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サウナ残機ゼロ

先日、あんな日記を書いた直後に自分の不注意で大きめの怪我をしてしまって、2週間ほどサウナにいけなくなってしまった。

怪我をした瞬間は「あっ、やばい」と感じながらもすぐには痛みや感覚がやって来ず、不注意で怪我をしてしまって周りに迷惑をかけることへの申し訳なさ、皮がべろんと剥がれた見た目がグロテスクでそれを見られることの恥ずかしさ、見せてしまうことへの申し訳なさで頭がぐるぐるした。
大丈夫です、大丈夫ですすみませんほんとに、とあわあわしていたけれど、連れや周りの方が俊敏にうごいてくださって、迷惑なことしやがってこの女め、というのを仮に思っていたとしても顔に出さずにいてくれて、はあ、なんて良い人たちなんだろう、にんげんが出来たひとたちだ……と感動した。その節は本当にありがとうございました。

連れがわたしの携帯で「#7119」にすぐ電話をしてくれた。救急電話相談というやつで、救急車を呼ぶか迷う、もしくは呼ぶほどでもないけれど救急の処置が必要なときに電話で相談に乗ってくれる窓口らしい。

電話口の女性に年齢や性別、状況を説明すると、病院にいくまでの処置方法と、土日でも救急用にあいている近隣の病院を紹介してくれた。土地勘のない山の方にいたので、これがかなり助かった。
連れはわたしの携帯のメモ帳をひらいて病院の名前やら電話番号をメモしていたのだが、わたしが最後にひらいていたのがとんでもないメモ(岡村靖幸ちゃんの「家庭教師」という曲のなかの、エッチな台詞を書き起こしたもの。家庭教師先の女子大生に、手相を見てあげる、といって両手を出させてそのまま自分のナニを握らせてコトに持ち込む内容)だったので、それどころじゃないんだけどそれを見られたに違いないことがあまりにも恥ずかしくてそわそわした。
しかし本当に、岡村ちゃんは良い。

現地の病院でいったん手当てをしてもらい、翌日また自宅近くの病院に行くことになった。連れは病院まで車で送ってくれたうえに診察室までついてきて状況説明をしてくれて、世の中にはこんなに優しい人間がいるのか、と消毒液と塗り薬がめちゃくちゃしみるのに耐えながら、あらためて感動していた。

ふと、23歳くらいの頃付き合っていた男のことを思い出す。
相手の自宅で行為中に急な腹の激痛に見舞われて、行為を中断しタクシーを呼んで、夜間救急に駆け込んだ。
原因不明でエコーやCTなどいろんな検査をした結果、卵巣の血管がやぶれて子宮に血がたまっていることがわかった。直前にしていた行為が原因なのはあきらかだったけれど、それをひとりで聞かされる恥ずかしさはうら若き乙女のこころに深い傷をのこした。たまった血は自然に子宮に吸収されるので投薬や手術などはなく、1週間ほど仕事を休んで療養することになった。

歩くだけでもお腹やお尻がひどく痛んだ。なぜお尻かというと、子宮は横から見ると肛門の真上にあるので、子宮に溜まった血のせいで肛門が圧迫されて痛むらしかった。自宅から歩いて数分の総合病院に通ったけれど、とにかく歩くのがつらくて、毎回タクシーで通院していた。
当時は兄と暮らしていたけれど、ひとりで痛みに耐えてひとりで通院するのは23歳のうら若き乙女にとってはとてもつらくて、寂しくて、なによりもその男との行為が原因でこんなことになっているのに、ひとりで通院しなければならないことが(誰が知ることもないけれど)恥ずかしくて辛かった。その男とは、1年もせずに別れた。

実家を離れて、11年が経つ。
風邪をひいたときも子宮に血がたまったときも胃潰瘍になったときも鬱になったときも怪我をしたときも、いつもひとりだった。心細くてもそれは当たり前のことだったけれど、その場に誰かがいる、ついてきてくれる、というのは、迷惑をかけて申し訳ない気持ちにはなるけれど、こんなにも安心するものなんだな……としみじみ、そんなやさしい人間と知り合えたことも含め、嬉しく思うのだった。

しかし今回は本当に、各方面にご迷惑をおかけしました……。


翌日の日曜日、土日も診療している高円寺の病院に行き、あらためて処置をしてもらった。今後は毎日じぶんで薬を塗ったりガーゼをかえたりして、皮膚も2週間ほどで回復するとのことだった。
処置をしてくれた看護師の方は、西か南のなまりがつよい女性だった。長くてコシのありそうな黒髪を前髪ごとまとめて、はっきりとした目鼻立ちはなんとなく暑いくにの生まれのように感じた。
「あのう、サウナが好きなんですけど。サウナというか、公衆浴場には、どれくらいで行けるようになりますか。」
処置を終えた看護師の方におずおずとそう尋ねると、サウナが好き、というところに興味をもったらしく、汗かくのがすきなの?水風呂って入るの?どれくらいの頻度で行ってるの?と、サウナがすきなんですよ、とひとに言った時に聞かれることトップ10くらいの質問を矢継ぎ早に投げられた。初めて訪れる病院で緊張していたせいか、だいすきなサウナの話ができることが嬉しくて、いつもは鬱陶しくて適当にはぐらかすことも、(忙しい看護師さんの時間を取ってはいけないから手短かに)ひとつひとつ丁寧に答えた。
看護師さんはわたしのサウナへの熱意を理解してくれたらしく、笑いながら先生に聞きに行ってくれた。前述のとおり皮膚が再生するのに2週間ほどかかるので、2週間後には入れるようになりますよ、とのことだった。

週4回は通っていたのに、急に2週間サウナにいけなくなるのはつらい。
でもこの先、たとえばサウナのない国への旅行や妊娠、出産でサウナにしばらく行けなくなる、というのは充分にあり得ることで、その練習と思ってがんばろう。

禁煙したときは、友人に「お腹に赤ちゃんがいると思ってがんばれ」と言われて、妊娠したときの練習だ、くらいの気持ちで挑んだらなんとなく成功したし、水風呂のないサウナは「いつかフィンランドに行ったときのための練習」と思うと外気浴でのクールダウンのみでたのしめるようになった。なにごとも、練習だ、くらいのゆるい気持ちでいることがわたしには合ってるのかもしれない。

いつか誰かがTwitterで言っていた、「人間はつねに残機ゼロ」というのを思い出す。
怪我にかぎらず、事故や病気に対しても、人間のからだはあまりにも脆い。今回は2週間のサウ禁で済んだけれど、いつ永遠にサウナに入れなくなるとも限らない。
事故や怪我、病気、もちろん避けられないこともあるけれど、つねに残機ゼロというのを念頭において、用心して生きること、いつまでも健康でいること。これがなによりも、サウナをたのしむのに大切なことにちがいない。

新調したSauna Healthcare Clubのパーカーのそでに、「健康×サウナ」の刺繍がかがやいて見える。
そのとおりなんだよなあ。