見出し画像

【掌編】都市伝説と女

びゅう、と風が吹いた。

4月1日、晴れ。こんな日は、窓を開けて本を眺める。そう、眺めるだけ。

風がページをめくる。
そのページには、

『ねえ、元気?』

などと調子を伺う言葉が綴られていた。

元気じゃないよ、

なんて口にしてみれば、また、風。

『笑顔が見たい』
『好きだよ』

そして眺めていた本を思い出す。
わたしは恋愛小説など、読んではいなかったはずだ

本を一度閉じて、タイトルを見やる。

『忘れて』

裏表紙には、

『最後になんて、しちゃだめだよ』

こうして都市伝説はたまに私に語りかけてくるのだ。そして忘れさせてなど、くれない。いや、忘れることなど、できない。忘れてなど、やるものか。

あれは、アンタと、私だけの・・・

「また来なさいよ」

一言、誰にも聞こえないように、小さく呟けば本をぱたりと表表紙に戻す。すると先程のメッセージは消え、難しそうな羅列に戻っていた。

今日は、アンタの命日。

覚えてるよ、ちゃんと。私の最後の恋人。
町外れに作った小さなお墓。

「あとで行くから」

寂しくなって、風に化けるなんて。
相変わらずバカなのね。

ーーーーうん、アンタの命日は、いつだって

ばかみたいに晴れるのよね。


-エイプリル-
都市伝説と女

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?