが重要です。増税や金利を上げるタイミング、規模、期間…様々な要素が複雑に絡みます。
加えて、先程説明した企業の成長ロスも考慮して判断しなければなりません。ましてや、実態経済への影響には最低でも半年のタイムラグがありますから、相当難しい判断になります。しかし、一つ政策を間違うと失われた30年(暗黒の平成時代)の様な期間を生み出しますから、政府の責任はやはり重大です。

企業、引いては経済の成長が鈍化したことを察知した投資家は、リスク回避のため資金を株から別の何かに移動させます。特に目先の暴落を警戒すると、株からの避難先として金や債券などは特に買われます。これからの時代はビットコインなんかも買われる対象になるでしょうか。

G:まとめ(とビッグバン理論)

いかがでしょうか、金融政策に始まった金融経済(株価)の活況は、やがて実態経済の好景気をもたらします。そして経済成長のロスや政府のインフレ抑制政策で頭打ちになると流れが逆回転し、今度は不景気のターンに変わっていくのです。

最後に面白い例えをしましょう。少しスケールの大きい例えになりますが、一連の経済成長サイクルには、宇宙誕生の「ビッグバン理論」に通じるものがあります。

この理論によると、宇宙の始まりはビッグバンという大爆発で、爆破の余波が宇宙をいまだに押し広げているらしいのです。宇宙は大きくなるとやがて自らの重力に耐えられなくなり、今度は逆回転をして収縮を始める。そして、いずれは一つの「点」に収束するのではないか、と言われています。

ただし、収束に転じるほど大きな重力を持ち得るのかは不明であるという指摘や、緩やかに宇宙は広がり続けるのではないか、という説もあるようです。

経済成長の始まりも、金融政策というビッグバンです。波及効果が広がりきると、今度は不景気に向けて逆回転します。これはスピリチュアルでもなんでもなく「この世の出来事にはサイクルが存在する」という例えです。経済成長は人間活動の総和が引き起こす現象ですから、人間が自然の一部であることを考えると、このようなサイクルが相場や経済に存在しても全く不思議ではないのです。

まとめ

○経済成長とは「最終的に」インフレを伴って株価や給与、物価が上昇していくこと(経済成長≒持続的なインフレ)。

◯いつも金融経済(株価)が実態経済に先行して変化していく(株価は実態経済の先行指標)。

○インフレは永遠に続かず、経済成長のロス等により頭打ちになる。

○頭打ちになると逆回転が始まり、再び株価から先行して不景気になる。

繰り返しになりますが、今回の内容は相場サイクル論を経済成長という視点から掘り下げたものです。相場サイクル論のことはぜひ知っておいてください。

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