札幌銭湯スタンプラリー2023のこと(その29・千成湯)
高野 寛というミュージシャンがいる。大好きだ。
スーパーウルトラバカ売れ有名人ではないが、日本のミュージックシーンにおける超重要人物である。
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一番のヒットは「虹の都へ」という曲だが、その次に発表した「ベステンダンク」も名曲だ。
「ベステンダンク」の曲中には「虹の都へは 遠すぎるようだ」という歌詞が出てくる。
自身の前作タイトルを盛り込んでいるのである(ちなみに『虹の都へ』の歌詞に『虹の都』というワードは出てこない。それも含めてカッコいい)。
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いつだったか、高野さんのライブに出かけた。池袋だったように記憶している。その日も「ベステンダンク」が演奏された。
「虹の都へは あと少しなんだ」
「遠すぎるようだ」を「あと少しなんだ」に変えていた。
高野さんは「『遠すぎるようだ』と歌っていたらいつまでも到達できないので」といった趣旨の解説をTwitterだかnoteだかでされていた。
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ついにスタンプラリーのフィニッシュを迎える。あと1つ。
遠すぎると思われたその瞬間まで、あと少しなんだ。
おっさんの道楽と虹の都を一緒にするのはどうかと思うが、私はその瞬間を目指してきた。
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札幌銭湯スタンプラリー2023、29軒目は千成湯さんへ。
外勤直帰ならぬ外勤直湯でお邪魔した。
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特に順番を決めず、その日の気分で巡ってきたが、最後が千成湯になったのはよかった。
常連とは到底いえないものの、何度かお邪魔しているのでリラックスした状態でフィニッシュを迎えられる。
これがはじめましての湯だったら、初訪問の緊張感とフィニッシュの高揚感で気がふれていたかもしれない。
なにより千成湯という屋号がよい。千を成すだなんて、長かったスタンプラリーの終わりにぴったりではないか。
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いつも通り、まず店先の灰皿で一服。ただ気分はいつもと違い、最後のリングへ向かうボクサーのようだった。
高野 寛に代わって谷村 新司が唄いださんとした。
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やがてリングと拍手の渦が、もとい、番台と湯船の熱が一人の男を飲み込んでいった。
「You're King of Kings」
ささやきながらスタンプ用紙を差し出した。
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ついに終わった。
完遂。
コンプリート。
パーペキ。
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私は生まれたときから投げ出してばかりだった。
「デスピサロが強い!」という理由でドラクエⅣを投げ出し、
「マジ何言ってるかわかんねー!」という理由で精神分析入門を上巻の冒頭6ページで投げ出し、
「隣に座った奴が面白くない!」という理由で飲み会を開始15分で投げ出し、
「なんか思ってたのと違う!」という理由でシン・仮面ライダーを1時間弱で投げ出し、
言葉にできない色々な理由でいくらかの人間関係を投げ出した。
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そんな私が、やったのだ。
こんなにめでたいことがあろうか。9月28日は祝日でよい。早く国会で話し合ってほしい。
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当たり前だが、千成湯はいつもの千成湯だった。
「俺はやったんだぜ!ミスターパーフェクトと呼んでくれい!」という得意な気持ちは一瞬にして垢とともに流され、湯に浸かると「あー気持ちいい。あ一明日仕事行きたくねぇ」とミスター普通に戻っていた。
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札幌の夜はすっかり肌寒い。
意識したわけではないが、東豊湯と鷹乃湯の前を通って我が家に向かった。
道中、キレイなお姉さんが綺麗な月を写真に収めていた。
「お互い、よい1日だったな!」
口には出さなかった。
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「この声は小さすぎて 君の元までは届かない たとえそれを知っていても 叫ばずにいられない ベステンダンク」
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私の声は小さいし、届かない。
たとえそれを知っていても、お邪魔した全ての銭湯にベステンダンクと叫ばずにいられない。
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ベステンダンク、ドイツ語で「最高の感謝」って意味らしいぜ。
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