相場サイクル論 ~10年を4分割して相場を考える~
A:はじめに 基本的な投資構造を知ろう
今回説明する相場サイクルは、私が思うに「投資家として知っておくべき最も重要な知識の一つ」に該当します。投資に興味を持った理由は人それぞれだと思いますが、せっかく投資に取り組むのであれば、相場で長く生き残れる基礎体力を養ってほしいと思っています。実に多くの人が、明日すぐにでも儲けが出るような、早く株価が騰がる銘柄を求めています。しかし、それがわかる人なんて絶対に存在しません。どんなプロでも勝率は100%はおろか、50%もあれば優秀な部類です。儲けを急ぐあまり小手先だけの技術や知識でなんとかしようと考える人が後を絶ちません。具体的には「PER的に割安だから」とか「PBRの○○倍だから」と、テクニカルのことを考えている人が多いようです。
しかし!残念ながらそれではダメです。そんなことは100円で買える中古本にも書いているし、何より、テクニカルは道具の一つに過ぎないからです。大切なのは、道具を使う側の技量(=知識)であることは言うまでもないでしょう。恋愛でも同様だと思いませんか?本質がダメ人間で中身のない人が、いくら「モテるLINE文章の書き方」という小手先の技を学んだところで限界はすぐに訪れます。
テクニカルにも意味はあります。しかし、その意味を理解し、正しく使いこなすには下地となる知識(相場観や経済観)が必要です。下地のない小手先だけのテクニカルでは思わぬ落とし穴にはまってしまうし、家だって基礎がしっかりしてなければ簡単に倒壊してしまう。ここでいう下地となる知識の最たる例は「相場サイクル論」のことです。まずは、相場サイクル論の具体的な説明の前に、基本的な「投資の構造」について解説します。こちらの図をご覧ください
正しい投資構造を説明すると、この様なピラミッド型になります。実際に銘柄を売買するまでには①相場サイクル論を知ること、②ファンダメンタルズ分析をすること、③テクニカル分析をすること、これら3つの努力が必要です。ピラミッドの最下層、最も基礎であり土台となる相場サイクル論から順番に理解することが大切です。これは努力の順序と言っても過言ではありません。
相場サイクルの詳しい話は後でしますが、簡単に言えば「自然の摂理」です。春の後には夏が来て、夏の後には秋が来る…まずは相場の世界に当たり前に流れている摂理を知る必要があるのです。
摂理を理解出来たらファンダメンタルズ分析は楽になります。どの季節にどのセクターの銘柄を選ぶべきかを理解出来るようになるからです。春の時期には公共銘柄や素材銘柄を、夏の時期にはメーカーや小売、サービスを…といった具合です。季節の移り変わりを理解していないと、適切な時期に適切な分野の銘柄を選べなくなります。これから冬が来るとわかっていれば、秋に野菜の種を撒こうとは考えないですよね?
テクニカル分析は実際に売買するタイミングを図るものです。種蒔きで例えると天気予報みたいな感じでしょうか。「今日は雨だけど明後日には晴れるから種を撒く準備をしておこう」とか「もうすぐ台風が来そうだから早めに収穫してしまおう」とか。
こうやって3つの要素を順番に使いこなしていくと「適切な時期」に「適切な分野の銘柄」を「適切なタイミング」で売買出来るようになります。これが基本的な投資の構造です。しかし残念ながら、実際には間違った理解が蔓延しています。特に顕著なのは、テクニカル派とファンダメンタル派の対立です。
先程の説明を読んで既にわかったと思いますが、テクニカル分析とファンダメンタルズ分析は対立すべき要素ではありません。なのに、世の中の大半の理解は「どちらかが正しくてどちらかは間違っている、非効率だ」というものです。そもそも相場サイクル論を知らない人が大半なので、どちらにせよ安定した投資生活は送ることが出来ないでしょう。
正しい投資の構造が理解出来て初めて「自分がどんな投資スタイルで投資に臨みたいか」、「どうやったら相場で長生きできるか」も見えてくると思います。ファンダメンタルズやテクニカルについては別の記事で解説します。まずは相場サイクル論具体的にを学びましょう!
B:経済は実態経済と金融経済に分けて考えよう
とは言え、相場サイクル論を詳しく学ぶ前にもう一つ理解してほしいことがあります。我々は経済を「実態経済」と「金融経済」に分けて把握しなければならない、ということです。
実態経済とはその言葉の通り、我々の実生活をイメージするとわかりやすいでしょう。昼ごはんの弁当が500円で買える、スーパーに行けばチョコレートが100円で買える…でも値上がりしてチョコレートが150円になると、ちょっと財布に痛い。一般の人々にとって「実感を伴う景気」を表した言葉、それが実態経済です。
対して、金融経済の最たる例は株価です。例えば、明日の日経平均株価が上がっても下がっても、投資をしない人にとっては明日の昼ごはんの価格が急に変わるわけではありません。実生活にすぐに何か変化を実感することはない。これが金融経済の視点です。
私たちが景気の良し悪しを語る時は、無意識に実態経済のことをイメージして話をしていることが多いとお気づきでしょうか?金融経済に全く関心がない人もいます。しかし、金融経済と実態経済は密接にリンクしています。一見、投資をしない人にとって金融経済は人生に無関係のように思えますが、それは全くの間違いです。金融経済が変化した後は、実態経済への影響がしばらく遅れてやってくるからです。一般的に、金融経済が動いて半年程度すると、少しずつ実態経済に影響が感じられるようになることが多いようです。常に金融経済が先に動いて、後から実態経済が追いかけるイメージを持つと良いでしょう。つまり、金融経済(株価)は最低でも半年後の未来を先取りしているのです。
C:相場サイクル論とは
では、ようやく相場サイクル論の説明に入りましょう。相場サイクル論とは、簡単に説明すると「好景気と不景気は交互に循環する」という考え方です。Aのセクションでも例に挙げたように、季節の移り変わりと理解してもよいでしょう。好景気(春、夏)の後には不景気(秋、冬)がやってきます。相場サイクルには長期、短期などいろいろなものがありますが「おおよそ10年で一つのサイクルを形成する」という考え方が代表的です。つまり、10年の間に景気が良い時期(5年くらい)と悪い時期(5年くらい)がやってくることになります。全体相場が悪い時期にはどんなに良い銘柄でもなかなか株価は騰がらないものです。サイクルの流れを知ると攻めの投資や守りの投資を切り替えやすくもなるし、経済という世界の全体を俯瞰的に見ることが出来るようになります。
相場サイクル論は、あなたがどんなスタイルで投資をする場合にも非常に重要な知識になりますから、大枠だけでも捉えておくことを強くお奨めします。
D:相場サイクル論の基本的な考え方
相場サイクル論では10年の間に好景気と不景気の時期が発生する、と説明をしました。また、セクションBでは金融経済と実態経済にはズレが生じることも説明しました。これをそのまま10年というサイクル期間に当てはめると一気に相場サイクル論がわかりやすくなります。好景気や不景気は、金融経済と実態経済に分かれて循環する、ということです。例えば好景気は、
①金融経済の好景気 ⇒②実態経済の好景気(給与や物価上昇=インフレ)
という順序でやってくるのです。同様に、不景気がやってくる時は、
③金融経済の不景気 ⇒④実体経済の不景気(給与や物価下降=デフレ)
という具合です。
結局、10年という期間を①~④の4つの期間に分けて考えるわけですから、一つの期間は2年半程度続く、ということになります。4つの期間には金融相場、業績相場、逆金融相場、逆業績相場という名前が付いています。
相場の状況は、まるで四季の様に移り変わるのです。
春である金融相場をスタートと考えるなら、2013年に本格始動したアベノミクスが該当します。各期間はおおよそ2~3年前後で次の期間に推移していくことが多いのですが、それぞれに明確な区切りが存在するわけではありません。例えば、大きな事件が発生すると一つの期間が伸びたり短くなったりもするし、全体が10年ピッタリになるとも限りません。9年になるかもしれないし、12年くらいに延びることもあるでしょう。実際、コロナショックによる大暴落が発生した2020年初頭はアベノミクス開始から約7年後でしたから、時期的には逆金融相場~逆業績相場あたりを推移していたはずです。大暴落の前から株価は既にどん底でした。
しかしその後は、2020年3月に大規模な経済対策を世界中ですぐに打ち出しました。大金融緩和です。これにより、新たな金融相場の到来が一気に近づいたのです。2013年から始まった景気循環サイクルは7年程度で終了し、2020年後半には新しいサイクルに突入したようです。もしかすると、コロナショックによる大暴落が無ければ、少なくともあと1~2年程度は逆業績相場が続いたかもしれません。しかし、大きな景気対策が打ち出されたため、サイクルの循環が一気に加速したのです。景気の成長速度(企業の発展、回復速度)は、基本的に投入されたマネーの量に比例します。幸か不幸か、ウイルスによるイレギュラーな世界的大暴落が景気循環の速度を加速させたのです。そして大量に流されたマネーは、技術進歩も加速させることになるのでしょう。
今回はイレギュラーな事件もあり、7年程度で一つのサイクルが終了したように思いますが、季節が移り替わるように相場の状況が変化していくイメージを持つことが大切です。
E:大暴落も10年に一度やってくる?「歴史は繰り返される」は本当か
サイクル④のあたりは、最近でいうところの2018~2020年3月に該当し、季節で言うと「冬」になります。実際にこの頃は「2か月連続で日本の経済成長はマイナス成長になりそうだ」とか「実は2018年から不景気に突入していた」というニュースが報道されました。そしてこの一番厳しいサイクル④の冬の時期に大きな暴落が起こっていることにお気づきでしょうか?2008年はリーマンショック、2020年はコロナショックです。約10年に一度、大きな暴落はやってきているのです。まるで10年サイクルの最後に終止符を打つように…。また10年後に大事件が発生するのかどうかはわかりませんが、このことは頭の片隅に入れておくと良いでしょう。
大暴落の後は、いずれ再びサイクル①に戻ります。新時代は混沌の中から生まれます。5Gや自動運転など、新たな産業革命が新時代の扉を開く可能性があるのでしょう。
F:2020年3月以降は明るい
2020年2月に起こったコロナ大暴落は確かに悲惨でしたが、見方を変えると、向こう10年間くらいはこの規模の暴落が起こる確率は非常に低い、ということにもなります。そして不幸中の幸いにも、コロナショックは大量の金融緩和マネーをもたらし、日本株の新時代幕開けを早めてくれた側面もあります。
しかし、世間にはまだまだネガティブな見方が多く、相場サイクル論に興味がない人、または知らない人は大不況に転じると考える人も多いようです。ここから数年(短くても2年、最大3~4年程度)は日本経済大成長の期間となります。もちろん多少の調整はやってくるでしょうが、長期目線の投資を今から実施していけば良い結果になることでしょう。
G:補足:実は企業にもサイクル論は当てはまる
相場サイクルの様に、企業にもサイクル論が当てはまります。利益がドン底(赤字)の時期になると、企業はコストダウンに努めます。すると、僅かながら利益が出るようになります(もしくは減益の程度を小さく出来ます)。そして悪い状況を我慢して乗り越え、良い風を待ちます。良い風が吹き始めると売り上げが伸び、コストダウン効果と合わせて今度は一気に利益が増加します。企業の「再成長期」とでも言うべきでしょうか。こうして復活し、再成長した後は再びどこかで業績が頭打ちになり、成長にロスが発生して利益が再び減っていく…これが企業のサイクルです(企業成長のロスについては下記記事で紹介します)。
もちろん、企業業績と株価の関係にもズレが生じます。2020年2月のコロナ暴落により業績落ち込みが激しかった企業は、3月以降の決算でそのダメージの大きさが判明しました。しかし、株価は既にそれを想定して売買されていたのです。案の定、6月発売の四季報にはコロナによる業績悪化がズラリと記載されましたが、4月から既に株価は急激に回復し始めていたのです。その光景に驚いた人は多く、「(実態)経済が落ち込んでいるのに株価だけ騰がるなんてまやかしだ!」という報道が繰り返されました。金融経済(株価)が先行して動くことが当たり前だ、ということを多くの人が知らないからです。6月時点で「こんなに業績(実態)が最悪の時に投資をするべきでない、2番底がやってくる」と述べる専門家もいましたが、彼らにはその瞬間の状況(実態経済)しか見えていなかったのです。
3月までに莫大な金額の景気対策が決定した後、2020年の秋以降にある程度日本企業の業績が回復する、という予測が強く働いたのでしょう。このように、金融経済は将来の期待や不安を織り込んで動き始めるのです。
相場全体のサイクルと企業のサイクルが良いところで噛み合うと、株価もかなり高く飛ぶことになります。つまり、いくら企業のサイクルが成長期だとしても、全体のサイクルが良くないと大きく伸び悩むこともあります。本当に大きく株価が伸びる企業は、時代を味方につけているパターンが多いのです。
H:スタイルは人それぞれ
私は相場サイクル論をベースに投資を組み立てているので、長期目線の投資スタイルを選んでいます。しかし、もちろん相場サイクル論を知った上で新しい時代を短期トレードのスタイルで挑戦しても良いと思います。気をつけてほしいのは「小手先のテクニカル技術でも、ハマれば一時的な利益は得られてしまう」ということです。ずっと同じ手法で稼ぎ続けられれば良いのですが、相場サイクルが季節の様に移り替わる度、状況は一気に変化します。状況が変われば、一つの手法、ましてや小手先の技術では通用しなくなります。つまり、相場で長生きが出来ないのです。1~2年はたまたま上手く稼げるやり方を見つけても、相場の季節が変われば通用しなくなります。
株式投資の世界では「習うより慣れろ」の精神が大切です。あなたがどんなスタイルで投資をするにしても、株式投資と付き合っていくなら、これから10年の間に①~④の季節変化を投資家の立場でしっかりと体験しておくと良いでしょう。…私はあくまでも、長期スタイルをお奨めしますが!
【補足】
厳密に説明すると、相場サイクルが発生し繰り返すのは「金利が変動するから」です。金利が低くなれば投資熱が刺激され(金融相場)、インフレと好景気(業績相場)を経て、投資熱が行き過ぎると金利を上げる話が出てきます(逆金融相場)。金利を上げてインフレをコントロールしようとするものの、いつも上手くいかなくて結局実態経済が一旦冷え込みます(逆業績相場)。相場サイクル論は言ってしまえば「金利変化に伴う景気循環の理論」です。投資が理解出来てきた人にはこの表現が腑に落ちると思います。
まとめ
○代表的な相場サイクル論では、10年の間に好景気と不景気の期間が訪れる。好景気と不景気の期間はそれぞれ更に金融経済(株価)と実態経済に分けて考える必要があるので、合計4つの期間が季節のように移り変わることになる。金融経済(株価)はいつも実態経済に先行する。
○相場サイクル論を知ると、おおまかに大暴落の時期も警戒出来るようになる。どんな投資スタイルにも応用可能である。
○企業の成長と停滞にもサイクルがあり、相場サイクル同様に株価が業績に先行して変化していく。
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