見出し画像

美少女ゲーマーが見た バディミッション BOND

美少女ゲーマーとは美少女ゲームをプレイするゲーマーの意である。決して私の身体的特徴を称したものではない。

バディミッション BOND(以降、BOND)は、2021年1月29日に発売されたアドベンチャーゲームだ。任天堂とコーエーテクモゲームスがバディを組んだタイトルで、開発はルビーパーティー。

発売から1年以上が経ち、このゲームがどのようなゲームであるかを教えてくれる良いレビューは多いので、本作の詳細な紹介はそちらに譲ろう。

では、ここでは何を語るのかというと、私がWindows向け18禁美少女ゲームによく触れている人間だということがキーになってくる。少し誤解を招くかもしれないが、美少女を見てきた私があえてイケメンを見てみようというわけだ。
私はNintendo Switch Online加入者特典のいっせいトライアルにてプレイした。約25時間のプレイでメインシナリオは抑えたが、サブストーリーをすべて回収したわけではないことを予め記しておく。

まずはシステムについて、続いてシナリオについて美少女ゲーマー視点で気になったところ、良かったところを語っていきたいと思う。ネタバレは最小限にとどめているので、未プレイの人も安心してほしい。


CG周りについて

PVを見て一番最初に注目したところは、「ワンパンマン」「アイシールド21」の作画でおなじみの村田雄介氏によるキャラクターデザインと、まるで漫画のフキダシのような演出だ。

漫画のようなグラフィックとフキダシ演出

ついに来たか、と思わず唸ってしまった。というのも美少女ゲームの断絶された歴史を思い出したからだ。

それは、Littlewitchというメーカーから発売された「白詰草話」や「Quartett!」で採用されたフローティング・フレーム・ディレクター(FFD)システムだ。

2004年にLittlewitchから発売されたQuartett!
弦楽四重奏をテーマにした作品で、美麗なグラフィックスと心地よいBGMが魅力だ

一般的なノベルゲームスタイルから大きく外れたこのシステムは、美少女ゲーム界隈でも際立った魅力を放っていた。しかし、この作品に同調するメーカーはなく、美少女ゲームの潮流から置き去りにされてしまった。
それには複数の要因が考えられる。Quartett!は全シナリオをクリアしても5時間程度と短くまとまっている。同じ価格帯の美少女ゲームは20時間以上のプレイ時間が確保されており、ボリュームの肥大化という当時の主流からは外れている。コストがかかり過ぎるという面もあっただろうか、当のLittlewitch自体もFFDシステムから距離を置き、次第に一般的なノベルゲームスタイルに落ち着いた。

だからBONDでフキダシを見た時には思わず嬉しくなってしまった。もちろん演出についての起源主張をしているわけではない。BOND開発陣がFFDシステムに影響を受けて……というのは考えにくい。鳥も蝶も空を飛ぶという点では同じだが、その飛翔メカニズムは進化的に独立であるように、ノベルゲームスタイルにおける良い演出を考えた末に似たような結論にたどり着いたのだろう。

ただ、実際にプレイしてみると、BONDは全編通して漫画的な演出が採用されているわけではないことに気づく。背景に立ち絵というオーソドックスなノベルゲーム的なシーンも多い。Quartett!は5時間程度のボリュームしかなく、物語を見るというより演出を見る作品だった。メインシナリオだけで25時間程度あるBONDは目指す方向性が違ったのだろう。あるいは、漫画的な演出は魅力的だが、それが20時間以上も続くと読んでいて疲れてしまうことも考えられる。長いシナリオを見せる上での取捨選択、適材適所だったかもしれない。

立ち絵と背景にも本作独自のスタイルを出している

一般的なノベルゲームスタイルでも、背景はコミック調のコマ割り、キャラクター立ち絵にも影が付けられるなど本作独自の演出が見られる。立ち絵も単なる棒立ちではなく躍動感があり、かなりのパターンがある。イラスト周りは相当リッチだ。
加えて、CGの豊富さの恩恵として地の文が極端に少ないことは注目に値する。

それにしても画面下のUI表示については少し疑問を感じる。もう少し控えめにはならなかったのだろうか? キー割り当てを覚えていない序盤のうちは助かるが、任意で消せる設定が欲しかった。

擬音や見切れ具合などのコミック的なCGが魅力

通常テキストのフォントは漢字はゴシック体、平仮名カタカナは明朝体。見得を切るシーンではすべてゴシック体になり強調される。こういったフォント使い分けもコミック的だと感じた。
美少女ゲームだとフォントを自由に選べるものもあるが、それだと作り手の意思を無視してしまう感じがして個人的には好きではない。


選択肢、ヒーローゲージについて

それぞれの選択肢において正解を選ぶとヒーローゲージが上昇する。高スコアだとサイドシナリオが開放されるなどの報酬がある。仮にヒーローゲージが下がる選択を選んでも、スコアは下がるが周りのキャラが指摘してくれるので正解のルートに進む。私のプレイでは最悪の選択肢を選び続けてはないが、スコアを気にしなければ適当に選んでもクリアはできるだろう。選択肢によるマルチエンディング分岐はなく、一本道のシナリオになっている。
章の終わりにはスコアとして提示されることからも、ヒーローゲージは上昇することが良しとされている。

美少女ゲームでは選択によって変化する値として面白いものがある。「セミラミスの天秤」という作品の善悪メーターだ。

2014年にキャラメルBOXより発売されたセミラミスの天秤 
選択肢に善悪の値が設定されており、それによって天秤が揺れ動く

学校のルールを破るが特定のヒロインのことを想った選択肢、魅力的だが倫理的に問題のある選択肢、ルールに従ってはいるが無難な選択肢などが提示され、それぞれの選択により善悪メーターが動く。善に行けばよい、というわけではないのがこの作品の面白い所。思考停止で「善行」を選び続けていくと……、最ッ高のバッドエンドに突入するのだ。
プレイヤーはヒロインの好感度と善悪値の両方を管理しなくてはならず、ゲーム的には面倒くさい。しかし、善悪を問う設定と、マルチエンディングなシナリオがマッチした良作だ。

対して、バディミッション BONDはリニアなシナリオで、選択肢の結果は単なるスコアとして提示される。そこは演出したい物語の違いだと思われる。セミラミスが人間の善悪を問いかける物語だが、BONDが描く物語はそうではない。BONDに選択肢による大きな分岐を入れてしまうと、主題がブレてしまうだろう。
当然だが、一本道だから悪い、というわけではない。マルチエンディングにはマルチエンディングの魅力があるように、直線的なシナリオにはそれだけの魅力がある。シナリオの詳細については後述する。


捜査パート、潜入パートについて

捜査パートはこの作品を構成する重要なパートだ。聞き込みする相手は単なる村人Aではなく、それぞれ背景を持った人々だ。4人のプレイアブルキャラから2人を選び、捜査パートに入る。聞き込み対象に誰が話しかけるか、そして彼らの問いにどう答えるかで捜査の成否が決まる。
捜査のヒントは日常的な会話の中にある。重要なキーワードは文字色が強調されるが、それ以外の発言にも隠されているので意外と気が抜けない。間違ったキャラで話しかけると正解のキャラが提示されるなど、救済措置も用意されており、そこまで理不尽ではない。

捜査パートではバディ選択と行動回数の管理が必要で意外と面白い

捜査パートは単なる作業ではなく、キャラ選択、どの順で聞き込みに回るかなど小さな戦略があり面白い。また、正解を選ぶために自然と通常の会話に集中してしまう。細かい会話まで目を行き届かせるための工夫は成功しているといえる。
ただ少し残念だったのは捜査パートでは、フルボイスではなくパートボイスだったことか。

魅力的なキャラクターデザインや演出はどこへやら

好感触な捜査パートに対して、潜入パートはよくわからない。あまり優れているわけではない3Dモデルでゲームをさせられる。しかも、どうやったらクリアできるかは捜査パートですでに調べているので、わざわざ操作手帳を確認→3Dで操作という作業をし続けなくてはならない。
戦闘を始めとするアクションはすべてQTEで行われる。タイミングよくボタンを押す作業が結構なペースで入ってくるので、煩わしい。QTEを失敗するとヒーローゲージが低下するので、高スコアクリア(=すべてのサイドシナリオを読むため)にはQTEがある程度上手であることが必須。
美少女ゲームでは3Dモデリングなんてめったにお目にかかれないが、だからといってこの潜入パートではBONDにアドバンテージがあるとはいえないだろう。


細かなシステムについて

セーブ枠が10枠しかないのがちょっと気になった。章ごとにシナリオ選択ができるのであまり不便を感じなかったが、印象的なシーンをセーブさせたいと思ってしまうのは美少女ゲーマーの性か。

また、私は日常的に静音マウスを使うレベルで音が気になる人間であり、ノベルゲームではテキスト送りの際のSEも苦手だ。OFFにする設定が欲しかったが、オートモード中ならSEが鳴らないことに気づいたので私はオートで進めていた。

2016年にWhirlpoolから発売されたワールド・エレクション
各動作についてシステムボイスのON/OFFを個別に選択できる

BONDのシステム設定は最低限に留まっている。Windows向けの美少女ゲームとSwitch向けのアドベンチャーゲームを比べるのは少し酷な気もするが、もうちょっとカスタマイズさせて欲しい。
半ば言いがかりに近いいちゃもんを付けてしまったが、本作の物語としての魅力はその欠点を補ってあまりあるものだ。次にシナリオについて語っていこう。



シナリオについて

私はヘテロな恋愛を主体とする美少女ゲームの愛好家だが、美少女ゲームだからこそ男の主人公が重要だと思っている。私が見たいのは美少女単体やプレイヤーの分身が織りなす疑似恋愛ではなく、あくまでも主人公とヒロインの関係がどう構築されるかだ。関係性オタクと呼ばれるものに近いのかもしれない。そういうバックボーンを持つ私というのもあってか、BONDはかなり楽しむことができた。

本作のシナリオにおける特徴はタイトルにもなっている「バディ」だ。二人同士の関係を軸に物語が進んでいくが、それはPV等で強調されるルークとアーロンだけではない。ルークとチェズレイ、アーロンとモクマなど、BONDのメンバーそれぞれのペアについても関係が描かれる。

漫画的演出による地の文の削減の効果もあり、本作はほぼ会話劇で構成される。その中でもキャラクターが2人で会話するシーンが多いことが印象的だ。捜査パートでは捜査対象と聞き手がマッチしている必要がある。そこにも小さなバディ関係があると言っても良いだろう。BONDは大きな集団の融和、団結を描く物語だが、その基本は人と人との1対1の関係だ。会話を通して関係が形作られ、その時の感情についても表情や動作と、会話の節々にてほのめかされる。

ルークは親の遺志を継ぐ、アーロンは姉を救うなど、動機となる出来事、というより動機となる人物が存在する。ここでは動機のバディと呼ぼう。序盤から明らかになるルークやアーロンと違い、モクマやチェズレイの動機のバディは隠されている。最初は本心の見えないキャラだったが、過去が明らかになっていくことにより、キャラクターの立体感が増す。
なんとなく想像できる通り、最初は動機のバディを優先として捜査や潜入が行われてきたが、それが徐々に目の前にいるバディへの想いに移り変わっていく。その過程があまりにも劇的だとクサくなってしまうが、本作は25時間のメインストーリーでスロープを登るように進んでいくので問題はなかった。

ステレオタイプな萌え系美少女ゲームが陥りがちな落とし穴として、あるヒロインルートでは他のヒロインの存在感が薄くなることがある。キャラ萌えという観点では良いのかもしれないが、物語としては浅くなることを私は問題視していた。
BONDはマルチエンディングではなく、そもそも恋愛ゲームではないので、そういう意味での無駄なキャラは存在しない。メインの4人はもちろん、聞き込み対象のキャラの多くが1回だけの登場に終わらず、それ以上の役割がある。

捜査パートと潜入パートで得られる情報は「ちょっと都合が良すぎるのでは?」と思わないでもないが、プレイして手を動かす手間があるので、あまり気にならなかった。プレイ自体の面倒臭さで出来すぎた情報を相殺している、という提言をしてみよう。

メインストーリーを追ってうことに集中していたため、サイドストーリーはあまり見れていないが、本作の魅力である人と人との関係を補強するために重要な要素だということはわかる。無料期間にすべてをプレイできなかったが、かなり気になっている。


以上、美少女ゲーマーが見た バディミッション BONDはこんな感じだ。気になる点はいくつかあったが、全体的に好感触。関係性重視の美少女ゲーマーは満足できる内容だった。ゲームで物語を読むという体験自体の入門としても有効かもしれない。


逆にBONDから美少女ゲームに入ることもできる……かも……しれない……。流石にBOND並みにCGがリッチな作品は滅多にお目にかかれないので、そこはあまり期待しないでほしい。シナリオ・キャラクターを重視しよう。
数多の選択肢からどのような作品をオススメするかは非常に迷うが、魅力的な男キャラがいて、Switchでも遊べる点から「MUSICUS!」を挙げておこう。気になった方は体験版からプレイしてほしい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?