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VS 福の湯(あつ湯五番勝負第2戦)

新琴似。あまりになじみがない。
琴似が西区なので新琴似も西区と誤解されがちだが、北区である。
日本プロレスと新日本プロレスがそうであるように、琴似と新琴似は全くの別物だ。
なお、「おばけのQ太郎」と「新おばけのQ太郎」はほとんど一緒なので、この限りではない。



あつ湯五番勝負2戦目の相手は新琴似にある「福の湯」とした。 他の選択肢が定休日だったりしたためで、積極的な理由でチョイスしたわけではない。なんか申し訳ないが、やるからには真剣だ。

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祝日だったのでドニチカキップを購入した。ドニチカキップとは、土日祝のみ販売される地下鉄乗り放題のスーパー切符である。こんなに強力なカードはドニチカキップかワイルドドロー4くらいのものだろう。

地下鉄南北線・麻生駅で下車。
「麻生」は「あさぶ」と読む。たまに「あざぶ」と読まれているが、これは間違いだ。それは東京のなんかおしゃれなところである。
調べたわけではないが、昔は麻がたくさん生えていたに違いない。そんな古の風景に思いを馳せながら、「福の湯」の前に観光気分でとある場所を訪ねた。

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こんなことでもなければ来ることはなかっただろう。開館期間、開館日、開館時間が絶妙すぎる。ナイスタイミングだった。

私が札幌で都市生活を謳歌できているのは、究極的にいえば屯田兵のおかげだ。感謝しなくてはならない。もし私が何かで優勝し「今の気持ちをまず誰に伝えたいですか?」と問われたら「屯田兵です」と答えたい。

屯田兵は「とんでんへい」という響きのリズミカルさが先行しがちだ。「墾田永年私財法」と同じである。しかし屯田兵の実際はそんな楽し気なものではなく、過酷だったに違いない。学びを得るためにこちらを訪問した。

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絶賛工事中につき風情もへったくれもあったもんじゃなかったが、中には入れた。詳細は省くが、色々お勉強させていただいた。改めて屯田兵に感謝。

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近くにあった石碑である。「拓魂」と刻まれている。もちろん「フロンティアスピリッツ」と読むのだろう。「侍魂」で「サムライスピリッツ」と同じ仕組みだ。

観光気分はここまでにして、決戦の地へと向かった。

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看板が神々しい。初めて日本武道館に行ったとき、「館道武」という例の赤い看板に感動したものだが、「福の湯」の看板も引けをとらない。

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たったこれだけでここが何なのかを理解させる説得力と機能性。画数にすれば4画しかない。「フロ」も4画だが、技術面を考慮すると温泉マークに分があるだろう。



「福の湯」はいわゆる番台スタイルだ。多くの銭湯がフロントスタイルを採用している昨今、これは貴重だろう。
念のため、番台スタイルとフロントスタイルの違いはこうだ。

私が伝えたいのは、美術の成績がずっと2だったことではない。番台スタイルとフロントスタイルの違いだ。
ご覧の通り、番台スタイルだと男女が別の入口から施設へ入ることになる。当たり前だが、出る時も然りだ。浴後、休憩スペースでキャッキャ言いながらアイスやら何やらを舐め合うことなど叶わない。
いずれにせよ、私には全く関係のないことだ。

祝日の15時。男湯には4、5名の先客。そして全員が顔見知りのようだった。完全アウェイである。

洗身後、まずは左手奥のラドン湯へ。 ボコボコと絶え間なく泡が浮かんできている。この泡がラドンなのだろうか。スーハーと深めに呼吸をしてラドンを体内に取り込むと、ヤニで真っ黒の肺が一瞬でピンク色になった(効果には個人差があります)

ラドン後はスチームサウナへ。福の湯のサウナはスチームしかないのだが、これだけで十分と思わせられるパワフルさだった。 強力な蒸気の中、熱さで顔が上気した(大満足)

サウナと水風呂を数セットこなし、いよいよメインイベントといきたいところだったが、その前に薬湯へ。 事前調査で「主浴槽はめちゃくちゃ熱いが、薬湯もそこそこ熱い」との情報を得ていたのだ。

…うん、確かにそこそこ熱い。これはもう「そこそこ」としか言いようがない。辞書に
「そこそこ【副】福の湯にある薬湯の熱さをちょうど表す語」
とあってもよいくらいだ。
そこそこ熱い薬湯もそこそこに、いざ主浴槽へ。

ゆっくり足先をイン。 
あれ?熱くなくない?いや熱いのは熱いけど、思ってたほど熱くなくない? 
薬湯での下茹で効果だろうか。これは余裕とばかりに身体を沈めていく。

…いやいや、やっぱ熱くなくないことはない 。少なくとも「そこそこ」ではない。普通に熱い。
熱々の主浴槽はバイブラこそないが、一角にジェットバスがしつらえられているため水流が発生している。これが身体を撫でるたびに「ムグファッ」と声が漏れてしまう。 

バイブラのような派手さはないが、水面下で静かにこちらを削る熟練のテクニックが憎い。バイブラがファイヤーバードスプラッシュだとしたら、水流熱々攻撃はリストロックといったところだ。

テクニシャンの妙技に苦悶しつつ、ふと見上げると富士山のペンキ絵。

熱い。

なるほど。
いつか必ず起こると言われていたが、富士山が今まさに噴火したのだ。札幌市北区で富士山が火を噴いた。

番台スタイルのため脱衣場は休憩所を兼ねている。当然ながら男、というかオッサンとジーサンしかいない。
男と女を隔てるのは高い壁、いや、高い鏡だ。こんなに大きな鏡は初めて見たかもしれない。素っ裸のオッサン、ジーサン達が鏡の中にも蠢いている。テレビでは相撲中継。
一面肌色だ。

汗が引いたところでいそいそと着衣し、下足箱へ。

「ムグファッ」

足に刺激が走った。
視線を落とすと、下足箱の手前に何故か足ツボマットが敷いてあった。
完全に罠である。

火照った身体(主に足の裏)を夜風で冷ましつつ、ほてほてと麻生駅へ。
住宅街を横切りながら思う。「あつ湯」とは何なのか。

いや、「あつ湯」が「熱いお湯」なのはわかっている。そこまでバカではない。

例えば「強い人」とひと口にいっても、身体が強い人、心が強い人、我が強い人など様々だろう。

例えば「うまい棒」とひと口にいっても、サラミ味、やさいサ(中略)こ焼き味など様々だろう。

「熱いお湯」も様々だ。
十把一絡げに「あつ湯」だと思っていた私にとって、これは大きな発見である。



先日の「鷹乃湯」を思い出す。
「グツグツ」というオノマトペが似合うバイブラ全開の湯船に「熱め」という堂々たる掲示。
胸を借りるつもりで挑んだ私だったが、案の定喰らわされ、トばされた。

今日の「福の湯」を思い出す。
「シーン」というオノマトペが似合う静かな湯船に、心落ち着く富士山のペンキ絵。余裕を持って挑んだ私だったが、隙を突いて喰らわされ、トばされた。

「うまい棒」とひと口にいっても、コーンポ(中略)んかつソース味など様々だ。
「あつ湯」も同じなのだ。「味」が違うのだ。実際に飲んだという話ではもちろんない。

次は果たして何味か。楽しみで仕方がない。

#札幌 #銭湯

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