小沢健二 '24ツアー Monochromatiqueと大星湯のこと(その2)
小沢健二のコンサートを満喫し倒し、NHKホールから渋谷駅へ向かう道すがら、チケットを取ってくれた友人が私に尋ねた。
「いつまでも続くと思う瞬間、ある?」
もちろん何の前段もなく、唐突にそんな質問をぶつけてきたわけではない(だとしたらヤバい)。
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NHKホールで小沢くんは「さよならなんて云えないよ」を唄った。
その曲には
「左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる 僕は思う!この瞬間は続くと!いつまでも」
という有名な一節がある。
彼女の質問は、それを踏まえてのものだ。
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古くからの友人なのに、いや、古くからの友人だからこそ、その問いに正対するのは少々恥ずかしかった。
脳内で
「この瞬間、いつまでも続くんだろうなぁ。どんな瞬間?」
と大喜利に変換し、面白回答でごまかそうと思ったが、頭に浮かんだ答えが信じられないくらいの下ネタだったので(しかも面白くない)、何も言えなくなった。
しかし、困ったなぁという思いとは裏腹に
「お風呂入ったときかな。大きいお風呂」
と口が勝手に動いた。我ながら、よい答えである。
だが、彼女は否定も肯定もせず、苦く笑っていたような気がする。友愛の修辞法は難しい。
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そんな会話があったからというわけではないが、ホテルに荷物を置き、大星湯さんへ向かった。
ホテルから徒歩数分の距離、ド平日の22時過ぎでも元気に営業中。ありがたい。
ところで、銭湯の屋号に「星」は珍しいのではないだろうか。星の字が入るとファンタジー感が醸されてよい。聖闘士星矢とか星誕期とか。
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工事中。つまり、まだまだ永く営業してやるぜという意思があることの証左だ。嬉しいね。
「高齢者見守りあんしん大星湯」
五七五、俳句である。季語は「高齢者」だろうか。
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フロントのお姉さまにお金を支払い、脱衣場へ。
フロントにも脱衣場にも、店主のお孫さんと思しき少女の写真が貼られていた。ロケ番組でも通行人の顔にモザイクがかかる昨今、堂々たるものだ。愛といわずして何といおう。
遠い遠い未来、お孫さんがこの湯を継ぐ日が来るのかもしれない。
「愛すべき生まれて育ってくサークル」というフレーズを口ずさみながら浴場へ。
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丁寧かつスピーディに洗髪、洗身を済ませ、迷わずジェットバスへ飛び込んだ。
「この瞬間は続くと!いつまでも」
やはりそう思わずにはいられなかった。その夜は特に。
大星湯さんのジェットバスは、肩だけでなく足裏にも噴射がぶち当たる仕様だった。唄い踊り、清耗した身体には大変ありがたかった。life is comin' back.
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浴後、伊良コーラを購入。
「いらコーラ」と読んだが「いよしコーラ」が正解らしい。伊良部のせいで間違えた。深爪は自分のせい。
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東新宿の暗い路地を歩きながら、思い出したり考えたりした。
飛行機で座席を間違えていた老人について。
昼食のゴーゴーカレーについて。
「サマージャム'95」について。
「ある光」について。
公園通りについて。
明日行く藝大の「大吉原展」について。
明後日からの仕事について。
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右へ路地を曲がるとホテルが見えてきた。
2度と戻らない美しい日にいることなんて、本当はわかっている。
それでも、東新宿の夜に叫んだ。
「僕は思う!この瞬間は続くと!いつまでも」
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ま、ロマンチックなのは変わらないんだけどね。
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