見出し画像

役者はなぜ面白くなかった芝居をSNSで褒めるのか

#中村ナツ子の深淵 #散文

※1年前にメンバーシップの掲示板機能に公開した文章に加筆修正したものです。

以前Twitterで、観劇好きの方が「役者はなぜ面白くなかった芝居をSNSで褒めるのか」と批判しているのを見た。
その方は、「役者が褒めているから行ってみたら全然面白くなかった!」ということに怒っていた。

何を面白いと感じるのかは人それぞれの感性なので、その役者が心から面白かったと言っている芝居がその人にとって合わなかったという可能性も無くはないことには言及しておく。
とは言え私も、面白くないな、虚無芝居だなと感じた芝居の褒めどころを何とか探し出してツイートすることはある。

ただ、それには明確にいくつかの理由があるのだ。

まず、批判を発信しない最も大きな理由は、役者が公に酷評するとその芝居の客を減らしかねないからだ。
演劇関係者が酷評している芝居を観に行ってみようと思う奇特な人は殆どいないだろう。
何なら「気になってたけど役者が酷評しているということはヤバいんだな、やめておこう」と、客になるはずだった人のチケット購入機会を潰すことにもなりかねない。

私がつまらないと感じたとしても、それを発信することでその芝居の客を減らす権利は無いのだ。
だから、批判は発信しない。
どうしても伝えておきたい、伝えておくべきだと思った負の意見は、その劇団内部にだけ伝わればいいのでアンケートに書く。

それでは、何故つまらなかった芝居を公の場でわざわざ褒めるのか。
役者が褒めていたら間違えて行ってしまうじゃないか。
批判する権利が無いのであれば、何も言わなければいい。
いわゆる虚無芝居にお客が金を落としてしまうリスクを負わせることには何とも思わないのか、と思う方もあるだろう。

そういう意見も御尤もだが、私が虚無芝居を褒めるのは、役者仲間のためを思ってという理由がある。
役者は舞台に出演しているからには、舞台に立って演技をするだけでなく、集客も仕事のうちである。
それはノルマの有無を問わずだ。

しかし、虚無芝居に間違えて出てしまうケースがあるのだ。
オファーを受ける際は、(少なくとも私が親交のある役者は大概)慎重にその芝居が自分のお客様に観ていただく価値のあるものかどうかを精査してから出演を決めている。
が、いざ稽古が始まってみると、あらゆる角度から「こ、こんなはずでは」という事態が起こることが儘あるのだ。
また、最初から嫌な予感がしつつも人付き合いなどの様々な理由で断れなかったという場合もあるだろう(私は今のところ無い。全て自分の意思で出ている)。

そういう事情があるのを知っているからこそ、「観てきました!」「今この劇場でこの役者がこの日までこういう芝居をやっているよ」ということを私は発信する。
それで観に行く人がいるかどうかは分からないが、微力でも宣伝に力を添えられたらいいなと思うからだ。

しかし、本当に面白いと思った芝居の感想ツイートとあまりにも熱量がかけ離れているので、これを見て劇場に足を運ぶ人がいるなどとは基本的に思っていない。
じゃあ何も言わなきゃいいじゃんと思われるかもしれないが、そこは「ナツ子さん観に来てくれたのに何も感想ツイートしてくれてないな、つまんなかったのかな」などと仲間に余計な気を揉ませたくないからである。

なお、最後に私の観劇感想ツイートの中で「本当は面白くなかった時」の見分け方を書いておく。

ここから先は

930字
この記事のみ ¥ 100

いただいたサポートは全ておかっぱ頭の維持費に使わせていただきます