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アラスカスキー山行記 7話-3:今はまだ挑めない斜面

 2018年3月21日。予定通り、朝早くから強風の中を、ステアウェイ・シューツの見学に出かけた。谷間の登山道に付いたスキーの踏み跡を辿っていくと、雪上車の道に出て、さらにその上を進んでいった。
 2時間の登りで、岩壁の正面を高台から望む位置に着いたが、猛烈な風だったので、少しだけ写真を撮ってから引き返した。近づいて見ると、壁としか思えなかったものが斜面として認識できるようにはなったが、いかにも雪崩を引き起こしそうなそれらの谷筋に、その時の自分に挑戦できそうだとは、やはり思えなかった。
 帰り道は最後までガリガリに硬い斜面の滑走で、雪質が移り変わる前日の斜面よりかは、いくらか滑りやすかった。スキーの滑走跡のように見える凹凸が残っていて、数日前にはやわらかい雪の斜面だったことがうかがえた。

 車まで戻ってきてスキーを脱ぐと、右側のバインディングのつま先にあるべきプラスチックのプレートが、割れてなくなってしまっていた。これでバインディングが左右とも故障したことになった。
 前日おかしくなったゴーグルといい、装備が次々に壊れていく。それ以前まで、装備は新しいものに目移りせずに、壊れるまで使い終わってから買い替えたいという気持ちが強かったが、壊れそうになっているのを見極めるようにしなければいけないらしいと学んだのだった。

鏡越しに遠のく景色

 2日間あまりにも強風に叩かれ続けて、翌日もここ2日のような強風だったら、オデッセイに行ってもつまらないだろうという話になった。そこで急遽、トンプソンパスを1日早く離れることにして、代わりに翌日は、今度こそハッチャーパスに行くことにした。数日前に行こうとしたものの、途中で気が変わって引き返した場所だ。
 6時間かけてアンカレッジに戻ってから、さらに1時間半ほど北に向かう長距離ドライブになる。この日の下山が早かったこともあり、すぐに出発すればその日のうちに、ハッチャーパスの駐車場まで辿り着けそうだった。

 風からは逃れることになったが、天気は最高に晴れていた。トンプソンパスを発ってからしばらくは、車のルームミラーにさっきまでいた山々が映っていて、前と後ろを交互に見るのに忙しかった。
 途中、グレンアーレン(Glenallen)という町の、ハブ・オブ・アラスカというガソリンスタンドに併設する店で、アラスカの形をしたピンバッチと、例によって変な飲み物を買った。今回はクランベリー風味の緑茶を選んだが、眠気覚しには期待外れの薄味だった。
 さすがに疲れてきていて、カーオーディオに流していたスマホの音楽を口ずさむ声量が、しだいに大きくなっていった。

7話完、8話に続く

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