【再評価】TOTO「アイソレーション」

大ヒット作「TOTO IV 聖なる剣」

1982年、TOTOは4作目のアルバムで頂点を極めました。1stこそシングルヒットを飛ばしたものの、2nd・3rdと今一つのセールスだったことから、勝負を賭けた一作で、事実このアルバムがヒットしたおかげでTOTOはCBSと再契約を結ぶことができたと彼ら自身が語っています。このヒットのおかげで元々多かったセッションワークも増え、あのマイケル・ジャクソン「スリラー」にも彼らは関与しています。

IV

当然続くアルバムを作るにあたって相当なプレッシャーがあったことでしょう。ところがこの後、彼らは大きな問題に直面することになりました。メイン・ヴォーカリスト、ボビー・キンボールの解雇です。

難航したヴォーカリスト選び

TOTOは元々ボビーに加え、デヴィッド・ペイチ、スティーヴ・ルカサー、スティーヴ・ポーカロもヴォーカルを取れるバンドでしたが、ソウルフルなハイトーンを持ったボビーの存在は大きなものでした。

当時、ボビーは薬の問題（合法ドラッグ）があり、声が出ない状態となったそうで、結局ジェフ・ポーカロがボビーに解雇を言い渡しました。

その後、バンドはペイジズのリチャード・ペイジに参加を求めたものの、リチャードは既にMr.ミスターを始動させることになっていたため断られ、その後ルカサーがエリック・マーティン（のちMr.Big）の加入を試みるものの、最終的にジェフがル・ルーというバンドにいたファーギー・フレデクセンに決定しました。

ファーギーはボビーと比べるとソウルの影響は少なく、よりハードロック的な金属質の声をしていましたが、「聖なる剣」以降の方向性として、アリーナ・ロック（おそらくジャーニーあたりのイメージ）を志向したこともあっての選択だったのでしょう。

「アイソレーション」への低評価とその理由

何とか完成させた「アイソレーション」ですが、日本でも相当なプロモーションが行われたのをよく覚えています。その結果、日本ではよく売れたようですが、アメリカでは前作と比較してかなり残念な結果に。

Isolation

その理由として、まずアルバム全体がハードロック寄りになり、ポップ・アルバムの全バリエーションを網羅したような前作とのギャップの大きさがあったと思われます。事実、ルカサーも「とても『聖なる剣』と同じバンドとは思えない音だ」と後にコメントしたくらい。TOTOにハードロックが合っていなかったかというと決してそんなことはないと思います。ルカサーのギターはオールラウンドなスタイルとはいえ、彼の魅力はハードロック的アプローチにあったと思われます。また収録曲の出来も悪いわけではなく、「エンドレス」やタイトル曲などのドラマチックな展開は後にTOTOファンからも再評価を受けています。しかし路線変更のギャップの大きさが影響したことは確かで、前作でいえば「ウェイティング・フォー・ユア・ラヴ」のようなソウル風味や「ロザーナ」のハーフタイムシャッフル、「メイク・ビリーヴ」のように1stの「ホールド・ザ・ライン」の延長上にあるポップスが姿を消したためにバラエティ感は皆無でした。

加えてもう一つの問題がシングルカットにあったと考えられます。1stシングルは「ストレンジャー・イン・タウン」。当初は「エンドレス」が候補だったらしいのですが、レコード会社が「アフリカ」により近い（曲調は全然違うが、ペイチ→ボビーと繋がるヴォーカルが、ペイチ→ファーギー＆バッキングでボビーと繋がる所に類似性があると考えられた）とされてこの曲がカット。ただシングル曲としてはやや地味で米30位どまりに。

迷走は2ndシングル以降も続きます。2ndはペイチ作の軽快なポップチューン「ホリーアンナ」。実は日本でも人気の高い曲なんですが、そもそもこの曲自体前作の作風に近い曲でアルバムの中ではかなり浮いており、アルバムを代表する曲とは言い難いところが（米71位）。

3rdシングルはルカサー作のバラッド「ハウ・ダズ・イット・フィール」で、これも前作のルカサー作「ホールド・ユー・バック」を踏襲したカットと言えそうですが、残念ながら曲としては「ホールド・ユー・バック」の方が上でチャートインも逃しました。

この後はイギリスのみで「エンドレス」をカットしましたがヒットせず。「エンジェル・ドント・クライ」もMVは作ったもののシングルカットはせず。

今思えば「エンドレス」「アイソレーション」あたりからシングルカットしておけば…とも。アルバム全体としては私は「聖なる剣」の次くらいに好きなんですが。当時の評価とも違い、ある意味とてもTOTOらしさが出た丁寧に作られたハードロックスタイルのアルバムだと思います。ファーギーも結局本作だけで脱退しますが、いいヴォーカリストでした。