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理想的なベスト盤とは?

問題提起

とりあえず、某SNSで拾ったコメントをご覧ください。

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…だそうですよ。私としては再録版には碌なものがないと思っているし、それってそもそもリメイク・アルバムであってベスト盤ではないでしょと思うんですが。そのアーティストへの入り口というベスト盤の役割を放棄したものに何の価値もないかと。

とはいえ…

嫌いなベスト盤というのも確かにあります。前記のコメにもあるように、アーティストのこだわりが全くない、というかレーベルが商売目的「のみ」でリリースしたようなものが嫌い。

1998年に東芝EMIから出たThe Greatestシリーズというのがありまして。EMI100周年記念としていろんなアーティストのベスト盤を出していました。選曲は無難なんですが、ジャケットがとにかくダサくて。

全アーティストが同じデザイン

ソニーのPlaylistシリーズや複数レーベルの共同企画(?)のMillennium Collectionシリーズも同様にジャケットデザインを統一して複数のアーティストのベスト盤を乱造していました。こういうのはモノとしての愛着もなくなりますし、ストリーミングへの流れを加速するだけのように思います。

日本のソニーではなく海外のソニーミュージック主導と思われ。
いろんなレーベルから同一デザインで出ていた。

理想のベスト盤

個人的には、代表曲+新曲収録のスタイルのベスト盤が最良のベスト盤ではないかと思っています。この手のスタイルのベスト盤は、1983年のホール&オーツ「フロム・A・トゥ・ONE」(原題"Rock'n Soul Part 1)が最初じゃないかなと思います(詳しい方、情報お願いします)が、それまでのベスト盤といえば、アルバム未収のシングル曲が売りで、新曲を収録するというのはベスト盤からのシングルカットを前提としていることを意味します。それが売れなかったらベスト盤としては残念なイメージがつくことになるわけで、結構リスキーなやり方だったと思うんですが、ホール&オーツは見事にここに収録された2つの新曲("Say It Isn't So", "Adult Education")をトップ10に送り込みました。実にアッパレです。

ジャケットデザインはアーティスト写真もあれば色違いもあり

同様のコンセプトで続いたのはビリー・ジョエル。85年の「ビリー・ザ・ベスト」(原題"Greatest Hits Vol.Ⅰ&Ⅱ"も2曲の新曲を収録("You're Only Human", "The Night is Still Young" )。ヒットとしては彼にしては微妙だったものの、アルバム自体は大ヒット。

このジャケットはとても好き。

そうそう。ベスト盤に収録された新曲はその後のアーティストの音楽性の変化を示唆しているケースも。そこで思い出したのがエコー&ザ・バニーメンの85年「ダンシング・ホーセズ」(原題"Songs to Learn & Sing”)。そこに収録された新曲"Bring the Dancing Horses"はこれまでの彼らとは打って変わった明るいポップ作で、私はこれをテレビで観てアルバムを借りたんですが、そのほかの曲とのギャップが大き過ぎてハマりませんでした。従来のファンは逆に新曲に対して「なんだこれ?」状態だったでしょうね。その後彼らは一旦活動停止に。

ということで、いまだにハマれていない

変則的なベスト盤

今でこそ新曲をいくつか収録するベスト盤は当たり前になりましたが、95年に半分がベスト、半分が新曲というベスト盤と言えるのか最早わからない画期的なアルバムが登場します。それがマイケル・ジャクソンの「ヒストリー パスト、プレズント・アンド・フューチャー ブック1」。
Epic移籍後の「オフ・ザ・ウォール」から「デンジャラス」までの4枚からベストを組んでいますが、当時のマイケルの勢いはやはり凄まじく、15曲収録されているのにトップ10ヒットである"Off the Wall", "Human Nature", "P.Y.T.", "Smooth Criminal", "In the Closet", "Will You Be There"が未収録。"Dirty Diana"に至っては全米1位なのにオミットされているというもの。
もう1枚には新曲が15曲収録。元々このアルバムは前年に出る予定が、例の児童虐待騒動で先延ばしにされたもので、その時は単純なベスト盤として出る予定だったそう。そのためか騒動時の経験を踏まえた新曲がどれも沈鬱な表情を湛えたものになっていました。

結局、児童虐待は虚言だったのがまた悲しい。

ベスト盤ではありませんが、ライヴ+新曲4曲という変則盤を出したのが、再結成イーグルス。イーグルスといえば、76年の"Their Greatest Hits (1971-1975)"がアメリカだけで3800万枚を売るというとんでもないベスト盤がありますが、これはごく普通のベスト盤で、なんでここまで売れたのか?と思ったら同年末に例の「ホテル・カリフォルニア」が出て、その余波だったんでしょう。彼らは結局その後「ロング・ラン」で一旦解散してしまうわけですが、そのせいで続編ベスト"Eagles Greatest Hits Volume 2"は収録曲が足りず、ライヴ盤から"Seven Bridges Road"(ライヴの声出し用ナンバー)、さらには前のベスト盤の時代の曲である"After the Thrill is Gone"を無理やり収録させるという残念な結果に。それでも1100万枚売れてしまうんだから凄まじい。実はこのベスト盤がイーグルス初体験だったので、こんな微妙なベスト盤にかなり思い入れがあったりします。

なぜか"Please Come Home for Christmas"は未収録だった

収録曲不足といえば前述のビリー・ジョエルも"Greatest Hits Volume Ⅲ"も前作からアルバムが3枚("The Bridge", "Strom Front", "River of Dreams")しか出ていないために曲が足りず、その前の「イノセント・マン」から"An Innocent Man", "Keepin' The Faith"を収録し、さらに微妙な新曲3曲(全てカバー)ということに。前のベスト盤が2300万枚のセールスに対して、こちらはなんとか100万枚で終わってしまいました。

"This Night"や"Leave a Tender Moment Alone"も入れればよかったのに

再録音盤の大傑作

最初に書いた通り、私はリメイクそのものにもかなり懐疑的なんですが、例外的なアルバムを一つ紹介して終わります。
それはクリス・レアの88年「ベスト・オブ・クリス・レア」(原題"New Light Through Old Windows")。新曲は"Working on It"の一曲のみですが、他は代表曲のリメイク。この出来が素晴らしく、オリジナルの良さを活かしつつも、より活き活きとしたニュー・ヴァージョンに生まれ変わっています。中古で安く買えるので、見つけたらぜひ。

特に"Fool"、"Driving Home for Christmas"は素晴らしい。

 

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