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高橋克彦作品紹介(伝奇SF「刻謎宮」)

 高橋克彦「刻謎宮」(ときめいきゅう)は、不思議な現象を起こします。
 私が読みたくなった時に限って、さんざん愛読してきた徳間文庫版が姿をくらますのです。
 探し回って「ここかー!」と、大抵は灯台下暗しなデスク周りにあるという謎現象です。
 そして読み出したら止まらなくなる、ある意味で魔導書なのかもしれません。

ときめき

 ときめき、という言葉からタイトルがつけられたという「刻謎宮」。物語は幕末の横浜居留地をシュリーマンが訪れるところから始まります。
 あの「古代への情熱」の、トロイアやミケーネを発掘したシュリーマンです。
 そのシュリーマンが、なんと勝海舟と出会います。
 更には、勝海舟を探っていた沖田総司とも遭遇します。
 1カメ長回しの如く流れるように展開していく冒頭に、何度読んでいても魅了されてしまうのです。まさしく「ときめく」オープニングです。

 物語は沖田総司を軸に進みます。
 彼が最期を迎え、SF的な復活再生を遂げます。
 憧れの刀を手に入れ、同じように復活再生した異国の仲間を得て、ギリシァ神話の世界へ向かいます。歴史の歪みを直すための戦いの背後に様々な謎がちりばめられていて、気になって仕方なくてどんどん読み進めてしまいます。

日本刀

 この作品、沖田が振るう日本刀「正宗」の描写がとても丁寧で、大好きです。
 この作品のおかげで、私は日本刀の構造や機能美を知ることができました。
 昔から時代劇好きではありましたが、テレビ的な見た目だけではなく、日本刀の戦い方の道理や合理性という背景を、高橋克彦氏に教えてもらったという印象です。

子母澤寛

 そして、沖田総司。
 彼について描かれた作品は数多あれど、私が初めて沖田総司に関する物語を読んだのは、この「刻謎宮」でした。
 作中で、高橋克彦氏は子母澤寛『新選組始末記』を引用しています。
 『新選組始末記』は聞き書きをまとめたものということで、ほぼ事実というか史実の記録です。
 歴史「小説」で描かれる沖田を後にいくつか読みましたが、「刻謎宮」で『新選組始末記』に接したことで、印象がブレずに「刻謎宮沖田総司がやっぱり好きだなー」と思えるのではないかという気がしています。
 事実は事実として示しつつ、そこにSF的な味付けをして沖田総司を復活再生してしまう高橋克彦氏の筆力がたまりません!

 とにかく。
 やっぱり高橋克彦作品は面白いです。


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