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【1万字鼎談】TikTokは稼げるの?投げ銭のためにアイドル売り?批判=悪?──イマドキの若者、イマドキの音楽について考える

CDの売上低迷が叫ばれる2020年代、誰も予測できなかったコロナ禍により世界は一変。あらゆることのデジタル化が急速に発展し、音楽業界でも、もうちょっとゆっくり進むと思っていたライブ配信や投げ銭文化がすっかり定着した。

そんな中、「最近の音楽って、なんか違和感ない?」と集ったイマドキの20代が3人。今回は、音楽の趣味も育った場所も違う3人が、イマドキの音楽シーンについて徹底的に語り尽くす。

鼎談参加者プロフィール

■くりさきなつ
1996年2月29日生まれ、大阪府出身。
2020年11月頃からTwitterアカウントを開設し、歌っている動画や日々のことをツイートしたり、noteに日記のようなものを書くなどしている。
2022年3月より、団地ノ宮 弥子とのラジオ番組「無尽蔵屋さん」を開始。
■たしなみ
1997年生まれ。ハードロックとメタルとプログレとアニソンを主戦場にしながら漫然と音楽をたしなもうとしている20代男性。音楽業界の先行きが気になる割に中古CD売り場めぐりもやめられないのが最近の悩み。
■安藤さやか(この記事を書いたひと)
1997年生まれ、6月の雨の夜に生まれた音楽ライター。安酒で酔っぱらってアングラ音楽とラヴェルを聴いてはトイレで吐く芸術性の高い日々を送っている。尊敬する人はブライアン・メイとトニー・アイオミ。


1.「再生回数が多い曲=売れてる曲」なの?

安藤:最近思うんですけど、YouTubeで5億回再生とかされてる曲って、SNSに「歌ってみた」とかを投稿したり、カラオケで歌ったりするために中高生が聞きまくってるから伸びてるのであって、売上って面では微妙なんじゃないかなって。

たしなみ:「歌ってみた」の需要・市場ってどれくらいデカいんでしょうね?

くりさき:最近は若い学生もやってたりしますよね。中高生のイメージがあったけど、大学生でも多いですし。

安藤:そういえば、TikTokで総再生回数1億回を超えたある楽曲は、発表当時“サビだけの曲”だったんです。音源をリリースするときに初めてフルができたんですよ。

くりさき&たしなみ:え~っ?!

くりさき:もうホントに必要最低限しか作らないんですね……。

安藤:1アーティスト1曲で流行していく印象もあります。TikTokからの流行だと、曲名とアーティスト名がわからないままの人もいそうです。

くりさき:確かに、現役中学生の妹からよく「(アーティスト名ではなく)TikTokの曲だ!」って聞きます。

たしなみ:一応TikTokでは動画の下部分に曲クレジットが出ますけど……。

安藤:YouTubeのショート動画等に転載されてくる時には曲名が消えてるんですよね。そっちを見てると曲名がわからないっていう。

くりさき:結局、流行に搾取されてるアーティストが出てる感じがします。でも「食いつぶされてもいいから一発当てよう」って人もいますよね。

安藤:その一方で、再生回数が伸びても“お金で買ってない”人が多かったら、アーティストは収入が無いですよね。

たしなみ:「一発当てられるか」と「お金稼げるか」が別になっちゃってる感じ。

くりさき:TikTokって再生回数に応じてお金入るんですか?収益化どうなってるんでしょう?

たしなみ:(TikTokで収益を得る方法は)投げ銭、企業案件、他プラットフォームへの誘導……(YouTubeのように)明確な収益化基準は公開されてないみたいです。

くりさき:じゃあTikTok内で楽曲が1億回使用されてもTikTokから収益は貰えなくて、カラオケで配信されたら、カラオケ印税が入って来るみたいな感じなのかな?それか、(リリースされた音源の)ダウンロード売上とか。

安藤:カラオケ印税って高いんですよね。1回歌われると1円とか。1曲当たれば一生食っていけるって言われてます。

たしなみ:Spotifyで稼ごうと思ったら途方もないですよ。1再生あたり0.2~0.3円くらい。

安藤:YouTubeは1再生0.1円くらいが目安ですが、それだと1億再生で1000万円。この規模のヒット曲にしてはしょっぱいような。

くりさき:無料で応援できるツールが増えると、消費者側がアーティストに直接お金を出すことに抵抗が出ますよね。サブスクやカラオケも“何かを介して”いるじゃないですか。そういう応援の仕方しか知らない人からしたら、グッズ買ったりCD買ったりってハードル高いんじゃないかって思うし。

たしなみ:やっぱり(SNSからヒットしたアーティストも)ライブやフェスの方に軸足置いて行ってる感じしますね。

安藤:ライブももちろんなんですけど、そこで売られてるグッズは良い収入源になるんですよ。

くりさき:あれだけテンションが上がりそうな(ライブの)場にいたらみんな買っちゃいますもん。

たしなみ:邦ロックのファンはタオルとか買って「買い支える」みたいなことしてますね。コロナ禍でライブやフェスに呼ばれなくなっただけでも大分苦しくなって行くんですね。

安藤:最近は配信ライブの投げ銭とかもありますよ。配信ライブ、収益的には結構良いみたいです。

くりさき:配信ライブってセットは小規模でいいし、スタッフも最低限だし……お金だけで言うと良いですよね。

たしなみ:どこにお金払うのかが変わって来た感じします。YouTubeの中でもスパチャ文化って結構盛んじゃないですか。

安藤:でもアーティストの投げ銭はVTuberほどの規模ではないので……。

くりさき:VTuberはファンのお金の使い方が独特ですよね。アーティストは大物になればなるほど「投げ銭してください」って言い辛いじゃないですか。投げ銭ナシにしたいっていう方も多いから、配信ライブで投げ銭が根付かないのかも。

安藤:一方、配信出身の人はバンバン「投げ銭してください!」って言うので、投げ銭で成長してる人もいるんでしょうね。

くりさき:投げ銭こそ、アーティストがアイドルっぽくないと難しくないかなと。CDを買うのとは全然違うベクトルの応援の気持ちじゃないかなって。

安藤:「若い子や可愛い子に(お金を)あげたい」って気持ちも出てくるでしょうし。

くりさき:そこが「本来(アーティストに)見た目は関係ない筈なのに……」ってなったりして、アーティストがアイドル売りするしかなくなっちゃう状況になるように思うんです。

安藤:実はクラシック音楽界でも「アイドル売りしないと食っていけないんじゃないか?」「でもクラシックでアイドル売りは良くないよな」って議論があるんです。

たしなみ:それ(技術力勝負なクラシック界でのアイドル売り)はちょっと……ですよね(笑)

安藤:でも、アイドル売りしてる人が投げ銭貰ってるのに対して、それより遥かに巧い奏者がお金を稼げない、ってなると……「どうしよう?」ってなるのはわかるんですよ。

くりさき:技術に対してお金を払ってる人は少なくなってる感じしますね。

2.アーティストのアイドル化、商業主義は悪?

安藤:昔は友達の間だけで話してた「アーティストへの悪口めいた批判」が、SNSのコメントで直接アーティスト本人に届くようになったのって嫌ですね。

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