見出し画像

自費出版で小説を出すときの費用と注意点⑤ 1000部印刷して、実売が100部以下の本も

文芸書を出している総合出版社で、自費出版も手掛けている出版社や、自費出版をメインとしている出版社のプロフィールを紹介してきた。それぞれのホームページもチェックしたが、自費出版で本を出す場合の仕組みや費用などで、分からない点があった。

標準的な費用を一覧表で掲載している出版社もあるが、印刷部数が1000部までのケースばかりで、それ以上の印刷部数を希望した場合、いくらになるのか知りたかったからだ。2000部、3000部を印刷すると、紙代やインク代が上乗せされるものの、量産効果で1冊当りの単価が下がる。刷り部数が多くなれば、書店に配本される冊数が増え、読者に手に取ってもらう機会も増すのでは、と考えた。

それで、総合出版社と自費出版中心の出版社の計5社に、質問書を送付した。各社にヒアリングした内容は以下の通り。

小説を自費出版したいと考えており、自費出版の費用や書店での販売について、お聞かせください。約20万字、400字詰原稿用紙換算で約600枚の小説を書いており、四六判の本にすると、350ページぐらいになる見込みです。

・自費出版するときの原稿チェック、校正・校閲の体制はどうなっているのでしょうか。通常の出版で著名な作家が本を出す場合と自費出版では、校正・校閲に違いがありますか。

・四六判で350ページの本(小説)を自費出版すれば、どれぐらいの費用がかかりますか。1000部、2000部、3000部、4000部、5000部を制作した場合の費用は?

・書店での販売を希望する場合、販売方法、販売支援体制はどうなっていますか。流通経費は?

・本の価格は、誰がどのように決めるのでしょうか。

・自費出版本では、出版社名の表記はどうなりますか。

・1000部印刷した場合、書店への配本はどれぐらいで、何店ほどの書店に並ぶのですか。書店の店頭に置かれる期間は? 販売期間を延長する場合、販売経費はどれぐらいかかりますか。

・売れた部数の売上収入は、どのように配分されるのでしょうか。重版を希望する場合の仕組みと費用、収益の配分は?

・自費出版の小説は、一般的に(平均して)どれぐらい売れるのですか。

・自費出版した本は、貴社のホームページで、どのように紹介されるのですか。HP以外で、広告・宣伝したい場合、どれぐらいの費用がかかりますか。商業出版の小説と同じ新聞紙面での宣伝は可能ですか。

・売れなかった本の在庫はどうなるのですか。書籍の引き取り費用、廃棄費用(断裁など)は?

・自費出版をする際の注意点、トラブルを回避するための心得、対応策は?

各出版社にメールで問い合わせたが、多くの出版社から丁寧な回答をいただき、資料が送られてきた出版社もある。

商業出版と自費出版との高い壁


総合出版社の自費出版部門からの回答、アドバイスは似たような内容だった。多くの一般読者に読んでもらうのは大変という、自費出版の厳しい現実を伝えるものだった。各出版社の回答をまとめて、自費出版に関する情報を紹介したい。 

制作費や広告宣伝費をすべて出版社が負担し、売れる見込みを前提として書籍作りをする「商業出版」と、個人の経験を振り返る自分史や、俳句や短歌といった作品集など、記念としての出版が中心の「自費出版」では目的が違っている。そのことを著者は理解する必要がある。

小説の自費出版も引き受けているが、一般に向けた販売を考える場合、自費出版では大きな成果は期待できない。作品の出来、不出来に関係なく、自費出版の本は売れないという現実を教えられた。

書き上げた小説を、広く一般の読者に読んでもらうには、自費出版ではない方策を模索したほうがいいのでは、と忠告を受けた。公募型の文学賞で受賞するのが、近道ではないかということだった。

これは、文芸雑誌の編集者や編集長から、以前、聞いたメッセージと同じだった。「受賞が近道ではないから、自費出版を考えているのに」という思いが募った。

本の制作費は、20万字程度であれば300万円程度の費用がかかり、イラストや写真を希望する場合、点数や入れ方によって加算され、書籍の判型や造本(上製か並製か)によっても、価格は変わってくる。

制作費用には、組版、製版、印刷、製本までの製造費に加えて、編集費、初校と再校の2度の校閲費、装幀・デザイン費などが含まれている。校正・校閲は、商業出版と同等のクオリティで行なわれる。

書店流通を希望する場合、販売委託費がかかり、50万円ほどの負担増になる。販売委託費とは、新刊を発売した際の委託配本費、注文出庫や返品対応など、出版社の倉庫での在庫管理費、販売に関する費用を指す。

販売委託期間は1年、販売委託部数は1000部以内(出版社によっては2000部のケースも)が条件となっている。印刷部数が1000部から2000部に2倍に増えても、制作費用が2倍になるわけではなく、リーズナブルな価格アップを設定している。

自費出版の場合、書店での販売はオプションという位置付けで、出版社側が主体となって、販売促進、宣伝・広報などのプロモーション活動は行なっていない。ホームページに掲載されている概算価格表が1000部までとなっているのは、2000~5000部の制作を基本的には受けていないためだ。企業経営者が自伝的小説を書いて、大量に配布するなどの場合は別途相談となる。

書店にどれぐらい配本するかは、出版社によって異なる。全国の主要都市の書店やオンライン書店に、委託部数の5~6割を配本する出版社もあれば、約9割を配本する出版社もある。

本のカバーや奥付に入るクレジットは、商業出版と区別するため、発行元と発売元を別々にしている。本の価格設定は、最終的に著者が決めている。

新聞広告を出すことはもちろん可能。全国紙の「サンヤツ」広告で60万~140万円程度かかる。「サンヤツ」とは、朝刊1面の下にある出版広告のことで、タテが3段分、ヨコが8分の1のため、3段8分の1を略してサンヤツと呼ぶ。費用対効果を考えると、本の宣伝効果はあまり期待できない。

印税は出版社によって、支払うシステムやパーセンテージがまちまちで、重版になるまで印税が出ないケースもある。販売期間(1年のことが多い)終了後は、売上金(本の販売価格の一定割合×実売数)と在庫を著者側に引き渡す。在庫処理(断裁あるいは引き渡し)にかかる費用は、著者側の負担となる。

自費出版での印刷部数の少なさに、正直驚いた。出版社に勤務しているとき、単行本の配本部数や販売価格を決める会議に参加したことがある。4000部や5000部を超える印刷部数で、値付けを検討していた。印刷部数と実売率で、収益がどうなるか、収益予測データを見ながら、価格や発行部数を決定していた。

会議に出席するのは、書籍編集部の幹部と担当編集者、販売の責任者や広告宣伝部の責任者など。専門性が高く、ページ数が多くて高価になる場合は、2000部とか3000部に印刷部数を絞り込むこともある。いずれにしても、1000部以下というのは極めてまれであった。

ゼネコン(総合建設業)について本を書く機会があったが、バブル崩壊後のゼネコン業界の厳しい現実をレポートした単行本(共著)は2万部売れており、「失われた20年」と言われていた時代に「復活へ向けて動き出すニッポン」をテーマにしたムックも数万部売れたので、数千冊の本が売れるのでは、と期待していた。

だが、1000部印刷した自費出版本で、実際に売れたのは100部以下のケースもあるそうだ。今回、問い合わせた出版社ではないが、電子書籍で小説を自費出版して、9部しか売れなかったケースもあったという。350万~400万円ほどの巨費を投資して、書店での販売部数が100部というのは辛い。(敬称略)

アマゾンのキンドル出版で、2023年8月、ペーパーバックと電子書籍の小説が発売されました。「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、お時間のある方はお読みください。
『黒い糸とマンティスの斧』 前原進之介著

この連載記事は、以下のような流れになっています。
1 小説を書きたいと思い立った「いきさつ」
2 どうしたら小説が書けるようになるの?
3 小説を上手く書くために小説講座を探そう 
4 どの文学賞を受賞すると作家になれるの?
5 文学賞に落選。心機一転再スタートを切る
6 多くの人が小説家を名乗れる時代になった
7 POD(プリント・オン・デマンド)での出版を探る
8 自費出版で小説を出すときの費用と注意点


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?